学年一位 4(里美)
端末の時間は5時を表示している。
デジタルは24時間表記だから、17時の表示がされていない限り、当然今は朝と云う事になる。
何を当たり前の事を云っているかというと、本当ならまだベットの中にいる時間に俺は、和風美女と二人きりで、広場に立っていると云う夢のような状況に戸惑っていると伝えたかったのだ。
「なあ、何で朝っぱらこんな事になってんだろうな」
「何を仰ってますの?もう朝日も昇っているのですから、活動するのに問題はありませんわ」
否、健全な十代ならこの時間は寝てる時間だな。しかも、コイツらが深夜まで馬鹿騒ぎをしていた上に、結局帰らずベットを占拠した為、殆ど寝てない。ようやくソファで、うつらうつらしたところ里美に起こされてここにいる。
「それに誰も見ていないこの時間でないと、確認出来ない事がありますので」
「確認ねぇ… 」
いつものように表情からは、何も読めないが声のトーンは真剣そのものだ。
「ええ、真人さん。あなたの本気を見せて貰えませんか?」
本物の小太刀を抜き身にして、里美は俺を見据えた。
「俺の本気は見てきたはずだろ」
「真人さん、私は本気ですよ。それとも、言い方を変えましょうか。隠してる力がありますよね。それを見せて下さい」
「見たいのは、魔法の力じゃねぇよな」
使えない力を、見せる事は出来ないからな。
「はい、この一ヶ月でずっと不思議に思ってましたの。貴方の動きは素人より少しだけマシなだけなのに、急所には攻撃を受けない。
気付いていましたでしょ、私が何度か本気で打ち込んでいた事に」
まあ、たまに大怪我しかねない攻撃があったんでな。
「それは、私の攻撃が見えていると云う事ですよね。確かに飛翔で、スピード慣れしていらっしゃる真人さんなら、おかしくはないと考えられますが、急所攻撃のみ選らんで避けるのは、やっぱり不自然ですわ」
そりゃ、そうだ… と、なるとやっぱ見せなきゃ納得はせんな。出来れば使いたくないのだが、仕方がない。
「里美、1つ訂正いいか。これは別に隠した訳じゃない。ただ手加減が出来ないだけなんだ。だから、怪我すんじゃねぇぞ」
あまり知られていない事だが、精霊使いが契約する精霊にはランクがある。そして、大半の精霊使いはランクCの精霊と契約を結ぶ。だが、俺が契約した精霊「ジン」はランクA、風術士の中で神城信司しか持たない名持ちの精霊だ。
そして、ランクAの精霊にしか使えない術が幾つかある。それがこれから見せる術だ。
「風精霊譲渡」
「えっ、きゃああ~」
可愛らしい悲鳴をあげて、里美はふっ飛ぶ。本人は何が起こったのか、分からなかったのだろう。吹き飛んだ先で呆然としていた。
風精霊譲渡は、術のイメージで云えば、里美の〈神速〉に似ている。精霊が持つ力を譲り受け肉体強化をする術だ。だが、その威力は桁違いである。自分の限界を遥かに超える力を引き出し、合わせて肉体の保護もする。つまり、使っても自分の体を傷つける事がないと云う、反則に近い術だ。だがその分、制御が非常に難しく、精神力も多く使う。
それは、自分の精神力を殆ど使わない精霊術の中では異例と云え、大魔術を使うのと同じくらい精神力を使う。だから、おいそれ使う訳にはいかない術だった。
ただそれは、術として発動させた場合だ。微妙な効果ではあるが、この術を使えるものは発動させなくても、望んだ時に恩恵を受ける事が出来る。だから、俺は里美の攻撃をギリギリで交わす事が出来たのだ。
「大丈夫か? 」
ゆっくりと近付き、手を伸ばす。里美は目を見開き俺の顔を見ている。
「うん、やっぱお前は目を開けてる方が美人だな」
「なっ! 」
我に帰ったのか、何気ない俺の一言に顔を真っ赤に染めた。
「な、なななに、を、突然…」
「いや、思ったままだが、それより立てるか? 」
「はひっ! 」
何かもの凄く動揺しているな… これはこれで面白いのだが、このままでいる訳にもいかない。
「ほれ」
差し出した手を戻す事も出来ず、掴むように促すと、やっと里美は俺の手を掴んで立ち上がる。
「今のは何ですか? 」
「今の? 術か、それとも俺の一言か? 」
「もう、知りません! 」
里美は掴んだ手を放すと、ぷいっとソッポを向く。
これはこれでアリだな。ちょっとからかい過ぎたようだが…
「あれは、風術の1つだよ。ただランクAの術だけどな」
「ランクA! あんな隠し球を持っていて、何故今まで使わなかったのですか? 」
土術士の里美には、一言で通じるから楽でいい。
「使いたくなかったと云う事もあるが、使う機会がなかったと云うのが、ホントのトコだな」
人間相手にアレを使うのは危険過ぎるし、キマイラ相手に使っても倒し切るのは無理だった。
「これを使えば勝てるかも知れません」
「本当にそう思うか? 」
「あ、制御出来ないのでしたね」
当たりだ。今の俺では直線の攻撃しか出来ない。これでは如何に強い術でも、予知と体術を持つ星野には交わされるだろう。
「でも、お陰で光は射したよ。もしかすると、何とかなるかもしれない」
「そうですか。でしたら良かったです。私はお役に立てたのですね」
ぷっ、思わず吹き出しそうになる。里美らしくないが、コイツは昨夜の誰が役立たずかと云う会話を気にしていたのだ。
「ああ、充分役立ってくれたよ。否、最初から助けてくれている。感謝しきれないぐらいだ」
「真人さん… でしたら、1つだけご褒美をいただけませんか? 」
何だ突然…
「褒美? 」
「はい、実は昨日殆ど寝てないもので、ちょっと疲れてしまいました。だから、おんぶして下さい」
「おんぶ? 」
「はい。お姫様だっこも憧れますが、真人さんが恥ずかしがりますので、諦めました」
否、否、否、おんぶでも充分、恥ずかしいぞ。
「何なら足を挫いたフリをしますから… それでもダメですか? 」
上目遣いで懇願する里美。反則だろ、コレ… 誰も断れねぇよ。
「ったく、今回だけだからな」
「はい」
満面の笑みで、俺の背中に掴まる。
「まさか、お前がこんな事言い出すとはな」
「デレる時はこんなモノですわ」
何なんだよ。調子狂うわ…
「真人さん。私は体術ぐらいでしか、貴方のお役に立てません。だから、これからも貴方の修行のお手伝いをさせて下さい」
「昨日、俺の意見など聞かずに時間を割り振ってただろう。何を今更」
「そうでしたね。でも、はっきり分かったんです。私はあのお二方に負けたくありません。だから、勝つ為に最善の事をしていきますわ」
その時、俺の頬に柔らかいものが触れた。
「な、な、な… 」
「フフフ、おんぶのお礼ですわ」
全く免疫力のない俺は、どうしたらいいか分からなくなった。
里美はそんな俺を後ろから、ぎゅっと抱きしめる。そして、それは里美の部屋の前まで続いたのだった。




