学年一位 3
「えーと、第一回新生真人さんの部屋で行う対策会議~ですわ」
『…………』
突然の里美の狂行に俺達は絶句した。
里美は里美で云った後、アタフタしている。
「何がしたいんだ、お前…」
「ですから、対策会議を」
「それは分かった。聞きたいのは、タイトルコールの必要があったのかと云う事なんだが」
帰り際、里美は俺に勝ち目がないと云うと、その後は一言も話さなかった。そして、この部屋に帰ってきてからも、何かを考えては首を振り、自問自答を繰り返していた。
瑞穂もカスミも口を挟まず、見守っていたところの狂行である。吃驚して何も云えないでいた。
「私分かったんです。どうしたら真人さんが、星野さんに勝てるようになるのか、ずっと考えていました」
「星野?」
それが学年一位なのか?
「〈千里眼〉星野未起也。一年生にして二つ名持ち。今年の中じゃダントツの天才ね」
「うん、桁違いの雰囲気を持ってる人だった」
カスミと瑞穂にそこまで云わすか…けど、学年二位が立てたら対策なら望みはある。
「里美。俺はどうすればいい?」
「いえですから、対策会議を致しましょうと申し上げたのですわ」
は、い?
「ちょ、里美。アンタ、今分かったって」
「はい、私一人では何をどうしても、真人さんを勝たせる方法は、思い付きませんでした」
分かったのはそっちかよ。
「でも里美さん。それは今の段階での話でしょ?」
「いいえ、この先どう云う風に能力の底上げをすれば、三ヶ月後に勝てるかを検討しましたが、どうやっても届かないのです」
思い出しながら里美は、入学式の出来事を話始めた。
俺達が速水とやり合っていた時、他の場所で里美は戦っていた。相手は二年ではなく、同学年の一位、星野未起也だった。
初めて星野を見た時、里美の中で決して目立つ存在ではなかった。しかし、いざ対峙してみると、全てを見透かされているかのような気持ちになり、勝負を急がされてしまった。
カスミは〈神速〉を使い、一瞬で星野との間合いを詰める。そして、その流れからの〈陽炎〉を放つ。手加減はない。普通なら、殺してしまってもおかしくない一撃だった。
だが、里美の小太刀は空を舞う。星野はたった一歩後に下がっただけで、必殺の一撃をいなした。
後は一方的な展開だった。星野の攻撃は、的確に里美を捕らえるのに対して、里美の攻撃は全て交わされる。
能力を使っての攻撃ではなく素手での攻撃だったので、大ダメージは受けないが、徐々に削られていく体力とプライド。肉体はまだ動くのに、心が折られたのは初めての経験だった。
「あの後で、星野さんの能力が予知である事を知りました。だから始めに感じた直感は間違ってなかったのです。
ただ、それが分かっていたとしても、やっぱり一撃も与えられなかったでしょう。あの人の体術はそのレベルがありました」
はぁ、こりゃあまた厄介なヤツがいたもんだ。つまり、俺が星野に攻撃を当てられる可能性があるとすれば、逃げ道がない程の広範囲風術しかない。
しかし、広範囲になればなるほど攻撃力は落ちる。
「私は、真人さんの持っている術を全て知っている訳ではありません。ですから、次は私と同等の体術を身に付けたと仮定して考えました」
「それでも遠く及ばないって事ね」
「はい」
カスミの言葉に頷く里美。
「じゃあ真人に勝ち目があるとしたら、風術しかないって事?」
「否、それも無理だな。瑞穂、お前は俺の持ち駒大体把握してるだろ。その中から、星野に勝てる戦術を導けるか?」
う~んと唸り、瑞穂は頭の中に、俺の手持ちの術を一つづつ思い浮かべているようだ。そして同時に、里美から聞いた星野の能力を当てはめる。
しばらく、それを繰り返して諦めたように溜め息をついた。
「ダメ、私じゃ思い付かない」
「そりゃ、そうだろうな」
自分の術を知り尽くしている俺が、全く戦術を組めないのだから、瑞穂に分かるはずがない。
予知に対抗する手段は2つ、〈予知をさせない事〉と〈絶対に避けられない状況を作る事〉だ。
前者に関しては、妨害する方法が分からない以上、対抗策としては成り立たない。と、なると後者だが…
広域型の術を複数回に分けて、当て続けるのは至難の技だが、可能性で云えばこちらになる。しかし、しっくり来ない。
この堂々巡りを繰り返す。
あかん、さっきまでの里美の気持ちが良く分かるわ…
「あのさ、私思うんだけど、今の真人じゃどうやっても勝てないんでしょ。だったら今、するべき事は能力の底上げじゃないの」
「でも、それでは行き当たりばったりになりますわ」
「いいじゃない、指し示す光が見えないのは、私達が光の届くところにいないだけよ。光を見る為には兎に角、前に進むしかない。今はその時なのよ」
確かにカスミの云う通り、ここで悶々としているよりは建設的だ。
「それにもう1つ、みんな今回は、あのジジイのシナリオじゃない事に気付いてる?」
「そう云えば、真人さんを学園一位にすると仰っていましたわ」
「でも、ステップアップと云う事なら、おかしくないわ」
里美の言葉に瑞穂が答える。
「いいえ、あのジジイが真人を退学にすると言い出した事が、もう既にシナリオ外になるのよ。
真人を魔物以上の存在にする。
アイツはそう云ったわ。でも、真人が学年一位になれなければ、真人を使って魔物以上の存在を作るに変わる。ここまで、結果が違えばそれはもう修正とは云えないでしょ」
「そうか、真人が勝てばシナリオ通りになり、負ければ新しいシナリオに移行する。でも、理事長がそんなシナリオを始めから作るはずがない。だから、この選択をしたと云う事は当初の予定にはなかった」
「ざっつ、らいっ! 少なくても、今はジジイの掌から出る大きなチャンスになってるはず。悲観ばかりじゃないわ」
その通りだ。だが、俺の中にじいちゃんの言葉が甦る。俺がこの学園に来た本当の理由… じいちゃんの言葉が真実なら、この御社の選択は有り得る事なのだ。
それでも、まだ何も分かっていない今、カスミの意見を否定すべきではない。
「正直驚きました。まさかカスミさんが、そんな思考に至る事が出来るなんて… 単なるツンデレ補填キャラじゃなかったのですね」
言葉使いは丁寧だが、悪意に満ち溢れている。
「な、そんな事云ったら、瑞穂なんて幼馴染み属性以外、何の役にも立たないエセヒロインじゃない」
「ちょ、カスミ! 何で私を巻き込むのよ。しかも役立たずって、酷くない」
おいおい、話がぶっ飛び始めてるぞ。
「まあまあ、役立たずはお二人共なのですから、言い争いは見苦しいですわよ」
「あ~ら里美さん。言ってくれるわね。アンタだって、戦いを取ったら毒舌しか残らないくせに」
あ、それ云うかカスミ… それを云っちゃあ駄目だろ。
「おほほ、毒舌でも残るだけ、貴女達よりよろしくはありません事」
流石里美と云いたいところだが、眉間にシワがよっているぞ。
「二人共止めなさいよ。みっともない」
おお、ここで瑞穂の新スキル〈委員長〉が目覚めたか… なんて、云ってる場合じゃない。あの二人があの程度の言葉で止まる訳がないのだ。
このままでは間違いなく、とばっちりが俺の身に振りかかる。ここで正しい選択は… 逃げる、だ。
一先ず亮のトコにでも、一時避難するとしよう。
こそこそと部屋を出ようとした矢先、俺は腕を掴まれた。
「ひっ!」
「何処へ行かれますの真人さん」
後にいるのは間違いなく怪異だ。振り向いたら憑殺される。
振り返る事を拒否した俺は、ズルズルと引きずられて、部屋の中心まで戻された。そして、その後の惨状は思い出したくない程、俺の中に傷を残したのだった。




