学年一位 2
「久しぶりだね、真人君」
「はあ」
はぁ~、何やってんだ俺。
「んっ、どうしたんだ一体?」
「はあ」
「瑞穂ちゃん」
何でもうちょい機転を利かせらんなかったんだ。
「精神的敗北を味わったようですよ」
「負けてなんかないやい…あっ」
「…随分、余裕だね」
あら…なんかご機嫌斜めですね。ここまで不機嫌な御社は初めて見る。だったらこの流れに乗ってみるか。
「否、ある意味余裕ないんですけど」
「なるほど、君の考えは良く分かったよ」
ありゃ、やぶ蛇だったか?
「正直、今の君とは長く話をしたくないのでね。単刀直入に話してもらえるかな」
いいや、これは面白いな。御社が主語もなくただ話せと云う。如何にもの物言いで、主導権を取っていると思っているようだが、これなら対等に渡り合えるかもしれない。
「何から話しましょうか?」
「そうだね。では、キマイラを倒した時、君に何があったのか、かな」
「キマイラに止めを刺したのは、貴方ですよ」
「単刀直入にと云ったはずだが」
御社が再び不快感を露にする。やはり、御社は自分の欠点に気付いていない。だがよく考えてみれば、それもその筈だ。何故なら、この欠点は前からあったものではない。長い時間を掛けて、御社と周りの人間が培ってしまったものなのだから。
「そう云われましても、俺にも何が起こったのかサッパリです。まあ、意識こそありましたけど、実際は体が勝手に動いてました。
そうですね、速水…先輩の時と同じ感覚でした」
一応、嘘ではない。このレベルの人間に嘘をつけば、看破されたときに真実が露になる。だから、絶対に嘘はつけない。
「そうか、では同行していた君達は、何か気付いた事はないか?」
より情報を求めやすい方向へ、シフトチェンジする御社。だがそれも予想済みだ。
「さあ、確かに違和感は感じましたが、私達に気付けた事となると、お伝え出来る事はごさいませんわ。ねぇ?」
「そうね。それに何かあったとしても、私が理事長に報告する義理はないです」
里美の返答に合わせて、カスミがばっさりと拒否の意思をみせる。
「義理はなくとも、義務はあるよ。本多君」
「あら、そうですか。でも、私も里美…いえ、山辺さんと同じですね」
「そうか、瑞穂ちゃんと赤屋君はどうだい?」
動きが早い。となると、この流れは御社のシナリオなのだろう。つまり、この先の質問に御社の真意がある。
「俺は、コイツに興味がないのでね。理事長が求める気付きなんてありませんよ」
「私は以前と同じ印象を受けましたが、今回はあの時程には恐ろしさを感じませんでしたね」
瑞穂まで知らないと云えば、それは有り得ない事だ。だから、情報を小出しにする。少しでも、里美達が真実を云っているかも、と考えてくれれば儲けものだ。
「ふむ、質問を変えようか。君達は今日までの間に、何も検討してこなかったのかい?」
やはり来たか…この質問こそ御社の真意だ。けど、これに対しては俺達には秘策がある。
「…あれ?」
里美が不思議な顔をした。否、里美だけではない。赤屋を除く全員が同じような顔をしているはずだ。確定出来ないのは、俺だけが芝居をしているからだ。表情を作る練習はしたが上手く出来ているだろか。
「そう云えば、何でこんな事検討しなかったのかしら?」
「そうですわね。まず確認すべき事のようですが…」
カスミと里美は考え込んでいる。
「真人の怪我が治ってからとかにして、そのまま忘れちゃったとか?」
「否、そんなんじゃなかっただろ」
瑞穂の言葉をわざと否定する。これで御社も俺達から、情報を引き出す事は出来ないと、理解したはずだ。
〈記憶操作〉
昔、俺もやられたらしい。水使いの能力だ。だが、記憶操作と云う大仰な名前の割りに、実際はキーワードを設定し、記憶の一部を封印する術に過ぎない。本当に記憶操作をするのであれば、長い時間を掛けて封印した記憶の上書きをしなければならない。しかし、今回はそこまでしなくてもよい。ただ、聞いた話を忘れてしまえば良かったのだ。
だから、今回のキーワードは「御社と逢っているときだけ記憶を封印する」と云うものだった。
キーワードがバレてしまえば、御社にはやりようがあるだろう。だが、俺がこの状況を見ればこう考える。
コイツ等は完全に記憶を封印した、と。
何故なら、指示をしている俺も記憶がないように振る舞っているからだ。
元々、指示者まで記憶を消す確率は5分である。情報漏洩の危険を無くすなら消す方が良い。だが、無くした事による危険も当然あるのだから、結局は状況次第で選択は変わる。
勿論、御社がこの場だけで決め付けるような事はないだろうが、記憶を消したよりにミスリードをしておけば、監視が緩む時間は短くなるのだ。
「やってくれたね、真人君」
「何の事でしょうか?」
そして、今回ではっきり分かった御社の弱点。それは、思い通りにならない事を極端に嫌うと云う事だ。
分かったのは、俺が赤屋にヘコまされて、御社の前に立ちながら、ヤツの存在を御座なりにした時の態度だった。
普通なら取るに足らない事、さっと流して自分のシナリオ通りに進めればいい。だが、御社のシナリオに自分の前に立った人間が自分を蔑ろにすると云う事は書かれていない。数十年もそんな事がなかったのだから、そう云う発想をする事が出来なくなっているのだ。
思い通り進まない苛立ちで、今の御社は普通の人より多少キレる男になっている。これでは前もって色々策を練っていた、俺達から情報を引き出す事は出来ない。情報を纏めさせる為に与えた二ヶ月が、仇になったと云う事だ。
「良く分かったよ、今回の面談が私にとってなんのメリットもないと云う事がね。
しかし、君みたいな子供にしてやられるとは思わなかったな」
「仰っている意味が良く分かりませんね」
飽くまでも記憶がない自分を貫き通す。
「否、それはいい。だか、君には次のステップに進んで貰う必要があるね」
「次のステップですか…」
おいでなさったな。
「そうだ、君には学年一位になってもらう。そして、なれなかった場合は、君は退学とさせてもらうよ」
「なっ!」
この学園に退学処分は原則ない、あるとしたらそれは死亡した場合のみだ。
「なに、死ねと云う事ではないよ。ただ魔法を解明する為に、君にはモルモットとして、一生を過ごして貰おうと云う事だ。
選ばれた能力を持ちながら、それを活かせないのなら、仕方ない処置だよ。そして、そうすると生徒としては置いておけないからね」
ざけんなよ…こう云う報復でくるか。だが、こう云った以上コイツは必ずやる。
「どうすれば一位になれる?」
明確な条件を知っておかなければ、罠に嵌められ兼ねない。
「簡単だよ。現在の一位と戦って勝てばいい。期間はそうだな、次のプレート配付までの三ヶ月間でどうだい?」
「何度戦っても良いと?」
「構わないよ。ただ今のままでは、絶対に真人君では勝てない。それは山辺君に聞くと良いだろう」
こうして俺達は、御社の屋敷を後にした。そして、その帰り道に里美は云ったのだ。
御社の云う通り、このままでは絶対に勝てない、と。




