学年一位 1
また、ここに来ちまったな。ホントに後、何回来ればいいのだろうか。
御社の屋敷の前で、俺は溜め息を吐く。
そして、左肩の調子を確かめる為に、2、3回肩を回した。ゴリっと音が鳴り、違和感はまだあるが痛みはない。これならばそれ程、影響はないだろう。
「真人、大丈夫?」
「ああ」
俺が肩を回しているのを見ていた瑞穂は、心配そうな顔をしている。
「万が一、何かと戦う事になっても、怪我の影響はないと断言致しますわ」
この一ヶ月間、俺をみっちり鍛えていた里美から、太鼓判を押されると、瑞穂は安心したようだった。しかし、俺の返事はスルーかよ。
「大丈夫ですよ。姉さんは、この俺が何が起こっても護りますから」
「ちょ、赤屋君そう云うの止めて…もうっ」
そして、この一ヶ月間でもっとも変わったのは、これだろう。赤屋が瑞穂に惚れ込んだのだ。
キマイラの一件後、何だかんだ云っては瑞穂に絡んでいたのは知っていたが、数日前にプレートバトルを行ったらしい。その結果、瑞穂は赤屋を圧倒した。
ただ、この結果は大して驚く事ではない。赤屋の属性が火である以上、水とは相性が最悪に悪い。よほど、実力差がなければ赤屋の能力は、全て瑞穂に封じられる。その上で近接戦闘になれば、見かけ倒し筋肉ゴリラの赤屋では、勝てる道理がないのだ。
「ま、問題は何で赤屋が勝負を挑んだかって事だかな」
「真人、気になるでしょ」
小悪魔的表情でカスミは云う。
「事情がまるで分からんからな」
「アンタが里美ばっかり構って、瑞穂を蔑ろにしてるのが悪いのよ」
悪いも何もこの一ヶ月のスケジュールは、話してあっただろうが…
「大体、怪我してんのに体術修行なんて、アホのする事よ。アンタも瑞穂と魔術を覚えるべきだったんじゃないの?」
「おい、後衛を増やしても仕方ないと、云ったのはお前だぞ」
「だって、あんな付ききりになるなんて…」
モゴモゴと口籠りそしてキレる。
「兎に角、ほったらかしにしていた真人が悪いのよ!分かった!」
「わかっ、分かったから…俺が悪かった、すまん」
「ふん、悪いと思ってないのに、謝る男って最低ね」
どないせぇちゅうんだ…カスミの怒りの方向が、どんどんズレていっている。これ以上、この話を続けると、どんなとばっちりを受けるか分からん。
「そ、そう云えば、新しいプレートが出たみたいだな」
カスミだけでなく、この場に居る全員に向けて云う。すると、赤屋が激しく反応した。
「あぁ、それは俺に対する当て付けか、このヘタれナンバーがっ!」
クッククク…当たり前じゃ、ボケ。こちとら、テメーのみ転落してんのを知ってるから、わざわざ話振ってんだよ。
「あ、そうか、カスミが3位で瑞穂が4位だったけ。すると、お強い炎使い様は、前人未到の永遠の5位落ちですか?それはそれは」
さあ怒れ!手を出して来たら、ボコって俺のウサをテメーで晴らしてやる。
「…小さいですわね」
「馬鹿じゃないの」
里美とカスミの呟きが痛い…だが、こんなトコで心折れる訳にはいかんのじゃ。
「ふんっ、カスには構ってらんねえな」
「えっ?」
ちょ、ちょっと赤屋さん。ここは乗ってこなければダメなところでしょ。いきなり大人になっちゃいけませんって…
「大体、俺は5位だ。姉さんが4位ならそれは当然。文句などないわ」
「は?」
じゃあ落ちたのは3位だったヤツって事か。
「落ちたのは、八神輪音さんよ。事情は良く分からないけど、私達は1度も逢った事がないの。この意味分かるでしょ」
瑞穂の説明で俺は理解した。
そりぁ、落ちてもおかしくない。だが…
この学園に単位はないが、それでも出席する事だけは義務づけられている。引き篭もったり、逃亡を阻止する為だ。それは上位プレート所持者でも同じ事である。
そして、1プレート持ちは、一同に集められクラス分けされている。つまり、出席していれば、瑞穂達が1度も逢った事がないはずがないのだ。
「逃亡…」
一番高い確率の答えを俺は呟いた。だが、誰も答えない。皆が同じ答えを持っているからだろう。
逃亡はここで、最も禁忌な行為だ。それを犯した者は、どんな懲罰を受けるか分からない。人の心配をしている場合ではないが、それでもやはり気になってしまう。
「で、ここでプレートネタを出したテメーは、どう話を纏めるつもりだ?」
「…あ」
どないしょ、シリアスで決めてそのままスルーするつもりだったが…
赤屋が乗って来ない以上、俺の行為はとんだピエロだ。それを続ける訳にも行かない。
「さあ、どうするんだ?」
「あ、う…」
だらだらと汗が流れる。もう初夏だもんな~、暑くなって来る訳だ。
…ハッ、いかん現実逃避している場合ではない。大体、まだ梅雨入りもしてないぞ。って、また…
クソっ、まさか赤屋如き筋肉ゴリラに追い込まれるとは…
「無様ですわね」
「アホ」
「自業自得ね」
里美、カスミ、瑞穂からは、既に見捨てられているようだ。
「い、いや、そーか、お前は5位残りしたか、良かったな~」
「話纏まってねぇな、おい」
ぐわしと俺の顔を掴み、ギリギリとこめかみの辺りを締め上げる。
痛いっす。マジ痛いっす…
「すんません。オチない話と云う事で一つ。オチてないだけに…」
「上手くねぇよ。まぁ、これ以上テメーに関わっていりと、俺の格がオチるからな。この辺で勘弁してやるよ」
ぽいっと放り投げられる俺…ヤバい、マジ泣きたい。人間としてゴリラに初めて負けた。
御社との対面の前に俺は自信喪失した。そして、
「姉さ~ん」
赤屋は尻尾を振って瑞穂に着いて行く。
絶望に駈られる俺に、誰も救いの手を伸ばしてはくれなかった。
新章に入ります。取り合えずこの章と合わせて、後2章を予定しています。読んで下さっている方、もう少しお付き合いください。




