修練
「剣の戻しが遅いですわ」
俺の振り被った模擬刀の一撃を楽々交わし、里美は小太刀の柄を腹部にめり込ませる。
「ぐふっ!ゲホっ、ゲホっ…」
マジ消えたぞ、今…咳き込み込みながら、折れそうになる膝を必死で支える。
これまで味方として、里美の動きを見ていたが、相対するとここまで違うものなのか…
「行きますよ、真人さん」
「えっ!」
待て待て、まだ咳きが止まってない。
「先に忠告致しますね。次は顎か首を狙います。つまり、まともに受ければ気絶しますので、よく動きを見て避けて下さいませ」
だから見えなかったんだって…だけどな、狙いを宣言されて退く訳には行かないわな。
こいや、こらぁっ!!
「がっ!きゅう…」
瞬殺されましたわ…ええ、そりぁまあ一瞬で…
顎か首を狙うと云われ、正面から突っ込んでくる。当然、注意を顔付近に向けてしまい。ボディがガラ空きになった。そこをあっさりと突かれ、まず一撃、そして前屈みになった瞬間に首に柄を落とされてゲームオーバーだ。
次に気付いた時は、里美に活を入れられた後だった。
「しくしくしく…情けねぇ」
「そんな事ありませんわ。まあ、体術においてはその辺のカスと大差ありませんけどね」
キツイ…この人。
「でも、真人さんの武器は体術じゃありませんし、それに体術もまだまだ伸びますわ」
「俺がか?自覚が沸かねぇな」
こてんぱんにされて、そう云われてもな。
「貴方はさっきの私の行動を卑怯とは、考えていませんよね」
「は、ああ、だって狙うとは言ったが、他を攻撃しないとは言ってないからな。全然卑怯な事ないだろ」
俺の言葉に里美はクスリと笑みを浮かべる。
「それですよ、真人さん。貴方の武器は物事を正しく判断する能力です。これを持たない者は、さっきみたいな行動に出会うと罵るんです。そして、説明を受けても納得しない方は、それ以上伸びない。
真人さんは二階級特進です。必ず伸びますわ」
うわ、俺、殉職しちゃったよ…だが、俺はこの一週間で里美の特性を正しく理解していた。
この女性は紛う事なき真性のドSであり、天然ぶる事はあるがそれは嘘だ。つまり、今の殉職発言は完全に理解して言った言葉である。そして、俺がそれを理解している事を知って楽しんでいる。
「何か言いたそうですわね」
「否、別に…」
「ちっ」
ホント、達悪ぃ…一年の校舎脇にある広場で、地面にそのまま座りながら、俺達は話を続けた。
俺達がこんな事を始めたのは、キマイラの一件から一ヶ月経った頃だった。
あの一件で分かった事は、俺が弱いと云う事だ。能力云々ではなく、体術や武術関連の意味でだが…
里美から云わせれば、今の俺の体捌きは街中でデカイ顔出来る程度らしい。
確かに、武術では俺は瑞穂にも及ばない。今後の事を考えると、戦闘力アップは必須であり、てっとり早く強くなるには武術力をあげる事だと判断した。
そこで、達人クラスである里美に頼んで了承を得た訳だが、肩の骨折の影響と実力差がある為、あまり効果が上がっている感はなかった。
「焦っていますか?」
「ま、後三週間もすれば、何かしら仕掛けてくるだろうからな。少しでも、強くなっておきたいと思ってはいるかな」
「そんなに早くは強くなりませんよ」
里美は俺を諭すように云う。元よりそんなに焦っていた訳ではないが、そう云って貰えるのは有りがたかった。
「お、神城ここに居たか」
「亮、珍しいな。この時間だと、魔術具精製の講義だろ」
「否、今日は基本作成の実技だからな。貰うもん貰ったから、バックれた」
「いいのか、そんな事で…」
まあ、既に魔術具を作っているコイツの事だから、今更基本もないのかもしれんが…
「いいんだよ。そんな事より、ホレ」
ぽいっと、何かを放り投げる亮。俺はそれを受け止めた。
「あれ、この腕輪」
「一ヶ月前にお前に壊されたヤツだよ。一から作り直したから、こんなに時間が掛かっちまった」
一からって、修理しなかったのか。
「しかし、どうやったらあんな壊れ方するんだよ。術式が根本からぶっ壊れてやがった。外装破損は一切無いのにだぞ。ありゃまるで…」
「亮、ストップだ。お前には話してもいいが、結構面倒臭い事に巻き込まれるぞ」
あの夜、カスミ達が亮に魔術具の調整をさせたのは、コイツが腕の良い調整士だから、と云う訳だけではない。なるべく話を聞かせない様に配慮したからだ。
コイツは魔術具調整に入ると、他の事に目を向けないからな…いい意味で魔術具バカだ。
「う~ん、メンドイのはゴメンだな」
「だろ」
「だな、とりあえず聞かない事にするわ。しかし、お前達はこんなトコで逢い引きとは、羨ましい限りだ」
そんないいもんじゃねぇよ。
「逢い引きですか。それは魅力的ですね。どうです真人さん、これからちょっとそこまで歩きませんか」
里美がシレっと言うと、亮は頬を指でぽりぽり掻く。
「う~ん、これはデートじゃない、下らない事を云うなら、自分達がこの場を去る。そういう解釈でいいのかな?」
「物分かりの良い方は、嫌いじゃありませんよ」
この手の会話は定番だけに、普通ならムキになって否定して、余計に冷やかされると云うパターンなのだが…流石は里美と云ったところか。
「お、おい神城。つまらんぞ、何とかしろ」
そんなん知った事か、里美相手に下らない夢を見てるんじゃない。
「さて、真人さん。休憩はここまでに致しましょう」
正直まだキツいが、付き合ってもらっている以上、情けない事は云っていられない。
「そうそう、デートじゃなければ、お前ら何やってんだよ」
腰を上げた俺達に向かって亮が聞く。
「剣の修行だな」
「で、模擬刀か…ふむ、あれ使えるかな?」
ごそごそと自分の鞄の中に手を入れ、二本の手持ち杖を取り出す。
「何をなさってますの?」
「さあ?まあ、ネコ型ロボットの便利道具程、有益なものではないと思うが」
「そんなん当たり前だ。これは、魔力具現化の基本になる魔術具。簡単に云えば、お前の腕輪の試作品だよ」
なるほど、試作品の試作品と云う事か。
「それで、どんな効果があるのですか?」
「よくぞ聞いて…って程じゃないんだよな。これは魔力の塊を具現化するだけ。威力は模擬刀と、どっこいどっこい、けど刃になる部分は調整出来るし、兎に角軽いから、今の神城にはいいんじゃないかと思ってな」
「へえ…」
受け取った手持ち杖の一本を里美に渡す。
「私もですか?」
「二本貰ったからな。だろ?」
「確かに一本は里美さんの分だが、あげるとは言ってないぞ。そうだなこんなモンで手を打とう」
人指し指を一本立てる亮。
「何だ、金取るのか」
「当たり前だ。魔術具には金が掛かるんだよ」
「チッ、しゃーねな。まあ1000円ならお手頃だ。払ってやるよ」
俺の言葉に、亮は立てる指を中指に変える。
「頭に蛆湧いてんじゃねぇか。あの程度のモンでも市場じゃ4、5万取られるんだぞ」
「マジ?」
魔術具の相場を舐めてた…
「因みに聞くが、二本で1万だよな」
「残念。だが、お前は払わざるを負えないな」
亮は里美を見て、ニヤリと笑う。
「これ、中々いいですわ♪」
里美は小太刀と同等程度の長さの、魔力の刃を出し、楽しそうに振り回していた。
「これなら真人さんを刃でやっても…クスクス」
物騒な事を云ってるぞ。
「なあ、返品したいんだが…」
「許して貰えると思うか?」
「…払うわ」
人間諦めが肝心だ。それに里美は実力差のある俺に対して、小太刀の柄でしか攻撃をしていなかった。少しは物足りなさを感じていたのだろう。
俺は自分を痛めつける道具を買うと云う、葛藤を乗り越えた。そして、やはり後悔する事になるのだが、それはまた後日の話だった。




