表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/63

修練

「剣の戻しが遅いですわ」


 俺の振り被った模擬刀の一撃を楽々交わし、里美は小太刀の柄を腹部にめり込ませる。


「ぐふっ!ゲホっ、ゲホっ…」


 マジ消えたぞ、今…咳き込み込みながら、折れそうになる膝を必死で支える。

 これまで味方として、里美の動きを見ていたが、相対するとここまで違うものなのか…


「行きますよ、真人さん」

「えっ!」


 待て待て、まだ咳きが止まってない。


「先に忠告致しますね。次は顎か首を狙います。つまり、まともに受ければ気絶しますので、よく動きを見て避けて下さいませ」


 だから見えなかったんだって…だけどな、狙いを宣言されて退く訳には行かないわな。

 こいや、こらぁっ!!


「がっ!きゅう…」


 瞬殺されましたわ…ええ、そりぁまあ一瞬で…


 顎か首を狙うと云われ、正面から突っ込んでくる。当然、注意を顔付近に向けてしまい。ボディがガラ空きになった。そこをあっさりと突かれ、まず一撃、そして前屈みになった瞬間に首に柄を落とされてゲームオーバーだ。


 次に気付いた時は、里美に活を入れられた後だった。


「しくしくしく…情けねぇ」

「そんな事ありませんわ。まあ、体術においてはその辺のカスと大差ありませんけどね」


 キツイ…この人。


「でも、真人さんの武器は体術じゃありませんし、それに体術もまだまだ伸びますわ」

「俺がか?自覚が沸かねぇな」


 こてんぱんにされて、そう云われてもな。


「貴方はさっきの私の行動を卑怯とは、考えていませんよね」

「は、ああ、だって狙うとは言ったが、他を攻撃しないとは言ってないからな。全然卑怯な事ないだろ」


 俺の言葉に里美はクスリと笑みを浮かべる。


「それですよ、真人さん。貴方の武器は物事を正しく判断する能力です。これを持たない者は、さっきみたいな行動に出会うと罵るんです。そして、説明を受けても納得しない方は、それ以上伸びない。

 真人さんは二階級特進です。必ず伸びますわ」


 うわ、俺、殉職しちゃったよ…だが、俺はこの一週間で里美の特性を正しく理解していた。

 この女性は紛う事なき真性のドSであり、天然ぶる事はあるがそれは嘘だ。つまり、今の殉職発言は完全に理解して言った言葉である。そして、俺がそれを理解している事を知って楽しんでいる。


「何か言いたそうですわね」

「否、別に…」

「ちっ」


 ホント、達悪ぃ…一年の校舎脇にある広場で、地面にそのまま座りながら、俺達は話を続けた。


 俺達がこんな事を始めたのは、キマイラの一件から一ヶ月経った頃だった。


 あの一件で分かった事は、俺が弱いと云う事だ。能力云々ではなく、体術や武術関連の意味でだが…

 里美から云わせれば、今の俺の体捌きは街中でデカイ顔出来る程度らしい。


 確かに、武術では俺は瑞穂にも及ばない。今後の事を考えると、戦闘力アップは必須であり、てっとり早く強くなるには武術力をあげる事だと判断した。


 そこで、達人クラスである里美に頼んで了承を得た訳だが、肩の骨折の影響と実力差がある為、あまり効果が上がっている感はなかった。


「焦っていますか?」

「ま、後三週間もすれば、何かしら仕掛けてくるだろうからな。少しでも、強くなっておきたいと思ってはいるかな」

「そんなに早くは強くなりませんよ」


 里美は俺を諭すように云う。元よりそんなに焦っていた訳ではないが、そう云って貰えるのは有りがたかった。


「お、神城ここに居たか」

「亮、珍しいな。この時間だと、魔術具精製の講義だろ」

「否、今日は基本作成の実技だからな。貰うもん貰ったから、バックれた」

「いいのか、そんな事で…」


 まあ、既に魔術具を作っているコイツの事だから、今更基本もないのかもしれんが…


「いいんだよ。そんな事より、ホレ」


 ぽいっと、何かを放り投げる亮。俺はそれを受け止めた。


「あれ、この腕輪」

「一ヶ月前にお前に壊されたヤツだよ。一から作り直したから、こんなに時間が掛かっちまった」


 一からって、修理しなかったのか。


「しかし、どうやったらあんな壊れ方するんだよ。術式が根本からぶっ壊れてやがった。外装破損は一切無いのにだぞ。ありゃまるで…」

「亮、ストップだ。お前には話してもいいが、結構面倒臭い事に巻き込まれるぞ」


 あの夜、カスミ達が亮に魔術具の調整をさせたのは、コイツが腕の良い調整士だから、と云う訳だけではない。なるべく話を聞かせない様に配慮したからだ。


 コイツは魔術具調整に入ると、他の事に目を向けないからな…いい意味で魔術具バカだ。


「う~ん、メンドイのはゴメンだな」

「だろ」

「だな、とりあえず聞かない事にするわ。しかし、お前達はこんなトコで逢い引きとは、羨ましい限りだ」


 そんないいもんじゃねぇよ。


「逢い引きですか。それは魅力的ですね。どうです真人さん、これからちょっとそこまで歩きませんか」


 里美がシレっと言うと、亮は頬を指でぽりぽり掻く。


「う~ん、これはデートじゃない、下らない事を云うなら、自分達がこの場を去る。そういう解釈でいいのかな?」

「物分かりの良い方は、嫌いじゃありませんよ」


 この手の会話は定番だけに、普通ならムキになって否定して、余計に冷やかされると云うパターンなのだが…流石は里美と云ったところか。


「お、おい神城。つまらんぞ、何とかしろ」


 そんなん知った事か、里美相手に下らない夢を見てるんじゃない。


「さて、真人さん。休憩はここまでに致しましょう」


 正直まだキツいが、付き合ってもらっている以上、情けない事は云っていられない。


「そうそう、デートじゃなければ、お前ら何やってんだよ」


 腰を上げた俺達に向かって亮が聞く。


「剣の修行だな」

「で、模擬刀か…ふむ、あれ使えるかな?」


 ごそごそと自分の鞄の中に手を入れ、二本の手持ち杖(ワンド)を取り出す。


「何をなさってますの?」

「さあ?まあ、ネコ型ロボットの便利道具程、有益なものではないと思うが」

「そんなん当たり前だ。これは、魔力具現化の基本になる魔術具。簡単に云えば、お前の腕輪の試作品(プロトタイプ)だよ」


 なるほど、試作品の試作品と云う事か。


「それで、どんな効果があるのですか?」

「よくぞ聞いて…って程じゃないんだよな。これは魔力の塊を具現化するだけ。威力は模擬刀と、どっこいどっこい、けど刃になる部分は調整出来るし、兎に角軽いから、今の神城にはいいんじゃないかと思ってな」

「へえ…」


 受け取った手持ち杖の一本を里美に渡す。


「私もですか?」

「二本貰ったからな。だろ?」

「確かに一本は里美さんの分だが、あげるとは言ってないぞ。そうだなこんなモンで手を打とう」


 人指し指を一本立てる亮。


「何だ、金取るのか」

「当たり前だ。魔術具には金が掛かるんだよ」

「チッ、しゃーねな。まあ1000円ならお手頃だ。払ってやるよ」


 俺の言葉に、亮は立てる指を中指に変える。


「頭に蛆湧いてんじゃねぇか。あの程度のモンでも市場じゃ4、5万取られるんだぞ」

「マジ?」


 魔術具の相場を舐めてた…


「因みに聞くが、二本で1万だよな」

「残念。だが、お前は払わざるを負えないな」


 亮は里美を見て、ニヤリと笑う。


「これ、中々いいですわ♪」


 里美は小太刀と同等程度の長さの、魔力の刃を出し、楽しそうに振り回していた。


「これなら真人さんを刃でやっても…クスクス」


 物騒な事を云ってるぞ。


「なあ、返品したいんだが…」

「許して貰えると思うか?」

「…払うわ」


 人間諦めが肝心だ。それに里美は実力差のある俺に対して、小太刀の柄でしか攻撃をしていなかった。少しは物足りなさを感じていたのだろう。


 俺は自分を痛めつける道具を買うと云う、葛藤を乗り越えた。そして、やはり後悔する事になるのだが、それはまた後日の話だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ