合成獣10
キマイラは、ギリシャ神話に登場する怪物だ。
その複合体ゆえ、合成獣の語源となっている。そして、そのギリシャ神話で英雄ベレロポーンにより、火を吐く際に鉛を口に入れられて窒息死という方法で倒されている。
カスミはその話を知っていたのだろう。
だからこそ、荒唐無稽と云う。そして、その判断は大正解だったりする。
あのキマイラは模造品だ。使う炎にしても、魔術にすぎない。だから、口に鉛を入れられたとしても、物語りのように窒息死するような事はない。だか、体の内部から攻撃をすると云うのは使える。
今回俺が考えた作戦は、この事がベースになっていた。
作戦の内容を伝えた後、里美は最終確認と話し掛けてきた。
「作戦内容は分かりました。けど、水鏡さんの危険度は跳ね上がりますよ。本当によろしいのですか?」
里美は、俺の顔をじっと見て問う。
「まあ、な」
分かっている。近接格闘のスペシャリストである里美とは違い、瑞穂は本来サポートを得意とする。
その瑞穂を最前線に立たせようと云うのは、危険な賭けである。だが、この役目は瑞穂にしか出来ない。だから、俺は「誰かがやらないといけない事を自分で出来る事に誇りを感じている」という言葉にすがった。
そして、了承してくれた時、1つ誓いを立てたのだ。
「大丈夫、瑞穂は俺が護る」
「まあ、私も1度云われみたい台詞ですわ」
里美は何かを期待しているかのように、俺を見ている。
「強き者のない物ねだりだな」
コイツの強さなら、護る事はあっても護られる事はないのだろう。
「いえ、そう云う事でなく…」
「んっ?」
「もう、いいです」
何か間違ったか、俺。
「朴念仁…」
ツッコミはカスミからきた。
「まあまあ、真人だしね」
何気に酷い事を言ってるが、瑞穂は上機嫌だ。
「これが3番目の扱いなのですね。でも、私は負けません。例え、世間にどんな目で見られても」
「…アナタ、楽しんでるわね」
ジト目が一転、カスミは唖然としている。
「どうでもいいが…お前等、緊張感ねぇな」
事が始まれば、良い結果であろうがなかろうが、あっという間に結果が出る。
「大丈夫です。お二人は神城さんの事を信じていますわ。実際に始まれば、それなりの動きはしますよ」
「俺としてはアンタのフォローに期待してるんだが」
「ええ、それは勿論です。私も久々に面白い素材に出会ってテンション上がってますから、きっとご期待に応えられると思いますよ」
俺はおもちゃかよ…ま、それでも本人がやる気なら別にいいか。
「んじゃ、そろそろ行きますか」
その一言で、スイッチが入る。
不思議と負ける気がしなかった。
◆
キマイラが俺達を視認し、動き始めた。
この距離なら、間違いなく炎の攻撃が来る。そして、この溜めなら、
「里美っ!」
「はい、土障壁」
対、炎なら水流障壁の方が防御力は上。しかし、総合力では土障壁は最強の術だ。キマイラの炎とはいえ充分に防ぐ事が出来る。
キマイラの炎は二種類、火炎の吐息と火炎球。そして、威力が高い火炎球は発動までの溜めが長いので、見分けるのに苦労しなくてすむ。
俺達の作戦が開始されるのは、キマイラが炎の吐息を使ってからだ。それまでは、里美に頑張ってもらう。
4発の火炎球を防いだ後、キマイラの動きに変化があった。
「瑞穂!」
「水流楯」
キマイラが吐息を放つと同時に、里美と瑞穂はスイッチする。
「地脈干渉」
「魔力階段」
防御を解き手が空いた里美は、土精霊に干渉しキマイラの足元を泥濘に変える。そして、カスミは上空からキマイラに近づく。
まだまだ連携は止まらない。
「飛翔」
俺は瑞穂を抱えて、炎の中、キマイラに特攻を掛ける。
流石に人を抱えたまま、速度とコントロールを維持する事は出来ない。だから、今回は速度の維持を選択した。
もし、キマイラが避けたらその動きに付いていく事は出来なかっただろう。しかし、里美がキマイラの行動力を削いでくれている。
キマイラ自身も、回避行動は無駄と本能で感じているのか、火炎の吐息を吐き続けている。
後少しで瑞穂の間合いになる。その時に俺は叫んだ。
「カスミ、頼む!」
「取って置きを見せてあげる。絶対零度!」
これが、カスミの隠し球。その一撃は猛烈な吹雪を起こし、魔力の炎すら凍てつかせ、キマイラをも凍らせた。
俺がカスミに依頼したのは、一秒間キマイラの動きを完全に封じる事は出来ないか、と云う事だった。
その時カスミは「出来ると思う」と自信なさげに答えたが、これは充分な仕事だ。
「召喚杖」
カスミが仕事を終えた時、俺達もキマイラとの距離を詰切った。そして、瑞穂の隠し球が発動する。
譲り受けた魔術具「指環」は、亮の結論を表している。
アイツ言った「魔術具でどんな魔術を使っても、それは最強の魔術具とは言えない」と。確かにそうだ、それは使う魔術が最強と云う事に他ならない。
その考えから産み出されたのが、この武器系魔術具だった。
指環は、瑞穂の声に応えて一本の杖になる。その杖の効果は、大量の水を召喚する事が出来る。
精霊術も何もないところから、水を召喚し術として使うが、この杖は召喚出来る水の量が桁違いだった。
圧倒的な水量をキマイラの体内で召喚する。さすればどうなるか、など考えるまでもない。キマイラの体はまるで水風船のように膨れあがる。そうなれば、外からの攻撃でも止めがさせる…はずだった。
「ばか…な」
氷付けになっていたキマイラの前足が上がっている。そのまま降り下ろされば、瑞穂に直撃する。
ヤバい、この感覚は昔何処かで…
後は考えての行動ではなかった。
俺は、前足が降り下ろされる直前に瑞穂と体を入れ換える。
「がっ!!」
俺は、キマイラの前足によって弾かれる。それは以前、速見に食らった攻撃以上の衝撃だった。
よく意識を繋ぎ止めたものだ。だが、動く事はおろか、声を出す事も出来そうにない。
「真人っ!!」
瑞穂が叫ぶ。
うるせえ…聞こえてるよ。だから、早く逃げてくれ。
だが、瑞穂は動かない。否、瑞穂だけでなくカスミも、里美ですら動けないでいた。
有り得ないだろ、こんなのっ!
勝利を確信したキマイラは、ゆっくりと瑞穂に近づく。そして、その口が大きく開かれた。
「うぉぉぉ~!」
終わると思った瞬間だった。
1つの火の玉が、キマイラにぶつかる。
火の玉は人の形となり、キマイラの口の中へその手を突っ込む。
「裂爆連弾」
キマイラの体内で無数の火球が弾ける。
流石にゼロ距離での攻撃にキマイラの動きが止まる。だが、まだ死んでいない。
「このヘタれ共!早く何とかしやがれ!!」
そう叫んだのは赤屋だった。
帰したはずの赤屋は、右手を黒焦げにしながら、今この場に立っている。
「クソ女、あのカスを助けるんじゃねーのか」
赤屋の叫びに我を取り戻す瑞穂。
怯んでいたキマイラの口の中に、召喚杖を突き刺した。
「来たれ水龍、水龍王の咆哮」
杖を介して大量の水が、キマイラの体内に流れ込む。みるみると膨れあがるキマイラは、バランスを崩して倒れる。そして復活していたのは瑞穂だけではなかった。
「陽炎・双舞」
里美の二撃が寸分違わず、キマイラの腹部を切り裂く…
「くっ!!ダメ、切り裂けない」
里美は苦悶の浮かべた。
膨張率が足りないのか、それともキマイラの体に通常の刃が通じないのかは分からない。ただ万策尽きた事だけは確かだった。
ただ…
「ここまでやってダメでしたはないよな…」
ゆっくりと体を起したのは、そう言ったのは俺だ。
何度も動けと念じても動かなかった体が、俺の制御を離れた瞬間に動き出した。
そして俺は見た。キマイラの目に怯えがある事を、この獣は俺を見た瞬間に戦う気を無くした。死に体の俺を見て…
いい勘してるよ、お前。
一歩一歩キマイラとの距離を詰める。そこに居る誰もが動く事を忘れ、俺を見ている。
「風切り」
キマイラの直ぐ横まで来た俺は、魔術具腕輪を発動させる。
腕輪は風を集め一本の剣を創り出した。
「じゃあな」
俺は軽く一振り薙いだだけだ。それで、キマイラの体は二分される。
こうしてあっさりと、伝説の怪物を模した存在との戦いは幕を降ろしたのだった。
恥ずかしながら、やっと保存の仕方を理解しました。
あまりマニュアルを読まない人間なので…これで泣かなくても済みそうです。
やっぱり、マニュアルは大切ですね。




