合成獣6
「クスッ…何で疑問形なんですの?」
早速のツッコミですね。里美サン…
「でも、助かりましたわ」
「それはそれは…で、まだ戦えますかお姫様」
見たところ外傷はない、心が折れてなければ問題ないはずだ。このお嬢様が、そんな柔だとは思えない。だが、ヘタッてるそこの根性なしを見ると、相手はそれなりと見るべきだ。
「愚問ですわ。こんな姿見せておいて、お恥ずかしい限りですが、あれくらいなら私一人でも何とかなりましたのよ」
里美は無駄に虚勢を張るタイプとは思えない。だったら、その言葉は真実なのだろう。
「それに1つ訂正させていただきますと、私は姫ではなく、騎士ですわ」
「ちょっと大人しくしてくれよ。風縛網」
今大事な事を話してるんだからさ。
飛び掛かってくるゴリラもどきを、風の網が捕縛する。普通の人間相手なら、一度捕縛すれば脱け出す事は難しい。だが、このゴリラなら…
「里美、下がれ!!」
俺の声と同時に里美が跳ぶ。
ゴリラもどきは、一瞬怯んだがその直後に俺の束縛を破った。
おいおい、一秒ももたないのかよ。これは、想像以上だな。しかし、これを一人で倒せると言い切る里美か…面白い。
「山辺、俺の能力は風だ」
「あら、里美で構いませんわ。私は土と符術を少し、符術は肉体強化専門です。真人さん、私を使いこなせますか?」
挑戦的な顔で里美は俺を見る。
「さて、自信はないが…瑞穂!赤屋を回収後回復。カスミは魔力障壁!」
『りょーかい!!』
俺が指示を出すと、カスミを抱いた瑞穂が飛び込んでくる。そして、赤屋の横で水流疾走を解く。
「魔力障壁」
そして、カスミは瑞穂から降りると防御壁を張る。
よし、これでゴメラ(めんどくさいから略す)が、気まぐれで狙いを変えても瞬殺はない。
「で、真人さん」
「ここにいる限り俺の指示に従ってもらうぜ、騎士様」
「イエス、マイロード…ふふ、一度言ってみたかったんですよ」
とんだ西洋被れの忍だ事…等とやっていると、再びゴメラが俺達に飛び掛かってきた。
チッ!舌打ちして、俺と里美は二方に別れ跳ぶ。
ゴメラのパワーは俺達を上回っているが、スピードは俺と里美の方が上だ。これなら何とかなる。
「里美。近接戦闘、スピードでかき回してくれ」
「畏まりましたわ。神速」
里美の足下が淡い光を放つ、これが符術か…今の里美のスピードは、飛翔程ではないが、水流疾走の速度を上回っていた。
そして、そのスピードをもって、ゴメラの体を少しづつ削る。パワーで劣る事を充分理解している、里美は決して切り結ぶ事はしない。
確かにこれを繰返していけば、一人でゴメラを倒せるだろう。ただ倒した後、まず間違いなく里美は戦闘不能になる。
まあ、そうならない様にする為に、俺がいるんだけどな…
「風刃付与」
「これは?」
「切れ味とレンジを伸ばした。邪魔にはならないから、今までの感覚で使って構わない。切り刻んでやれ」
風刃付与は、真空の刃を任意の刃に付ける。
利点は、付与された剣の攻撃力UPとレンジUP、それに伸びた分に物体が触れても、使用者には全く衝撃は来ない。
里美が今まで通りに攻撃しても、ゴメラに与えるダメージが増える。
微力ではあるが、里美の攻撃回数を減らす事は、危険度を大幅に少なくする事に繋がる。
「ちょっと!信じられないっ!」
次の術を準備していた俺の耳に、瑞穂の罵声が入る。
「アンタ、こんなかすり傷で戦意喪失するなんて、どんなヘタれなのよ!何か治してやるのも勿体無いわ」
あ、えーと…いいから、早く治してこっちを手伝えよ。それに、赤屋を責めるのは少し可哀想だ。
この場に立ってみると分かるが、ゴメラの一撃を一発でも、まともに食らえば再起不能だ。
俺や里美のスピードがあれば、何とか交わせるがそのスピードがない赤屋では、一撃毎に戦意を削られていく。
更に術を使うには、ある種の溜めが必要になる。
赤屋ではゴメラの攻撃を受けながら、術を使う事が出来ない。羽根をもがれた鳥が、猫の攻撃を何度も食らって、留め寸前までいったらさ戦意喪失など当然だろう。
だからと云って、赤屋は勝手に飛び出し、自らこの状況を作ったらのだ。そこに同情の余地はない。
格下と思っていた女に罵声を浴びながら、治療をされて悔しいと思うなら、まだ再起の道はあるだろう。後は勝手にやってくれ。
里美が時間を稼いでくれている間に、俺はトラップを仕掛ける。
『風激陣』
速水の時は倒す事を目的にせず、一時的に行動不能にする事が目的だったので、威力を抑えての使用だったが、この術は今の俺が使える術の中では、最大の攻撃力を誇る。
ゴメラを倒すには充分な術だ。そして、里美の腕なら、この場でゴメラを制止出来る。
「里美、俺の立ち位置まで下がれ。目の前に土産をおいてある」
「心得ましたわ」
里美は一端、足を止めゴメラを待つ、そしてギリギリまで引き付け、ゴメラの目でも追えるスピードで避ける。
目で追えてる以上、連続攻撃をしてくるが、素晴らしい体捌きで、交わしながらジリジリと後退する。
こりゃ、凄いわ…
既に場所移動をしていた俺は、里美の達人級の動きに見惚れていた。危ない橋を渡っているにも関わらず、危険とまるで感じない。
そして、極めつけは里美が目的地点に着いた時だった。
「陽炎・転移」
里美の体が揺らぎ、ゴメラの胸を裂く。そのままなら、ゴメラは下がるが、里美は胸を裂いたと同時に背中を裂いた。
前と後ろを同時に攻撃され、動きを止めるゴメラ。
「風激陣」
見惚れてタイミングを逃すところだった。何とか術を発動させた俺は、天井を見上げる。そこには天井に埋まり、尚も風の礫を浴び続けるゴメラの姿があった。
「終わりだ」
風の礫が舞い上がらなくなると、ゴメラは万有引力の法則に従い落ちた。そして、完全に事切れていたのだった。




