合成獣4
山辺里美は静かに怒っていた。
「まったく、困ってしまいますわね。あの焼けゴリラも、神城さんも」
微妙な毒舌が含まれているが、怒りの度合いからすれば「赤屋甲二」より「神城真人」に対する怒りの方が、若干ではあるが大きかった。
里美が何に怒っているのかといえば、真人が自分の事を過少評価している事だ。
里美にしても、彼が上級生の4位と戦い自信をもったのは、理解出来るし評価もしている。だが、一緒にいた「水鏡瑞穂」や「本多カスミ」と、同等に護る者と扱われた。
これは彼女にとって屈辱的な事だった。
もともと、彼女は赤屋に近い心境でここにいる。
あの男、御社来栖が「すぐに神城真人を学園1位にする」と、云わなければ里美が来る事はなかっただろう。
御社の云い方は巧妙だった。
これから自分が神城を育て上げる、と云っているのだ。そうなれば当然、理事長に認めれる人物が、どのような人間なのか気になる。
そして、トップに立てる可能性がある立場の人間として、どのように育てようとしているのか、知りたいと思ってしまった。
それは赤屋も同じだと、神城真人に対する敵愾心から察する事が出来た。だから、勝手だと思うが、それ以上の怒りは涌いてこなかった。
だが、神城真人に対しては違った。
里美は彼を観察していく内に、神城真人を面白い人物だと思った。
水鏡瑞穂達のような恋慕の情ではない。少なくとも今はそうだ。
しかしもし将来、彼が自分の上に立っていても、それは構わないのではないか。そう考えていた。
だからこそ、護られる立場にはなりたくなかった。
上に立たれても構わないが、立たれるのであれば、自分はそのすぐ横で頼られる存在でなければ我慢出来ない。
そんな自尊心が怒りの元だった。
「私に対する見方を変えて差し上げますわ」
里美は音もなく、走るスピードを上げる。
道は今までの道と変わりなかった。幅、高さともに5M程有り、明らかに整備されている。緩やかなカーブが続いているが、全力で走っても、問題は一切なかった。
赤屋の気配は少し先で感じていた。
彼は何かと遭遇したのか、動きを止めているようだった。
(こちらの道が正解だったのかしら…でも、それなら好都合です)
里美は小太刀を取り出し、握り締めたまま走ったのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「正解の道などないよ」
御社は6つ並ぶモニターの1つを見ながら、口を歪めた。
「どちらの道へ進もうと、容易はしているんだからね。だから君達は戦力を分けるべきじゃなかった」
そう云いながらも、御社の顔から笑みが絶える事はない。思い通りになる事が、彼にとって最高の娯楽なのだ。
そして、この展開は正に彼のシナリオ通りなのだから、楽しくない訳がない。
「さて、油断していると死ぬよ。精一杯全力でやるんだよ」
(もっとも、死なれたとしても、大局に影響はないがね…)
その笑みは今まで一番良い笑顔だった。
そして、御社はもう1つのモニターを見る。そこには、御社が用意したモノの少し前で、様子を伺っている真人が映っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「このエテ公がぁっ!!」
赤屋の猛りの声が、里美に届く。
(始まってしまいましたか…)
出来れば合流したかったというのが、里美の本音だった。
せめて、どんな姿をしているかだけでも、じっくり観察出来れば数パターンの攻撃を予測出来る。しかし、いきなり乱入ではそれは出来ない。
相手の動きだけを見て、対処するという戦い方は、里美にとって慣れているものではなかった。
(手前で様子見出来る程度の相手なら、良いのですが…無理そうですわね)
戦闘が始まってから、里美が感じている殺気は桁違いだった。もし、赤屋が萎縮して実力が出せなければ、里美が着く前に勝負は決するだろう。
(仕方有りませんね)
「神速」
里美が呟くと、両足に仕込まれいる護符が反応する。
魔術カテゴリーの1つ『符術』、里美が使う2つ目の能力。
そして、『神速』の効果は肉体強化だった。
「このっ!!何なんだテメーは!」
拳に炎を乗せて殴ろうとするが、それは赤屋の攻撃をあっさり交わし、置き土産としてその爪で赤屋の身体を傷つける。
赤屋がソレにであったのは、横幅が20Mぐらいに広がった場所だった。
そして、ゴリラのようなモノがそこに寝ていた。だが、足と手は完全に違う。
カモシカのような足は、信じられないようなスピードを生み出し、大型肉食獣のような手は赤屋の肉を簡単に引き裂いた。
全体的に見れば、明らかにアンバランスではあったが、動きはスムーズ。何故、こんなに動けるのか、赤屋には分からない。
獣なら赤屋の炎に怯むはずだが、そのような感じもない。
今のところ、何とかかすり傷で対応しているが、その傷がジクジクと痛み、赤屋の集中力を奪っていく。
(やべぇ、これやべぇよ…)
既に赤屋は戦意喪失していた。
今はただ死にたくない一心で、攻撃を交わしているだけだ。
しかし、そうなっては及び腰になる。当然、前には出られず後退していく、10歩程下がった時、赤屋の背中に壁がぶつかった。
「ひっ、た、たすけて…」
目の前でゴリラもどきの腕が振り下ろされる。既に逃げ道は塞がれている。
万事休す…赤屋は目を開け続ける事が出来なかった。
「金剛盾」
小石が集まり、20cm程度の塊となる。そして、その塊がゴリラもどきの攻撃を止めた。
「何とか間に合いましたか。赤屋さん、何同族でやり合って負けてるんですか。情けない…」
ゴリラもどきと赤屋の間に割り込んだ、里美が珍しく笑った。
「やま…の、べ?」
「まだ戦えますか?」
里美の問いに、赤屋は目を伏せる。
「戦意喪失ですか。では、逃げる準備をしてください。私一人ではリスクが大きいです」
里美は真人の言葉を思い出していた。
(悔しいけど、仕方有りませんね)
全てを出し尽くせば勝てるかも知れないと、里美は思う。だが、新手が現れたり不測な事態が起これば、全てが引っくり返る。
賭け事に勝つには、降りるのも重要な事なのだ。
「陽炎」
里美が手に持つ小太刀が揺らぎ、ゴリラもどきの胸を裂く。
陽炎は能力ではなく技だった。
魔物に対抗する為に能力が重視されるが、人が突き詰めた武術の技も、その人の強さなのだ。
ゴリラもどきは、胸を傷つけられ下がる。その瞬間に里美は能力を使う。
「地裂剣」
ゴリラもどきの足下が盛り上がり、十数本の土の剣が生まれる。
ゴリラもどきがその場に留まれば、串刺しになるところだが、バックステップを踏んで交わす。だが、里美とゴリラもどきには、充分な距離が出来た。
「今です。逃げますよ」
里美が赤屋に向かって叫ぶ。だが早速、計算外の事が起こっていた。
赤屋は逃げようとしていたが、腰が抜けて動けなくなっていた。
「嘘…」
里美は茫然と呟く。そして、この一瞬は里美にとって命取りとなり兼ねないものだった。
「しまっ…」
気を反らした瞬間に、ゴリラもどきは再び距離を詰めていた。
焦らなければ里美は、何とか処理出来ただろう。しかし、計算外の事が重なり既に冷静な判断は出来ない。
「よっ!!」
爪が里美を裂く直前で、ゴリラもどきの顔面が歪む。
誰かの足がゴリラもどきの顔を捉えたのだ。
「神城さん」
「待たせたかな?」
そこには、左の道へ進んだ真人が不敵な笑顔で立っていた。
また、3人称での挑戦となりました。
お叱り等あるかもしれませんが、ご了承下さい。




