失われた番号8
「明日同じ時間にここに来るように」
御社は受話器を置くと、俺に向かってそう云った。
「俺一人でいいんですよね?」
「君に任せるよ、ただ強くならねばならない、その理由を伝えるだけだ。だが、君一人では荷が重いかも知れない。よく考える事だ」
そう云って、御社は退室を促す。
俺達全員はそのまま部屋を出た。
気づくと時間は16時を大きく過ぎていた。
御社の館に入ってから、2時間余りで色々な事が動いた。
魔法は能力の1つでしかない。
帰り際に御社はそう云った。
だが、魔法は魔術具を使わない魔術でなく、寧ろ、魔術は魔法の末端の能力でしかない…そうも云う。
その話に確証はない。
しかし、御社は頑なに信じていた。
結局のところ、御社は魔法を特別なものと見ているのだ。
魔術の父、希代の怪物と云われ、自分の望むがままに全てをコントロールしてきた、男の最後にして最大の夢。
魔招来級の魔物を倒せる能力者を育てる事。
その希望を叶えるのが魔法なのだ。
瑞穂が見た素手で魔物を引き裂いた力、速水を精神世界から引き摺り出した力…これが本当に魔法の力だというのであれば、御社は俺に対してあらゆる事をしてくるだろう。
それこそ、今この状況が毎度のように起こる。
俺の後ろを歩く、瑞穂とカスミを見て俺は怖くなった。
御社が本当に恐いのは、自分に利があると判断すれば無駄な迷いをせず、すぐに行動するところにある。
監視役として選んだ、カスミをあっさりと切った事からもそれが分かる。
確かにカスミは何かを調べる為に、俺の監視役にを引き受けたのだろう、しかし互いが利用し合う関係においては、その程度の事は当然想定している。
つまり、明確な裏切りや自分にとって邪魔にならなければ切る事はしない。
泳がせておけば、将来的にプラスになるかもしれないからだ。
だが、御社は将来的な希望的観測を捨てカスミを切った。普通なら長期展望のない愚行だが、自分が定めた利益を出せる者なら良策になる。
そして、御社は利益を出せる者だ。ありとあらゆる手を使って利益を出そうとするだろう。
その手法の中心に俺はいる。
だから当然、俺の近くにいる者は巻き込まれるだろう…それが、何より怖い。
「なあ、これ以上、俺に付き合わなくてもいいんだぞ」
俺は後ろを見ずに瑞穂とカスミに声を掛けた。
二人供、御社の屋敷を出てから一言も声を発していない。それぞれが色々な事を考えていた。
だから、顔を見ながらこう云って、ホッとした顔をされるのが嫌だった。
「なにそれ?もう足手まといはいらないって事?」
カスミは怒っている。
顔を見なくても分かる。
「そうじゃない…」
振り向くと、カスミは俺のすぐ後ろまで距離を詰めていた。
「私はあんなぢぢいにいいようにされたまま、泣き寝入りなんてゴメンだわ」
「馬鹿かお前、アイツは」
「人の皮を被った化物よ。あっさりと人を売ったくせに流れだけで、裏切った事を目立たなくした。元々、私なんて眼中になかったとしてもやっはりおもしろくないじゃない」
そういう問題じゃない…と、云おうとした時、カスミの腕が震えていたのが分かった。
「カスミ…」
「私は別にアンタの為に、なんて思ってないの。あくまでも自分の為に…だから、アンタが火中の栗でも拾ってやるわよ」
「…ばーか、火中の栗を拾うのは自分の為じゃねーよ」
「そんなの知ってるよ…」
カスミの呟きに俺は心の中で答える。
ああ、知ってるよ。
「それより、あの娘を何とかしなさい!」
テレ隠し半分で、カスミは瑞穂を見ながら云う。
瑞穂は少し離れた位置で立ち止まり、こちらを見ていた。
「ホント、変な娘よね。私がアンタに向かっていったら、足止めて待ってるのよ。誰より悩んでるに人を気遣うなんて、馬鹿ね」
「まあ、瑞穂だからな…」
瑞穂が馬鹿なら、俺は救いようのないアホだ。
俺はゆっくりと、瑞穂に近付いて行った。
「本多さんとの話、終わった?」
「ああ」
「そう、私は真人に着いていくよ。初めから決めてたからね」
しっかりと前を見据えた、いつもの顔で瑞穂は云う。
「責任を感じる必要はないんだぞ」
「それは無理。だってあの時、襲われたのは私の所為だもの…どう足掻いてもこれは変えられない」
ホントに馬鹿な奴だ。
「けど、責任以上に私は真人に変わってほしくない。だから、真人がおかしくなったら、私が止める」
「そっか、分かった」
そう云って、瑞穂の頭に手を乗せる。
「頼んだぞ、相棒」
俺が出来る事は強くなる事だけだ。
強くなれば、御社は何もしてこない。
御社の敵は魔物だけなのだから…
強くなる事は大切な仲間を守ることに繋がる。
初めて強くなる事に意味を持てた、そんな日だった。
内容が前章よりでしたので、タイトルを変更しました。
内容の変更はありませんので、読み直しはしなくても平気です。




