魔術具
「何故にここに居座る…」
今、俺の部屋にある3つソファの内、2つは侵略者によって支配されていた。
侵略者1カスミは、
「こんなに広いんだから、アンタなんかあれ位スペースがあればイイじゃない」
と、部屋の隅を指差し、
侵略者2瑞穂は、
「一応部屋主なんだから、そんな事云っちゃダメよ…えっ、と、こっちかな♪」
と、フォローになってないフォローを入れるが、こっちを見るでなく、盤面を凝視している。
御社のところから戻ったのが、17時ぐらいだったが、二人は一度も自分の部屋には帰らずこうして、俺の部屋でチェスに興じている。
現在時刻は19時だから、約2時間も主を蔑ろにしているのだ。
ったく、何だよコレ…
「はい、これでチェックメイト♪」
「えっ!!」
「私の10連勝ね」
カスミはガッツポーズを決める。
「も~、将棋なら負けないのに…ヤメよ、ヤメ」
はぁ~、どうやらやっと終わるらしい。
これでやっと開放される…そんな甘い考えをした時、瑞穂がとんでもない事を云い出す。
「真人~、お腹減った~。材料あるから、作って~」
「は、お前何云ってんの。腹減ったなら食堂へ行くぞ」
19時を過ぎているのだから、確かに腹は減っている。しかし、だ。何故に俺が作らねばならん。
「いやだ~。めんどい、もうここから動かない」
否、めんどいのお前だから…
「確かに、動くの面倒くさいわね」
だから、自分の部屋に帰れよ。
「3つのふわふわを所望する」
「何それ、美味しいの?」
興味津々の態でカスミが聞くと、
「びっくりする程♪」
「真人~、私もそれ希望」
だぁ~コイツ等は…
こうなった時、俺は瑞穂に勝った事がない。
1対1でも勝てないのに、2対1では抵抗するだけムダというものだ。
仕方なくキッチンへ向かう俺。そこには、御飯、鶏肉、卵などの材料がしっかり揃っていた。
いつの間にこんな物用意したんだ。
と、思い返してみると、戻ってきた時、瑞穂はちょっと寄るところがあると云って、後で俺の部屋に来た。
カスミが戻ってきた瑞穂を出迎えたので、見てはいないが、おそらくその時に食堂から材料を持ってきたのだろう。
って完全に確信犯じゃないか…
ったく、しゃ~ないな。
3つのふわふわか、久し振りだな。
俺はフライパンに火を入れると、袖をまくり上げた。
「おお~♪」
チキンライスの上に、大きめのオムレツが乗っているのを見て、カスミは瞳を輝かす。
「ふっ、この程度で驚いて貰っては困る。てぃ!!」
ナイフでオムレツの真ん中に切れ目を入れ開く。
すると、半熟の卵がトロリと流れる。
『にゃは~♪』
瑞穂とカスミは、オムライスの虜になった。
「ふっ、デミグラが市販なのは納得いかんが、今回は仕方がないな」
鍋で温めたデミグラスソースをオムライスにかけ、サラダとスープを装備すれば完成。
後は食べるだけだ。
『いただきます』
準備が整い、いざ卵を口へ…と、思った瞬間に呼び鈴がなる。
まさにお約束である。
流石に俺も腹が減っている。だが無視する訳にもいかず、オムライスに後ろ髪引かれながらも立ち上がった。
「ちーす」
ドアを開けると、亮がデカイバックを持って立っていた。
「何だお前…」
「おいおいおい、自分で呼んどいてそれはないだろう」
俺が呼んだ?
「もしかして、忘れてたんかい!!」
え~と、あ、アレか…
「すまん、すっかり…」
「あぅ、無駄足かよ…」
デカイ体をしゅんとさせて、亮は帰ろうとする。
「いやいや、ちょーどいるから入れよ」
そう云って、亮を部屋へ招き入れた。
「なんじゃこりゃ~!!」
はいはい、お約束ありがとう。
昨日の俺と同じ反応に、瑞穂とカスミの態度の意味を知る。
「真人~、誰が来たの?」
瑞穂がスプーンを咥えたまま、こちらを向く。
カスミに至っては、こちらを見もせず一生懸命にオムライスを口へ運んでいた。
「神城!てめー本当に美女二人囲ってやがんのか、ちきしょう!!」
瑞穂とカスミを見た、亮は泣きながら訴える。
泣くなよ…マジで…
そんな様子を見て、オムライスを一心不乱に口へ運んでいたカスミが手を止める。そして、
「妻1でーす♪」
と、面白い玩具を貰った子供のような顔で云う。
「同2でーす♪」
更に瑞穂の便乗…コイツ等…
「なあ神城、日本はいつの間に一夫多妻になったんだ。羨まし過ぎるじゃね~か」
馬鹿だろ、お前…
金縫亮の紹介をすると、カスミは興味を持ったようだった。
「へー、着眼点は面白いわね」
手持ち杖の1つを手に持ち、色々な方向から見ている。
「でしょ。今までは本使い以外、1つの魔術具で複数の術を使う事が出来なかったけど、魔術具を複数融合させる事で3種類の魔術を使う事が出来る。ある意味革命だよ」
「う~ん。でも、これだと使用回数に問題が出てこない?」
カスミの指摘に、亮は頭をボリボリ掻きながら答える。
「ヤッパ分かるかぁ~、何か術が変な干渉して、普通なら4、5回使える術でも、使えなくなる時があるんだよ。まあ、少なくても1回は使えるから、全く利用出来なくはないんだけどね」
あーだこーだ、亮とカスミは魔術具談議をしている。
「真人、分かる?」
「否、全然…」
俺と瑞穂は云うまでもなく、精霊使いである。これまで一度も魔術具には触れた事がない。
茫然とするのは当然だった。
「瑞穂ちゃん、どしたの?」
茫然と見ていたのは、瑞穂だけではない。
俺もそうなっていたのに、コイツは瑞穂だけに声を掛ける。
「私、精霊使いだから、魔術具に疎くて…」
「え、マジで…流石1プレートだね。あ、そうすると、カスミちゃんは?」
ああ、そういえば、コイツに能力の事云ってなかったな。
下心がないか心配なカスミは、俺の顔を見る。
俺は大丈夫と意味を込めて頷く。
別の意味での下心はあるだろうが…まあ、平気だよな。
「私は本使いよ」
「え、ちょ、それじゃ持ってきた魔術具役に立たないじゃん!!」
「そんな事ないわよ。本を使えば、確かに沢山の魔術をストック出来る。けど、どこに必要な術があるのか、分からなくなるからね」
なるほど、戦闘向きではないと云われているのは、そういう事なのか…
「それより、真人と瑞穂もこの際、魔術具の勉強しておきなさいよ。どうせ必要になるんだから」
確かに使えれば便利だ。
精霊使いは、魔術具無しで術が使えるが、自分の属性…というより、契約した精霊の属性しか使えない。
一方、魔術は属性の縛りが少ないので、相手との相性によって属性を変えられるという利点がある。
使えれば、戦闘に幅が出来る事請け合いだった。
「でも、精霊使いに魔術具は無駄でしょ?」
「否、俺達は2つの能力持ちだから、意味はある」
「は?マジで…」
口あんぐり開けて聞き返す。
「マジ」
「なあぁぁ~神様はどうしてこんなに依怙贔屓するんですか~」
亮は、理不尽な現実に絶叫した。
「でも、ま、俺には関係ないな」
「軽いなお前…」
「んじゃ、才能有り余りの皆様には、全員テスターになっていただきましょ」
こうして、俺達は自分の魔術具を手に入れたのだった。
幕間回です。
次もう1回戻ります。




