失われた番号7
「なるほど…」
瑞穂の話しを聞いた御社は、静かにそう云い物思いに耽っている。
カスミは瑞穂の話の真偽を確かめたいのだろうが、我慢しているようだ。
速水はあの時の事を思い出したのか、壁に寄りかかり、ずっと俺を睨んでいる。
そして、俺は自分の右腕を左手で触れてみた。
食いちぎられた…瑞穂はそう云った。
だが、傷一つ残らず完治する事など通常ならあり得ない。それは、水術士である瑞穂が一番分かっているはずだ。
水術士の本懐は癒しにある。
簡単な怪我くらいなら、腕の良い水術士ならあっと云う間に治す事ができる。
それでも、一定以上の傷を治す時傷痕は残ってしまうものなのだ。
それを熟知している瑞穂が、敢えてそう云うということは、彼女の中では間違いなくその様な記憶がある。と云う事に他ならない。
ただ、それでも真実であるかどうかは分からない。
記憶の操作をされているのが、瑞穂かもしれないのだから…
「ふむ、いいかね」
全員の動きが止まっている中、御社が動いた。
「速水君、君が真人君と戦った時、どう思ったか聞かせてくれないか?」
「雑魚」
なっ!!にべもなく一言で片付ける。
だが、御社は動じず質問をする。
「では、最後の印象は?」
「チッ、化物だな」
言いたくなさそうにしていたが、面倒臭くなったのか、速水は話し出した。
「あの瞬間、コイツの中から意思が全く感じられなくなった。そこの水使いをやった事に対する怒りみたいな事を云ってたが、実際は違う。あの時のコイツは人形だった。外から声を充ててるだけのな」
俺が人形…だが、俺はあの時の記憶がある。
俺は確かに怒りを感じていたのだ。
「そして、極めつけは瞬間移動中の俺を引き摺り出した。その後は、ただ淡々と俺を殺さすように動く。悪いがアレを化物と云う以外、俺には語彙がない」
淡々と…そう云う速水に俺は反論したかった。
あの時、俺は楽しかったのだ。
負の感情が溢れ出し、ヤメロと云う言葉にも耳を貸さなかった。
あ…あれ…何か変だ…何だこれ。
「やはり、瑞穂ちゃんの話しと似てるね」
俺の思考がまとまる前に、御社が云う。
「似てるって、何がですか?」
カスミがそう聞くと御社は少し微笑み、まず前置きを述べる。
「あ、そうそう本多さん。ここでは私が許可した能力以外、使って貰っては困るのだよ。これまでは云ってなかったので見逃すが、ここから先はそれ也の罰則を与えるので、注意してほしい」
「あ、はい…」
カスミは小さくなって返事をした。
カスミの精神感応を制したと云う事は、御社は全てを話すつもりはない、と云う事だ。
だが、それが分かったからといって、ここから出ていく訳にはいかなった。
「さて、話しを戻そう。似ていると云うのは、真人君が行った事だよ。魔物に普通の攻撃で、ダメージが与えられないのは何故か分かるかい?」
全員が首を横に振る。
「それはね、魔物の本体が精神世界にあるからなんだよ。こちらから幾ら物理攻撃をしかけても、魔物にしたら髪を切られた程度のダメージでしかない。だからどうやっても倒せなかった」
なるほど…魔術のような能力は、ほぼ精神世界を経由して使用される。
だから、どんな威力の小さい術でも、物理攻撃よりダメージが与えられると云う事か…
「そして、速水君の瞬間移動は、精神世界を移動する事で可能となる能力な訳だが…」
『あっ!!』
全員が一斉に声をあげる。
「そうだ、真人君は直接、精神世界に干渉している」
御社はほんの少しだけ、俺達に思考する時間を与えたが、そのまま話しを続けた。
「魔法と云うものは、魔術具のいらない魔術と云う認識しかもっていなかった。だが、真人君が魔物を引き裂いたと云う報告を受けた時、認識を変えなければならないのでは、と思ったのだ」
「けど、確信がなかったと云う事ですね」
考察とは複数の事象を比較して、確信に導くものだ。事象が一つでは、答えなど出せるはずがない。
「その通りだよ。だから、速水君に君を殺す気で襲うよう依頼をした。また、魔物に襲われた時になるべく近づける様、先に瑞穂ちゃんを襲うように指示を出した」
「だからって、俺じゃなくてもいいだろうに」
「云ってはなんだが、君より上位に依頼してたら、本当に真人君を殺してしまうよ」
速水の反論がありそうな気がしたが、速水は苦虫を噛み潰したような顔をしただけで、何も云わない。
コイツより上位の3人って、どんだけ化物なんだよ。
「そして、もう1つ。真人君が魔法使いである認識をもっているのかどうか、それを知りたかった」
「それで、私ですか」
「うむ、君の事はお姉さんから聞いていたからね」
「ね、姉さま…」
カスミは、顔から油汗を流して速水同様黙った。
「だからと云って、このやり方は…正直、軽蔑しますよ」
「それについては、謝罪しよう。だが、私もそれほど余裕がある訳ではないのだよ。何十年も能力者の育成に関わってきたが、魔招来の時の魔物に勝てると云える者を育てる事が出来なかった。だから魔法が最後の希望なんだ…もし、活かせないのであれば…否、それは云わないでおこう」
そんな馬鹿な、流石に今なら量も質も違うはずだ。
「信じてないと云う表情だね。それでは、少し現実と云うもの見てもらおう」
御社はそう云うと、受話器を上げ何処かに連絡をしている。
俺は、御社の言葉に不安を覚え始めていた。




