失われた番号5
「あーあ、生徒の能力をバラす理事長ってどうなんですかね」
カスミはわざと投げ槍な態度を見せる。
「否、君の能力を看破したのは真人君だよ」
御社の一言にカスミは沈黙して、俺の顔を一度だけ見ると、すぐに顔を背けた。
「真人…」
瑞穂が俺の背中の服を引っ張る。
この馬鹿は、今自分も不安を持っているが見え見えのくせに、カスミの心配をしているのだ。
「カスミ」
俺が名前を呼ぶと、背けていた顔をこちらに向けるが、その表示は所在なさげに頼りないものだった。
カスミが能力を隠していた理由は、俺達に不気味がられるのを恐れたからだ。
心を読めると知られれば、誰だっていい気分でない。それは認める。
だが、カスミは勝手気ままに人の心を読んで悦に入るようなヤツじゃない。
ま、たまに欲に負けて読んでしまう事があったとしても、大目に見てやる。
俺も瑞穂も出会って三週間の少女を大切な仲間だと思ってる。
だから、わかったなカスミ!
「美が抜けてるじゃん…」
ったく、しょうがないやつだ。
「理事長、別に俺は誰がどんな能力を持っているかなんて、差ほど興味がないんですよ。だから話を進めていただけませんか」
「そうだね。では、ここからは駆引きなしで行こう。いいかね、瑞穂ちゃん」
名指しで呼ばれ、ビクッと体を震わせる。
間違いなく瑞穂は、何か聞かれたくない事を持っている。それは、御社が複数の能力の話を始めた時から顕著になっている。
駆引きなし…とんでもないブラフだ。
ここで名指しなどすれば、その人以外の発言は認めない、と云っているのと同じ事だ。
もし、俺が何か云ったとしてもお前には聞いてないと云えばいい。
取り敢えず、歯痒くはあるが展開を見守るしかない。
「君は自分に魔術の能力がある事を知っているね」
御社は単刀直入に云う。
「…はい」
な、瑞穂が魔術…どう云う事だ。
否、それより速水、カスミ、瑞穂…3人が2つの能力所有者だと云う事か…
「そして、君は今大きな秘密を持っているね」
「…」
瑞穂は口を閉ざす。
それは肯定でしかない。
「そうか分かった。ところで君たちは、真人君が失われた番号である事は知っているかね」
これは全員が頷いた。
「速水君、ここからが君の知りたがっていた事だ。待たせたね」
そう云われた瞬間に、速水とカスミの目が光る。
「失われた番号は、ある能力所有者がなるものだ。我が学園でもこれまで1人だけしかいない。真人君は2人目になる」
たった2人…この少なさが妙に引っ掛かる。
そして保留になっている複数の能力…マルチスキル?
おかしくないか…何故、御社は複数と云うのだ?
瑞穂、カスミ、速水の能力は、
瑞穂が精霊使いと魔術士、カスミと速水がSAIと魔術士で共に2つだ。
だったら2つの能力と云えばいいのではないだろうか。
勿論、マルチは「複数の~」なのだから、間違いではない。
だが、御社の云うマルチはどうしても3つ以上の能力と思えてしまうのだ。
思考がどうしても一つの方向へ寄ってしまう。
こうなってしまった場合、この問題を解決しなければ、先に進めそうにない。
だったら3つ能力があると仮定した場合、どういった組み合わせがあるだろう。
この学園の定義では、上位能力『魔法使い』『精霊使い』『SAI』以外の能力は、全て魔術に該当する。
だから、この4つの能力の組み合わせになる…って俺は馬鹿か、こんな事を失念しているとは…
そもそも上位能力の中で最も価値が高いのは『魔法使い《マジックマスター》』だ。
何故、価値が高いのかと云えば、絶対数の少なさと『魔法使い』は魔術士でもあると云う事だ。
つまり『魔法使い=2つの能力保持者』となる。これならば、今まで『失われた番号』が少ない理由に合致し、俺の『精霊使い』の能力を併せれば、御社が『複数の能力』と、称したのも説明出来る。
「真人君」
御社が俺の名前を呼んでいた。
「君は頭が良い、こうして再会した今、私は信司と初めて逢った日の事を鮮明に思い出すよ。だから真実に行きついたはずだ」
「だが、俺は魔術具なんて一度も使った事がない」
「使った事がないから、使えないと云うのは間違いだよ。それに君は魔法使いとしての能力の一端を見せているじゃないか」
瑞穂、カスミ、速水が一斉に反応する。
当たり前だ。
上位能力を2つ持つ者など、今まで存在していない。
「そもそも、上位能力を持つ者は魔術を扱える可能性が高い。だからこそ、永遠の5位なんてものがある。知ってるかい、今まで5位以上になった者は全員2つの能力保持者だ。圧倒的な能力の上、能力補正もあるのだから、生半可な事では落ちないと云うのが、カラクリだったと云う事だね」
御社は話し続ける。
「真人君や瑞穂ちゃんが魔術士でも何の不思議もない。だから、始めは君たちに干渉する気はなかったんだ。神城真人が暴走して、風術士3人を再起不能にしたと云う情報が入るまではね」
なっ!何だよ、それ…知らないぞ。
そんな記憶、俺にはない。
「君たちは知らないだろう。魔招来以来、魔物は現れていない。公式発表ではそうなっているが、それは嘘だ。あの時程、強力な魔物は確かに現れていないが、何度も現れているんだよ。瑞穂ちゃん、もう良いだろう、話してくれないか。私では、報告にあった事しか伝えられない」
「あ…」
皆の視線が瑞穂に寄せられる。
瑞穂は脅えたように後ずさる。
「あの時と同じ顔ね」
カスミが云った一言で、瑞穂の動きが止まった。
「俺とこいつがやった時か」
「ええ…」
カスミが速水の言葉を肯定する。
それは、俺以外の全員が知っている事…俺だけが知らない事だ。だから、知りたいと思った。
「カスミ、あの時何があった?」
俺の質問に一瞬戸惑いを見せたが、カスミは口を開いた。
「水鏡さん、アンタを吹き飛ばした後、泣きながらこう云ったの。帰ってきてよ、真人。って…、その時の顔が今の表情と全く一緒なのよ」
「そうか。瑞穂、もう話してくれないか。俺は自分が暴走したなんて記憶がない。でも、確かにあった事なんだろ?だったら、やっぱり知っておかなきゃならんわな」
瑞穂の顔を見ながら、これまでで一番真剣に向き合う。
「分かった」
瑞穂はそう云うと、話し始めたのだった。
もう少しこの章はつづきます。
お付き合い下さい。




