失われた番号3
さて、困ったな。
職員棟の前で俺は呆然としていた。
14時に理事長室に来いとの事だが、よく考えれば理事長室が何処にあるのか、俺は知らなかった。
それでも、職員棟に来れば分かるだろと少し早めに来てみれば、職員棟には理事長室はなく、場所を聞けば「理事長に呼ばれているのなら、場所も聞いているはず」と、教えてくれない。
「どないしよ…」
結局のところ、速水が俺に場所を伝えなかったのが問題なのだ。
もし、故意に伝えなかったのだとしたら万死に値するし、故意でないのなら「このボケ、1回死ねや」と云う事になる。
「このままバックレられたら気楽なんだが…」
今までの俺なら、明日出来る事は明日すれば良いと
考えていただろうが、ここに来てから少し考えが変わってきている。
やるべき事を明日に先伸ばししたら、その分明日出来た事が出来なくなる。そうして、先伸ばしを続けていけば、終わりの時にやりとげた事の総数に違いが出てくる。
自分が死ぬ時、満足出来るかどうかは、事を成した大きさによるのではないか…そんな風に思えるのだ。
きっかけは、速水との闘いだった。
あの時、何もしないで死にたくないと思った。しかし、一矢報いた後でもやっぱり死にたくなかった。
自分が満足していない事を理解した。
だが、いつ死ぬかなんて俺には分からない、努力を続けても満足出来る保証なんてない。
それでも、出来るのなら惜しまなくやるべきだ。
「だから、俺に無駄な時間を使わせた速水をボコる。その為の努力は惜しまない」
右拳をぐっと握りしめ、俺は頑く誓ったのだった。
生徒手帳として配布されている端末を確認すると、13時半を過ぎていた。
飛翔を使えば、多少離れた場所でも10分あれば着けるだろう。
とすると残りは20分程度、ここでの選択肢は二つだ。
速水を探しに行くか、理事長室の場所を知っているヤツを探しに行くか、だ。
単純に考えれば、速水を探しに行く方が確実だ。だが、速水が何処に居るかなんて分からないし、二年の領域に行けば絡まれる可能性が高い。
だったら、カスミ辺りを見つけて聞く方が効率がいいような気がする。
何故かは知らないが、カスミはかなりの情報通だ。知っていてもおかしくない。
さて、どっちが正しい選択か。
少し考えて俺は前者を選んだ。
速水は確実に知っている、カスミは知っている可能性がある。そこを基準とすれば、実質一択だった。
「うし、行くか」
二年校舎まで飛んでいけば、俺の能力はモロバレになるのだが、この際構わないだろう。
「レイ…」
「あ~、やっと見つけた!!」
おや?
飛ぼうとした瞬間に瑞穂が、俺の方へ走ってきた。
「何処行ってたのよ、探したじゃない」
探していたと云う事を強調する。
「理事長に呼ばれててな。場所探してた」
「やっぱり、場所知らなかったんだ」
どうやら瑞穂は、俺が理事長に呼ばれている事を知っている様だ。
「瑞穂、お前場所知ってんのか?」
「私も呼ばれているのよ」
GJですよ、瑞穂さん。
親指をつき出す俺に「う、うん」と訳も分からず頷く瑞穂。
「で、何処に行けばいいんだ?」
「あ、うん。講堂の奥に立ち入り禁止の区画があるんだけど、そこにくれば分かるって」
「りょーかい。んじゃ、行くか。飛翔」
瑞穂の肩を抱き、俺は飛んだ。
「え、ええ~」
余談だが一度墜落経験のある瑞穂は、一瞬で蒼白になる。
「落ちる~、おろせ~」
結局、目的地に着くまで瑞穂は目を開く事はなかった。
「ひゃ~、これは凄いな…」
講堂を越え林を抜けると、そこにはとんでもない豪邸が建っていた。
この屋敷に来いって云うなら、理事長室に来いと云うなよ…
確かにこの屋敷の中には、理事長室として使っている部屋があるのだろう。しかしこの場合、理事長の屋敷に来いと云うのが正しくなかろうか…
はかとなく速水の悪意を感じる。
一方で、もう1つ感じる。否、こっちは殺意だな…
「コロスコロスコロス…うぷっ、気持ち悪い」
どうやら瑞穂の心的外傷を呼び起こしてしまったらしい。
「その…すまん…」
以前、落ちた時「二度と乗らん」と半殺しにされたが、ここまで苦手になってたとは…
さっきまで殺気まみれになっていた瑞穂が、
「もうヤダ~、帰る~…」
と、幼児退行を起こしてヘタれ込んでいる。
「だ~、ホントにスマン。何でもするから、許してくれ」
「ホント?」
ぐしゅぐしゅと目尻の辺り擦りながら云う。
こんな様、見せられたら何も云えん…
「ああ、出来る範囲で必ず」
「じゃ、結婚して」
「え…は、はぁぁぁ~」
「冗談よ。その内とんでもない事、命令してやるから、覚悟しといてよ」
ヨタヨタと立ち上がりながら、瑞穂は俺を睨み付け、屋敷に入っていった。
お手柔らかにお願いします。
心からそう願い、俺も後に続くのだった。
外見からも思っていたのだが、中に入るとそのセンスの良さに圧倒される。
至るところに装飾品があるのだが、そのどれもが落ち着きのある、所謂嫌味のない物なのだ。
それでいて高級品であろうと思わせる品。
ジジイは御社の事を、総じてセンスの良い男と評価していたがそれも頷ける。
「なんか凄いわね」
瑞穂も俺と同じ感想を持ったようだった。
「お待ちしておりました」
装飾品を一通り見ると、狙ったかのように、一人の男が頭を下げた。
年の頃なら50歳ぐらい、装飾品にも劣らない落ち着きと、高級感を纏った執事だった。
「真人、執事よ執事…」
何故かテンションが上がりまくっている。
「落ち着けよ…」
「だって執事よ、これで落ち着いていたら、執事ストとして失格だわ」
その執事ストとは如何なるイキモノだ。
「ねえねえ、執事って旨いのかな」
こいつは…古過ぎるボケが逆に新鮮に感じるじゃねーか。
だが、あかん。
コイツの名誉の為にも、以後無視しよう。
「神城様、水鏡様でございますね。主が2階でお待ちしております。お連れ様もいらしておりますので、どうぞこちらへ」
お連れ様か、速水は既に来てるって事だな。
俺達は、促されるまま階段を上がって行く。
俺は念の為、探査をする様、準備をしたが、
「当館では、決められ術以外の能力の使用を禁止しております」
と、執事にあっさり止められた。
ここで制止を振り切ってまで行う事ではない。
諦めてその後は、大人しく着いていくのだった。
階段を上がって右奥の部屋だった。
執事さんは、部屋の前に立つとノックをする。
「神城様と水鏡様をお連れ致しました」
「入っていただきなさい」
その透き通るような声に身震いする。
御社来栖は齡80を越えているはず、しかしその声は高齢の者の声ではなかった。
そして、開かれる扉。
その部屋にいた人物に俺達は、再度驚かされたのだった。
本当にすいません。少し文章を追加しました。
是非、読んでいただければ幸いです。
また、書きはじめてから1週間、遅い進みの中初めてポイントをいただきました。
入れてくれた方有難う御座います。やる気でました。ちょっとペースを上げて頑張ろうと思ってます。




