失われた番号2
教室内は騒然としていた。
諸悪の根源は認めたくはないが、俺だ…
100プレートのクセに、初日のブリーフィングに参加せず、二年にボコられて3週間の入院…それだけなら、まあ無くもない話なのかもしれないが、実は1プレートと互角に戦ったヤツと云う噂があるとなれば、話は違ってくる。
俺のクラスメート達は遠巻きに俺を見ながら、この3週間で仲良くなった者同士で、ひそひそ話をしている。
針のむしろだな…勘弁してくれよ。
いっそのこと話掛けてくれれば、手も足も出なかったと正直に話すのだが、腫れ物に触れるようにされるとどうしょうもない。
「お、来たな英雄♪」
そんな中、普通に話掛けてくるヤツがいた。
お~救世主よ~、Youは素晴らしくデスヨ。
どこの世界でも、必ず一人はいる気さくなヤツ。
だが、この対応を誤るとぼっち街道行きが確定する。
俺は泣きながら、そいつの手を取って、うんうん頷いたのだが…
「あれ、お前…」
それは昨日、エレベーターの前で会った男だった。
「何、泣いてんのお前」
「泣いてなんかないやい!」
精一杯の強がりだった。
「だ~はっははは、そりゃ災難だったな」
金縫亮と名乗った男は、俺の話を聞くと豪快に笑い飛ばした。
「笑い事じゃねえよ、居たたまれなさ過ぎだ」
「でもよ、1プレート美女二人もはべらして、8階の住人なら、それもしゃーなしだな」
「ばっ!!」
金縫は声がデカイ、回りの人間が聞き耳を立ててる状況で聞こえないはずがない。
「ね、聞いた?二股だって」
「鬼畜よ、鬼畜」
あ~、速水とヤッタ時にも浮かばなかった走馬灯が、今見える。
「も、いい。好きにしてくれ」
「あら~」
流石に悪いと思ったのか、金縫は声を落として云った。
「ま、英雄色を好むと云うしいいだろ。昔の偉い人の名言にハーレム王に俺はなる!ってーのもあったみたいだし」
それは偉くも名言じゃなく、エロい人の宣言だろう。もしくは、ウチのじじいの迷言だ。
「で、お前。選択どーすんの?」
前文の会話とまるで脈絡のない事を云い出す金縫。
だが混沌としていた教室が一挙に静かになった。
「何だコレ?」
異様な雰囲気に気圧され、金縫に耳打ちする。
「ああ、そりゃ一番気になる事だからだろ。強いヤツに着いていけば、恩恵を期待出来るから」
なるほど…この学校は通常の授業はない。各人が受けたいものだけ受ければいい。
そこに単位なんてものはないし、1つも受ける必要もない。
この教室は、ただこの学校にいる証明として出席を確認する為だけのものだ。だから、意中の者と何かしらの接点を持ちたいと思ったら、そいつが選択している授業に出るのが良いと云う事だ。
「ハイエナ根性丸出しだな…」
「別に悪いこっちゃないだろ、弱い者がつるむのは普通の事だし」
そりゃ、そうかも知れないがやられる方はたまったもんじゃない。
「お前も、それが目的か」
コイツは違う匂いがしているように思えるが、
「ま、俺も100プレートだからな、上に行ってみたいと思うが、才能がないんでな。既に諦めてるんだわ。だから、今の夢は最強の魔術具を創ることなんだ」
ニカっと笑う。
「で、何で俺がお前に近づいたかと云うとだな。俺が創った道具をお前が使う、所謂テスターにならへんかなと思ってな」
「俺が?」
「ああ、強いヤツに色々試してもらう方がいいんだよ」
「ふむ…金縫、これからしばらくの間喋んな」
「ん?ああ、構わんが、それよか名前で呼んでくれ」
「OK、亮。行くぞ」
空伝絃
(俺は精霊使いなんだよ。つう訳で無理だ)
「は、上位能力!」
「喋んなって」
ったく、コイツは…
「ま、もういいや。俺にはムリだが、一人心当たりがある。そう云う事なら、紹介してやるよ」
「マジか♪」
目を輝かせて亮は喜んでいる。
「ああ、今日の夜にでも俺の部屋に来てくれ。それと、俺は選択授業は受けないからな」
どうせ、選択は予約のようなものだ。空きがあるなら、いつでも受けられる。
さっきの一言で、回り意識も別方向に向かっている。
「え、お前の部屋って8階だろ」
「ああ811だ」
「部屋間違えたら、殺されるじゃないか」
そんな訳ないだろ。
「間違えないよ、あれは間違えようがない」
その時、教室が再びざわついた。
「神城真人」
ん、名前を呼ばれた方を見る。
「げっ!!速水」
「先輩」
ゆっくり、近づいてくる様はあの時を思い出させる。
さて、どうするかな?
もう一度やれば、負け確定だしな。
口八丁で逃げられるだろうか。
「神城真人。もう一度俺とやればどうなるか分かるな」
「勝ち誇る為にわざわざこんな所まで、随分暇なんですね」
「否、俺はメッセンジャーとして来てる」
はあ?学年4位を使うヤツ。
「ああ、生徒じゃない。14時に理事長室に来いとの事だ。勿論、俺も呼ばれている。忘れるなよ」
それだけ云って、速水は踵を返した。
「お、おい神城…」
「さて、何だろうな」
素知らぬ顔をして見せたが、内心気が気ではなかった。俺はここの理事長を知っている。
御社来栖、俺の祖父神城信司の親友にして、魔術士の父、稀代の怪物と称され男。
出来れば一生会いたくない男だった。




