失われた番号1
「すいません。ちょっといいですか?」
寮の管理室の窓口を叩く。
「はぃ~、どうしましたかぁ~」
管理責任者の橘弥生さんがいつものように、のんびりとした口調で出てきた。
「あらあらあらあら、神城く~ん」
…あらが多いな。
「お久しぶりです」
「はぃ~、3週間ぶりです~。随分、掛かりましたがそんなに酷かったんですかぁ~」
「骨折は大したことじゃなかったんですが、頭しこたまぶつけましたんで、様子見って感じです」
「そ~ですかぁ~、神城く~ん、頭が悪かったんですねぇ~」
…悪気はないよな。多分…
「これからの人生を頑張ってくださ~い」
「おい…今、完全に頭弱い子の意味合いだっただろ!!」
「冗談ですかぁ~?」
何故、疑問系だコラ…
「プッ、くくく…傑作。あははは~」
後ろで瑞穂が声を出し笑い。カスミは腹を抱えて笑いを堪えている。
「弥生さん、もうマジ勘弁して下さい」
「仕方ないですね~、もう心配掛けちゃ、めっ、ですよ~」
…弥生さん、マジぱねっすよ。
「お部屋ですよね~、え~と811号室ですぅ~」
『えっ!』
何故か、俺の部屋番号を聞いて驚く2人。
何だ一体。
「これが鍵ですぅ~、荷物は部屋にありますよ~」
「あ、どうも」
鍵を受け取り、エレベーターに向かうと二人はトコトコ着いてくる。
一週間も前に入寮しているのに、何故今更部屋を聞くのか、一応説明しておく。今まで使っていた部屋は入学式までの仮部屋なのだ。
自分が使う部屋は入学式が終わった後、さっきのように管理室に確認して移動する。
そしてこれは3ヶ月毎に行う儀式と云って良い。
お察しの通り、自分のランクによって部屋が違うのだ。
こんなトコでも、格差をつけるとは…
確か100プレートは2人部屋だったような気がしたが、賃金なんぞは我慢するが出来れば一人が良かった。
まあ、ウザくない奴がルームメイトである事を祈ろう。
「ああ、そうだ。そういやさっき、なんで二人共驚いてたんだ?」
瑞穂とカスミにそう聞くと、二人は顔を見合せてからニヤリとした。
完全に何か企んでいる顔だ。
…うん、早く自室に退避しよう。
『チーン!』と音が鳴り、ドアが開くと一人の男が出てきた。
「おっ!」
すれ違い様に男は、俺の顔を値踏みするように見て、そのまま玄関に向かって出ていった。
「何だアレ、感じ悪いな。なあ?」
二人に同意を求めると、カスミは額に手を当てて「ふぅ~」と溜め息を吐き。瑞穂は「あはは」呆れた顔で苦笑している。
何だ、このアウェイ感…
エレベーターに乗り、8階のボタンを押す。
瑞穂とカスミに何階か聞くと「いいから、気にしない」と、二人に云われる。
うーむ、居心地悪っ!!
エレベーターの液晶が8階を差し、ドアが開くと瑞穂とカスミはエレベーターを降りる。そして、
「真人~、こっちこっち」
瑞穂に呼ばれる。
何か案内されてるんだが、まさか部屋まで押し掛ける気か…
ま、相部屋だし、そりゃないか…
安心して、二人に着いていくと811のプレートがあった。
「さっさと入りなさいよ、ノロマ」
「何だカスミ、ツンデレにジョブチェンジしたのか?」
「神城、アンタよくレトロな単語使うわよね。馬鹿なの」
至って冷静に返される。
「やかましい、ウチのじーさんの影響だ。ほっとけ!」
「あはは…」
ウチの妖怪ジジイを良く知る瑞穂は笑って誤魔化す。まあ、一番の被害者だしな…合掌。
「んで、どーでもいいから、早く開けてよ」
カスミはドアを開けるよう急かす。
「って、お前らいつまでいる気だ!」
「あーら、部屋に招待して、お茶を振る舞うぐらいの気概をみせなさいよ」
うわ、上から目線だなコイツ…つーか、この間の病室での一件から怒りっぽくなってないか。
まったく、女ってヤツはさっぱり分からん。
「同居人がいたらムリだからな」
一応、念を押すと瑞穂が、
「多分、大丈夫だと思うよ」
と、確信をもっているように云ったのだった。
「なんじゃ、こりぁあああ~」
口をパクパクさせて二人を見る。
「何ってアンタの部屋じゃない」
冷静な人1は普通に云う。
「うん、別に変なトコはないね」
冷静な人2も至って普通。
あんたらおかしいぞ、マジで…
兎に角、だだっ広い空間が広がっている。
今まで使ってた、仮部屋の10倍ぐらいあるのではないだろうか?
確かに一人部屋を希望した事はしたが…流石にこんなに広い空間は落ち着かん。
「おい、もしかしてこの階…」
「私の部屋は806だから、いつでも来るのは許さないけど、本当に用事がある時だけノックする事を認めてあげる」
入れる気はねーな、コイツ…
「あ、私は808だから、ね。さて、お茶でも入れましょか」
そう云って瑞穂は奥へ消える。
やっぱり、1プレート領域か。
「お茶って、んなもん用意してないぞ」
「何云ってんの?備品として一通りは用意されてるわよ」
…何なんだ、このハイソサエイティーな環境は、この格差は正直悪意しか感じないぞ。
「この環境に居たかったら頑張りなさいって事でしょ。社会の縮図としては妥当なトコよ」
我が物顔で、ソファーを陣取るカスミ様…もうどうにでもしてくれ。
「でも、これで決まりね」
瑞穂がお茶を入れて、戻ってくるとカスミが口を開いた。
そして、お茶を一口。
「何が?」
瑞穂が聞き返す。
主語がないのだから、当然の疑問だな。
「神城のランク」
『は?』
瑞穂と俺は、言葉をハモらせた。
「あくまでも噂レベルの話だけど、極稀に既存の評価から外れる生徒がいるんだって」
「でも、真人は100プレートを貰ってるわよ」
「ええ、確かに。でも水鏡さん、あなた神城のプレートと他の人のプレートを見比べた事ある?」
ひらめいたのか「あっ」と云って、首を横にふった。
なるほど、確かにそうだ。
持ち主の俺だって、別の人の100プレートと、本当に同じ物かと云われれば悩むだろう。
「そ、例え外見が同じでも、中身が同じだとは限らない。中身の解析まで行う人は居ないからね」
「面白い話だが、だったら逆にこの部屋を充てられた。意味が分からないな」
隠しキャラを隠さなければ、それは普通キャラにしかならない。
「はあ~…」
「まあ、こういうヤツだから」
カスミがいつものように盛大な溜め息を吐くと、瑞穂がフォローする。
俺、間違った事を云ったか…
「アンタねぇ…自分が何やったか、本当に分かってんの…」
「公式には何にもなってないじゃん」
「馬鹿、あんな目立った事隠せる訳ないでしょ。全生徒が少なくても、一年の100プレートが二年の1プレートと互角に闘かった、その時の怪我で現在入院中。で、実際に3週間来ていない生徒がいる。程度の情報は持ってるわよ」
だあ~、面倒くさい事になったな。
ただ、それならばカスミの云う事は理解出来るし、エレベーター前であの男の態度ももっともだ。
「私も学校で聞いて回ったけど、本多さんが云ってた事ぐらいはみんな知ってたよ。尾ひれが着いてる事もあったし」
「尾ひれが着いるぐらいで、丁度いいんじゃない」
そう云って、またお茶を啜る。
「だから、プレート評価に間違いがあったかもしれないとする事にしたって訳か…俺にこの部屋を充てがったのは、一番見えてはいけないものを隠す為だな」
「そうね。で、真人のランクだけど、おそらくはゼロ…既存の評価を外れた者は、こう云われる…」
失われた番号




