永遠の5位
そこは、静かな空間だった。
「何処だここ」
声を出したら、更なる驚きがある。
なんせ、自分の声以外に音がないのだ。
…夢だな。うん、夢だ。間違いない。
この世界、無音室だって自分が動けば音が出る。にも、関わらず声以外の音がないのだから、夢以外に考えようがない。
おお、そうだ!!頬をつねってみよう。
音が鳴らないのに手を叩く…あれ…手がない。
否、体もない。
そこにあるような感じはあるのに無いのだ。
耳も口もないのに声が出せる。
やっぱ、夢だ。
「当たらずとも、遠からずだな」
え?なんだこの夢…変な声が聞こえるわ。
「これが我が主とはなさけない」
「俺だって、変な声を従者に持った覚えはないわい」
「まったく、我とは初めてではないのだぞ」
はあ?云われみればそんな気がするな。
だが、霞がかったように大切な記憶が出てこない。
「仕方がない、我が名はジン」
ジン…あっ!
名前を聞いて思い出す。
5年前に契約をした精霊の名を…
「と、云うような夢だったんだ」
「何そのオチない、オチは…」
ここのところ毎日顔を出しているカスミは、心底バカと云わんばかりだ。
あの速水とのプレートバトルから2週間が経ち、俺はまだ病院のベッドの上にいた。
あばら2本と右手人差し指の骨折。顔は打撲により全体的に腫れ上がっていたらしい。
「アンパ○マンみたいだった」とカスミは、まだ馬鹿にする。
「そう云えば瑞穂は?」
まだ姿を見せない幼馴染みが何処にいるか、確認したかったのだが、カスミは「さあ」と首を傾げた。
瑞穂が居ればあの夢の事、何か分かるかと思ったが残念だ。
「なあに、こんな美少女がお見舞いに来てるのに、ヤッパリ幼馴染みの方がいい訳?」
何を云っとるんだ、この倒錯妖怪僕っ子が…
「氷の矢」
カツ、カツっと顔の両横氷の矢が刺さる。
「ひっ!!」
「アンタ、また変な事考えてたでしょ」
本をめくり、魔術で抗議をするカスミ。
「病院の備品壊すなよ…請求されたら、お前に回すからな」
「セコイわね」
「セコくないわい!お前100プレートの賃金分かってんのか」
この学園の入学は強制なだけに、入学と同時に俺たちには特別国家公務員とされる。だから、当然賃金も発生する。
細かい賃金については個人情報保護の観点から、明言は避けるが、1プレートと100プレートだと、特選肉まんと冷凍小籠包(1個)ぐらい違うとだけ云っておこう。
そして、ここに居るカスミはなんと学年5位だった。因みに瑞穂は7位である。
つまり、俺とコイツ等ではブルジョワ度が違うのだ。
「ねぇ、100プレートって云ったら、アンタ抗議した方がいいわよ。あの速水を倒しておいて、あり得ない評価じゃない」
「倒してないだろ、何とか引き分けただけだ」
それに実力では、速水には遠く及ばない。
最後のアレが何だったのか、俺にも良く分かっていないのだ。
「それよか瑞穂だ。アイツ速水に負けたんだろ」
「また瑞穂…もう、負けたって云っても2年の4位よ。評価に響く訳ないでしょ。それにあの後、何度か絡まれたみたいだけど、瞬殺してたから問題ないわ」
そうか…良かった。
瑞穂を先行離脱させたのは俺のミスだ。
結果論ではあるが、カスミと一緒に離脱させるべきだった。だが、被害が最小で済んでいるのは不幸中の幸と云える。
「ねぇ、それより真剣に私の話を考えてよ。少なくともアンタは私より強い。永遠の5位にはアンタの方がいいに決まってる」
「うーん、柄じゃないんだよな。な、その永遠の5位って、何だ。速水にも云ってたよな、アイツは4位だぞ」
「…はぁ~」
本当に駄目な奴と云わんばかりに、大きな溜め息をカスミはした。
そーゆーの意外に傷つくんですけど…
「永遠の5位はね。一番始めの評価で5位以内に入った者逹の総称よ。下位プレートから1プレートに上がった者はいるけど、5位から落ちた者はいない」
「へぇ~」
「へぇ~って、アンタこの意味分かってんの?5位と6位には大きな壁があるって事なのよ」
力説する様がなんか面白い。
「けどよ、俺が抗議して5位なったとしてだ。お前が6位になったら、もうその時点で永遠の5位なんてマヤカシって事じゃね」
「だから、始めから間違いだったのよ」
なるほど、そう云う事か…
「つまり、自分が初めての転落者になるのが嫌と云う訳だな」
「うっ、でもでも、私だって努力が足りず下位に抜かれて落ちるなら、嫌だけど納得するわよ。でも、始めから上にいる者が正当な評価をされてなかったから、落ちましたって、やりきれないじゃない」
そんな事気にしてたんだコイツ。
意外にプライドが高いな。
「わっはっははは、こりゃ傑作だ」
「なによ」
「なぁ聞くが、今、お前より上の奴に一生勝てないと思うか?」
「馬鹿云わないでよ、永遠の5位同士なら、変動してるのよ。追い抜く事は可能よ」
コイツここまで云って気付かないのか…
本当に可哀想な娘に見えてきたぞ。
「だったら、6位に落ちても這い上がる事は出来るよな。今、5位のお前が出来て、6位になったら出来ないっておかしいもんな。だったらヤッパリ崩壊してんだよ。壊れるもんの最初になったって別にいいじゃねーか」
「うー」
何かに引っ掛かりを感じているのか、納得しないカスミ。
ったく、しゃーねーな。
「どっちにしても、お前と瑞穂は同じぐらいの強さだそ、今年はそう云う…いてぇ!!」
言葉途中でカスミに耳を引っ張られる。そして、
「あほー!!」
鼓膜が破れるかと思う程、デカイ声で罵られた。
「帰る!」
プリプリと病室を出ていくカスミ。
「なぜ?」
病室に残された俺は、一人呟くしかなかった。
幕間回です。
息抜きになりました。




