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入学初日の出来事3(プレートバトル6)

上位能力ハイスキル、PSI瞬間移動(テレポート)が速水の能力である事は、丘での一件で分かっていた。

あの時、俺は中距離の探査(サーチ)を行っていた。その時に速水は引っ掛からなかった。

ならば可能性は二つ。

探査の効果範囲外から数秒であそこに来たか、元々居たが探査に引っ掛からない様対策を講じていたか、だ。

だから「瑞穂が通りすぎたか」と聞いてみた。

そして答えは「NO」。後は知識の中から該当する能力を特定した。


瞬間移動テレポートは、攻撃力で云えば俺の風の精霊術が上だ。だが、風の最大の武器「移動力(スピード)」では足下にも及ばない。

相性は最悪と云っていいだろう。

それでも対応方法はある。

まあ、勝てるとは思えないが…多少の時間稼ぎぐらいは出来るだろう。


速水が右手を上げると、残っていた5人の上級生は一斉に離脱する。

正直、速水だけでも手に余るだけに撤退してくれるのは有難い。


「さ、やろーか後輩!」

云うが如く姿が消える。

ったく、やってくれる。

思うと同時に右へ翔ぶ。

風弾エアバレット

振り向かずに今俺がいた場所へ、威力はないが最速の弾丸を4発放つ。

「チッ!」

ヒット!!

当たった事を確認して、足を止める。

「あ~いて」

右手を振りながら、さっきまで俺がいた場所で速水は立っている。


瞬間移動テレポートは確かに厄介な能力だ。

だが、弱点がないのない完璧な能力と云う訳ではないのだ。


瞬間移動テレポートの弱点は2つ。

一つ目は、大きな精神力を使うと云う事。

分かり易く云うば、MPの消費が激しいと云う事だ。

ただ、一発逆転の大魔法ほど大きな力を使う訳ではないので、乱用しなければ使用不能になる心配はないだろう。

そして二つ目は、視界に映る範囲でのみ移動可能と云う事だ。

つまり、絶えず速水の正面に立ち、視線を確認しておけば、何処に跳ぶか予測する事が出来る。

さっきは、俺の方を見ながら跳んだので、おそらくは後ろを取りに来ると判断したという訳だ。


速水がただの瞬間移動能力者(テレポーター)なら、これだけでも時間稼ぎは出来るだろう。しかし、初めに食らった攻撃の威力は尋常じゃなかった。

あれが普通の蹴りと云うなら、速水は紛れもない化物だ。否、カスミをあそこまでビビらせるだけで充分に化物であるのだが、それ以上に勝てる者など居ない無敵の存在になる。

だが、速水は4位。まだ上に3人もいる。十中八九、何か別の能力がある。


「やっぱお前、いいな♪おもしろい。足枷がなくなれば、それなりに動く」

不敵に笑い。俺を視姦する。

確かにカスミを気にしながらでは、対応する事は出来なかっただろう。

「そりぁ、どーも」

ヤバっ、額から流れる汗が運動をする事によって流れる汗でない事は明白だ。

「けど、勝つ気がないのはいただけないな」


飛ぶ!

直感したが、今度はその場に留まる。

右っ!!

風の盾(ウインドガード)

速水の攻撃を避けるには、動くと同時に俺も動かなければならない。だが、防御ならする事が出来る。


風の盾(ウインドガード)風障壁(ウインドウォール)に比べればベニヤ板程度のものだ。だが、任意の場所に出す事が出来、初撃のような攻撃を受けても、一撃で戦闘不能にはならない程度の防御力がある。


ドゴッ!

速水の右拳を風の盾(ウインドウォール)が受け止める。やはり、さっきのような威力はない。


「受け止めただけで満足するなや、ボケが」

右側に居た速水の姿が再び消える。

上っ!

「だから、甘いんだよ!」

一瞬で上に感じた気配が消え、正面に現れる。

連続瞬間移動テレポートだと…

「がっ!!」

ガードする暇もなく、速水の右拳が俺の腹部に刺さる。

クソッ、体の中の酸素が全部外に出たみたいじゃねーか。

「これで終わりだと思うか?」

速水の言葉に得も知れない寒気がした。

「なっ!」

スローモーションの様な蹴りが、俺の顔に向かって放たれる。

この蹴りはヤバい。

瞬間に風の盾(ウインドガード)を展開出来たのは僥倖だった。盾が蹴りを止めたと同時に左へ跳ぶ。だが速水の蹴りは風の盾(ウインドガード)を簡単に破壊し、俺の顔を捉えた。


暗転ブラックアウトと云うのはこう云う事か。

視界が真っ黒に染まり、意識が無くなる。

俺は初めて死と云うもの感じた。

だが、次の瞬間これが疑似体験であった事を思い知る。

背中に走る激痛が俺を現実に引き戻した。

「あっ…」

とは云え、視界は歪み。思考が上手く働かない。かろうじて、背中の痛みは木に叩き付けられたものだと理解した。


「おい、失われた番号(ロストナンバー)

失われた番号(ロストナンバー)?なんの事だ?

ゆっくりと近づき、俺の胸元を掴み速水は云う。

「お前、プレートバトルじゃ殺されないと思ってるだろ?」

「へへ、今死ぬかと思いましたよ」

俺の軽口に速水は、軽蔑の眼差しを向ける。

「いいか。ここでは殺しについて抑止力があるのは、ポイントを取得出来ないと云う事だけだ。つまり殺したとしても事故なんだよ。そして、上位1プレート(ワンプレ)持ちはあまりポイントに興味はない、この意味分かるな」


その後は何も云わず、ただ俺の顔面を殴り続けた。

このままなら、間違いなく殺される。

既に痛みは感じなくなっている。

死の前には、思い出が走馬灯のように涌いてくるなんて、嘘じゃねーか。

今浮かんでくるのは、一矢報いる事も出来ず殺されたくないと云う思いだけだった。

このままじゃ格好悪いだろ。

自分に最後の力が残っている事を確認する。そして、惰性で殴り続ける速水の腕を取ると、ガラ空きの顔面に一撃をお見舞いする。


「がっ、このガキっ!!」

不安定な体勢での一撃だ。大したダメージではないだろう。しかし、速水の戒めからは逃れる事は出来る。

そのまま、右へ転がる。

後一撃、激昂した速水が俺の腹へ蹴りを入れれば、一太刀を浴びせる事が出来る。

俺はわざと速水に腹部を晒すよう倒れた。

頼む引っ掛かれ!!


願いは天に届く、速水はガラ空きの腹に一撃を入れた。

「ぐふっ!!」

悶絶ものの痛みだが、悦びが行動力の阻害から守ってくれる。

ったく、とんたMだな。

けど、ざまあ…

腹に一撃を食らった事で、当然俺の体は転がる。

これで目的の距離は稼げた。


「終わりだな」

ゆっくりと俺に近づいてくる速水。

3、2…1もう少し、そしてゼロ。

「いいえ、もうちょい付き合ってもらいますよ」

残った俺の力は「パチン」と指を鳴らす事しか出来ない。

風激陣エアブラストゾーン

速水の足下から風の礫が無数に吹き上がる。

礫は速水の体を浮かし、その背中を叩きながら上空へ連れていく。

これは、上級生が襲撃する前に俺が仕掛けていたトラップだ。

その上に上級生が立てば使うつもりだったが、生憎と有効範囲が狭過ぎて使う事はなかった。


ドサっ!音がした。

速水が上空から落ちてきた音だ。

「一矢報いてやったぞ。ざまあみろ」

体はまるで動かないが、俺は声を張り上げた。

死にたくはないが、死に際の言葉が格好悪いものにならなかっただけでも良しとしよう。

「ああ、やってくれたな」

ふらふらしながらも、速水は起き上がる。


重力操作グラビティコントロールですよね」

速水の攻撃力が跳ね上がる理由だ。

これに気づいたのは、蹴りを顔に食らった時だった。

風の盾(ウインドガード)と威力を殺す為、横に跳んだのを差し引いても、あの蹴りの威力は初撃より弱かった。

それでも頭だったんで死ぬと思ったが…

重力操作グラビティコントロール なら、横より縱の攻撃が強くなるのは当然だからだ。

そして、風激陣エアブラストゾーンは上空に相手を上げる攻撃方法なのだから、真逆と云える。流石にノーダメージとはいかないだろうが、一撃必殺になる由もなかった。


「けど、これって魔術だと思いましたが」

「ああ、そうだよ。俺はな、両方使えるんだよ」

二つの能力ツインスキル…」

汚えな、どんなチーターだよ…コイツ。


「ま、お前は良くやったよ。同じ精霊使い(エレメントマスター)でも、一瞬で片付いたあのカスとは段違いだ」

は?コイツ何を云ってんだ…

「2回も消化不良な思いをするなら、殺してやろうと思ったが、お前は勿体無いな」

精霊使い(エレメントマスター)を片付けた?

「ちょっと待てよ」

「はあ?」

「テメー今、何を片付けたって云った?」


不思議な感じだった。

指一本動かなかった俺が立ち上がる。

「何だお前、まだ動けんのか」

「喧しい、テメーは俺の質問に答えろや!!」

どす黒い感情が生まれる。

「殺されたいみたいだな、お前。いいだろう、水使いの女を狩ってやったって云ったんだよ」

「そうか、じゃ、テメーは死ね」

俺の中から殺意が膨れ上がる。

既に、自分が自分でないように感じた。


「チッ」

速水は俺の殺気に押されたように飛んだ。

焦りから安易な方法を選んだ様だ。つまり、俺の背後を取ろうとした訳だ。

空間を渡るとは云え、今の俺に一直線で近づくとは愚かな事だ。

俺は速水がすり抜け様とした瞬間に、ヤツの手を掴み、精神世界アストラルサイドから、引き摺り出した。

「は、何?」

何が起こったのか分からない速水は、間抜けな顔を晒す。

「なあ、どんな死に方が希望だ?」

「え?」

みるみる血の気が引いていく速水は滑稽だった。

「ああ、そう云えば、さっきタコ殴りしてくれたな。じゃあ、同じ事をしてやろう」

速水を地面に叩き伏せ、馬乗りになると顔面を殴打する。

「は、はははッ…わっはっははは…」

必死に顔面をガードする速水。わざとガードの上から殴る事が楽しくて仕方がない。

やめろ、やめろ、やめろ…

何処からか声が聞こえるが、俺の抑止力にはならない。


水竜波アクアブラスト!」

背中に術を受けて俺は吹き飛ぶ。

そして、術が飛んできた方向を見ると泣いている瑞穂とカスミが走り寄って来ていた。


瑞穂、無事だったんだ…

そのまま、俺は意識を失ったのだった。



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