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常連の女

作者: saki

 湧いて出てきたみたいに膨大な仕事に揉まれに、揉まれて疲れはてて終える金曜日の夜に俺の楽しみはある。

 ここいらのオッサンなら知る人ぞ知る、屋台ラーメン「星満天」(ほしまんてん)。ここいらの若造は、きっと職場のオッサンにここのラーメンを教えてもらって初めて一人前と認められるのだろう。そんな、店だ。

 悴む(かじかむ)手をさすりながら暖簾をくぐると、冷たい空気が遮断されてむわっとした熱気とスープ匂いが感じられる。

 五人しか座れないカウンターには頭のてっぺんが寂しそうなオッサンと顔色の悪いオッサンっが先に座っていた。


「よぉ!かずっちゃん!いらっしゃい!」

「おっちゃん、いつもの」

「あいよ!」

 

 威勢の良い店主が麺をポンと一玉、熱湯の中に落とす。

麺がくっつかないように時折かき混ぜる様子を見ていると、後ろから暖簾をめくってくる気配がした。


「おじさん。醤油一つに煮玉子追加でお願いします」

「あいよ!」


 今日も今日とて、彼女が来たようだ。 

 

 どうやら寂しそうなオッサン、(もはやどこがとは言うまい)はどうやら彼女と鉢合わせするのは初めてのようだ。なんでこんなとこに、こんな若くて可愛い子が入ってくるんだと顔にデカデカと書いてある。


 (オッサン、奇遇だな俺も最初はそう思ったよ)


 系統としては決して派手な容姿じゃないが顔全体が整っていて清潔感がある。分類をつけるなら地味系美人と言ったところだ。こんな女の子なら近くのスタバか洒落たカフェにでも入って腹に溜まりそうにないベーグルサンドでも小さな口でチミチミ食べていそうだ。

 しかし、彼女。見た目に反して喰いっぷりがとてもなく良い。見ていると分かるのだが気持ちいいのだ。見ているこっちが食欲が増すのだ。

 

「今日も、気持ちよく食べてよ〜!(カオル)ちゃん!」

「はい。いただきます」


 俺のラーメンと彼女のラーメンが丁度、一緒のタイミングで出来たようでドンと豪快に目の前に置かれる。俺の方が付き合い長いはずなのに、俺には一言も無しかい。おっちゃん。


(まぁ、いいや)


 魚介出汁に醤油ベースのスープと、スープに良く絡む中縮れ麺。パリッとした海苔と細切りメンマに厚めのチャーシューとナルト。見た目、典型的なラーメンだがこのラーメンを五十年間作り続けてきたおっちゃんによるものだと思えば価値は上がる。

 

「「いただきます」」


 最近では食事の挨拶「いただきます」と「ごちそうさま」なんて言わない奴が増えているが、この屋台で挨拶を省くともれなくおっちゃんの拳固が飛んでくる。俺は初めて生で「雷オジサン」なるものを見た。俺のガキの頃には虐待問題や体罰問題などの煽りで「雷オジサン」は幻の生き物と化していたからである。


 俺の中の決まりでラーメンの最初はスープを飲む。

 熱々のスープが舌から喉へジュワッと流れ込んでくる。冷えていた身体に熱とうま味が染み渡る。


(っぁあ!うめぇ)


 内心の唸り声を現実でやるとオッサン臭いらしい。ついこの間、夜勤明けのコーヒーを煽ってからそれをしたら同じ課の女子達に「オッサン臭い!!」と大ブーイングを喰らった。そろそろ、気になる年に差し掛かってきたので結構心の傷トラウマになった。


「ぷっはぁ!おいしい」


 しみじみ、そんな事を考えていた俺の横で例の女の子が唸りをあげた。


(あれ?女子力とか気にしなくて良いの?)


 俺の疑問の眼差しなんて、気付くことなく女の子、(確か名前はカオルちゃん?)は見本のような箸の持ち方でもって麺を持ち上げて少し下げて、今度は口元まで持ち上げると、


ズボッ!!!


(おぉ〜!!相変わらず、お見事)


 一気に勢い良く麺を吸い込んだ。

 最近の若い奴と言ったら女でも男でも汁が飛ぶのが嫌なのか麺を、子供みたいにチミチミ噛みながら食べる。俺はそれが気に入らない。


(こんな事考えてっと、ほんとに親父臭いな)


 グダグダ考えていても、箸と口が止まることはない。それは彼女も同じで、実に旨そうに食べている。


 小さな口に、啜られる麺。

 熱々のスープを白い喉を鳴らしながら飲み込む。

 細くてしなやかな手が箸を操って、とろりとした煮玉子を口に運ぶ。

 頬張りきれなかった煮玉子の半熟した黄身の部分が口の端から


(あ、こぼれた)


 それを真っ赤な舌が舐めとった。

 白かった頬が上気して、伏せた睫の奥の瞳がうっとりと「最高」と語っている。


 とっくに喰い終わっておっちゃんと世間話していたオッサン二人はいつの間にか彼女に魅入ってる。

 空になった器が目の前にある筈なのに、その喉がごくりとなったのを俺はしかと見た。


「おっちゃん。俺、もう一玉追加で」

「・・・俺も」


 それみたことか。彼女と鉢合わせして間近で食べる様子を見てしまうと腹が減る。

 

 喰い終わったなら、もう一杯欲しくなり。

 

 まだ食べていないなら、まだかまだかとそわそわしだす。


 彼女の喰いっぷりは、


 豪快で、


 美しく、


 艶っぽくて、


 そそられる。



 ちなみに俺は、


パンっ!!

 

「ごちそうさまでした!」


 食べ終わって満足した可愛い笑顔にも、そそられる。

 

(・・・いきなり声かけたら、恐がれるかね)


 そろそろ、自分もおっさんと呼ばれるような年になってきた。なのに、奥さんもいなけりゃ彼女もいない。仕事柄、いつ命落としても不思議じゃぁない。なのに独り身って言うのは寂しいから彼女はもの凄く欲しい。

 できれば隣で女子力なんて、よく分からん数値なんて気にせずに屋台の常連でラーメン啜る女の子とかが良い。

 というか、もの凄く良い。

 

(よし。男は度胸だ)


 オッサン等がラーメン啜ってる横でしたナンパが成功したかしなかったかは、まぁ、また今度の話と言うことで。


 裏設定として、男の人は警察官で刑事というどうでも良い設定があったり、この後二人で休日は美味しいもの巡りをするとかもはやどうでも良い設定があったりする。ちなみに二人は六歳差

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― 新着の感想 ―
[良い点] 描写が丁寧でとてもうまいラーメンを食べたくなりました。 [気になる点] こんな時間におなかが空いてしまいました。 [一言] 「続きません」と言うことなので、こちらで妄想中です。 ご馳走様…
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