踊り子の初恋……なのかもしれない?
今回も、mixiのサークルで、三つのお題から小説を書こうという企画用に書いたショートショート小説です。ちなみに今回のお題は「暴れる、山、うつ」でした。SSにしては今回もちょっと長めで、9032字の小説だったりします。完全オリジナルで、逆MMO小説、という感じの小説ですね。どうかよろしくお願いします♪。
ここ、どこ……?
あたしはきょろきょろと周囲を見回す。
記憶を探ってみて、あたしは確か宿屋で眠りについたところまで、思い出す。
いつも通り、冒険者ギルドで依頼を受けて、それを解決し、ついでにダンサーとしてダンスを通りで披露して、それから疲れで宿で眠ったはずだった。
だから、当然ここは宿のはず。
でも……周囲は、なんというか、木、木、緑の木が沢山!
どう見てもここ、山だよね? 宿には見えない!?
誰かが幻覚の魔法、使ってるの?
あたしはぺたっと近くの木に触ってみた。うん、ちゃんとした木だ。
高度な幻覚だと感触まで操れるらしいけど、うーん、なんかそこまでする理由ないだろうし、とりあえずここは山!
何故か山にあたしはいるんだと、思っておこう!
その時、あたしの危険感知スキルが、誰かが接近してきたのを察知する。
でも、殺意は感じられない。ただ、必死に、すごい必死に、何かから逃げるように走ってるみたいだ。
何だろう? あたしは気配の方を見ると、茂みをがさがさ掻きわけて、一人の少年が姿を表した。
あたしと同じくらいの、16歳くらいの年齢の少年だ。
ただし、服装が何か変だ。あたしの見たことない奇妙な服を着ている。
少年はあたしの気配に気づかなかったらしく、あたしの姿を見て、驚いた顔をした。
「き、きみは……?」
「きみこそ、誰? というか、ここはどこ?」
「は? それにその格好どうしたんだ? 今、冬なのに、寒くないのか?」
彼はそう言って少し顔を赤らめて、あたしから視線をそらした。
何か、見た目どおり、純情な少年みたい。
でも、なんか不自然に純情すぎる気がする。
確かにあたしの服は、上も下も下着に近い格好だ。でも、踊り子なら、こういう格好当たり前だし、町にだってダンサーのクラスの子、沢山いるから、結構普通に歩いているのに。
あたしの格好、見慣れてないということは、よっぽど田舎の村の子なのかな?
それとも、うーん、どこか、本当にテレポートか何かの呪文で、外国に来てしまったのかな?
「ここ、本当にどこ? そもそも何て国なの?」
「馬鹿な質問してないで、さっさと逃げるぞ! 早くこっち!」
少年はあたしを見ないようにしながら、強引にあたしの腕を掴むと、腕を引っ張って走り出した。
意外と力は強い感じで、ちょっと腕が痛い。
「ちょ、ちょっと、何を慌ててるのよ? いいから質問に答えてよ」
「いい加減にその冗談辞めないとしないと怒るぞ! 俺の友達が殺されたんだ。信じられないだろうけど、何か変な化け物に……」
「化け物? モンスターって、こと?」
「化け物は化け物だ。俺達も逃げないと、殺されるんだ。だから、走れ!」
うーん、聞いた限り、この少年は冒険者ではないみたいね、ただの一般人みたいね。
まあ、一人で、山をさまよってても、何か事情がわからないし、この少年、悪い子じゃないみたいだし、あたしはとりあえず、少年に腕を引っ張られるままついていくことにした。
「さすがに疲れた……走るの限界かも……。少しここに隠れて休もう……」
少年は倒れた大木のそばにくると、隠れてるつもりなのか、その場にぺたんと座り込んだ。
本当に隠れるつもりなら、もっとちゃんとしないところに隠れないとだめなのに。この子、本当に戦闘の知識とか、ないんだなあ。
あたしはそんなこと、考えながら、少年の隣に座る。まあ、ちょっと走って、あたしも疲労ポイントが少しだけたまったし、座ってポイントを回復させるのもありだよね。
あたしは座ったまま、首だけ少年の方へ向けて、質問の続きをすることにした。
「それで……ここはどこなの?」
「どこって、秩父に決まってるだろ? 山の名前はなんだったかなあ、友達のキャンプにつきあっててきとーに着ただけだから、名前までよくわからないんだ」
「秩父って、どこ? そもそも、ここ、何て国?」
あたしが尋ねると、少年は何だか、あきれた顔をした。
「こんなときにまだそんな冗談言うのか? 俺の話、信じてないのか? そうだよな、いきなり、怪物なんていわれても、普通は信じないよなあ……」
「それは信じてるよ、怪物なんて、見慣れてるし」
そういうと、少年は何か、はぁ、と疲れたように溜息をついた。よく分からないけど、あきれたような、色々なんか突っ込むのを投げ出したような、そんな感じの溜息だった。
「ここは日本。ついでに言えば地球という世界。日本という国の、埼玉だ。ちなみに駅まではかなり離れてる」
ニホン? チキュウ? サイタマ? あたしはマップデータを開いてみる。すぐ目の前に地図が表示される。この場所を検索してみた。うん、こんな場所、地図にはのってない。
その地図を少年は見て、ひどく驚いた顔をした。
「なんだそれ……ホログラフ? 立体映像?」
「ただのマップデータだよ?」
「そんな機械ももっないのに……って、もってないよな?」
少年はあたしの身体をじろじろ見る。
何度もいうけど、あたしの服は踊り子の服。下着に近い格好だ。一見、荷物などもってるようには見えないだろう。
少年は驚いた顔をしながらも、ようやく納得した顔をした。
「もしかして……異世界からきたのか? 信じられない話だけど、どうみても、この世界の人間には見えないし……」
「ここ異世界なの? というか、もし異世界なら、あなたの世界、そんなほいほい異世界から人が尋ねてくるの?」
「そんなわけねーだろ! でも、そう考えた方が理屈に合う、と思ったんだよ。そもそもあの化け物からして、あんなの、本当はいるはずがないものがいたわけだしな……」
そっかー、ここは異世界なのか。あたしも納得する。きっと何かの魔法かなんかで、この世界に飛ばされたんだね。
とりあえず元の世界に帰る方法、探さないといけないけど、でも、まず最初にこの場でするべきことは……。
「とりあえず自己紹介しよ。あたしはミリリナ。クラスはダンサー」
「俺は芳賀隆……高校一年生だ。住所は東京で、クラブは合唱部……」
「あたしの方は特技は弓で、生まれた国はラグリアント共和国。砂漠の国だよ」
それ聞いたとき、少年の顔色が大きく変わった。
「ま、まってくれ! その国の名前は……って、まさか、そんな……」
あたしも少年の反応を聞いて、驚いた。さっき異世界といったのに、この少年、ううん、隆くん、あたしの国の名前、どうして知っての!? やっぱり異世界じゃないの!?
あたしは隆くんの顔をじーっと見つめた。
しかし、隆くんの口から告げられた言葉はあたしの想像を超えていた。
「その国の名前、そのクラス、そのアバター……それ、俺が知ってる、有名なオンラインゲームの設定とか、そのままだぞ……」
どうやら、あたしはゲームの世界の住人だったらしい。
隆くんの話を総合すると、この世界にはなんかパソコンとかいう変なゲームがあって、そのゲームの世界設定とかとあたしの世界の様子がそっくりなのだそうだ。
オンラインゲームとか、MMOとか、なんか話に聞いてもどんなものなのか、よく分からなかったが、わかったのは、つまりあたしが、この世界における本の住人、物語の仲の住人に等しいということだ。
普通の人なら、それを聞いたら、凄いショックなのだろう。でも、あたしは気楽だった。
「なるほどね……状況はわかった。つまり、あたしたちはそのゲームの住人で、そのゲームから、なぜかあたしとそのモンスターが飛び出してきた、と」
「お前、よく落ち着いてられるなあ。俺だったら、自分が誰かの作りものの人間と知ったら、凄いショックだぞ」
「あたし、作り物じゃないよ。ちゃんと生きてるよ。それに、自分の存在理由とか、自分の生きてる価値とか、そういう難しいことは考えないようにしてるから、どうでもいいの」
「お前、つよいなあ……」
隆くんは何か、本当にすごい、感心した、という顔であたしを見る。
「あはは、褒めても何もでないよー」
あたしは少し照れ笑いを浮かべた。
でも、今言ったことは半分は嘘だ。あたしだって人間、変に考えすぎて落ち込むこともある。
だからこそ、そういうことを考えないように努力しているし、それをわざと人に言ってみせることで、自分を追い込んでさらに理想の自分になるように自分を追い込んでいるのだ。
でも、何だろ? あたしの世界で釣り橋効果という単語があるんだけど、それかな?
こんな状況なのに、こんな状況だから、男の子と二人っきりという状況、なんか、今更ながら意識してきた。
いつも一緒にパーティ組むのはもっと大人のごっつい男の人ばかりだったから、こんな繊細な少年、それも同い年の少年と一緒って、あたし、珍しい状況なんだよね。
それでついつい、意識しちゃうのかも。
あたしはとりあえず、自分が意識してるの、他のこと考えて忘れようと思って、慌てて何でもいいから口にした。
「それでモンスターは? どんな奴だった?」
「正直、ゲームのことは頭から飛んでたから、化け物気づいててもそこまで連想しなかったけど、あれが俺の知ってるゲームのモンスターなら、あれはクラーケンシャークという化け物だ。タコの足とサメの頭を持った化け物だった」
それはあたしもよくしってる。あたしのレベルだと、パーティ組めば倒せる相手だけど、あたし一人だと荷がちょっと重過ぎる。
そもそもあたしはどちらかといえば、支援の方が得意なのだ。
「うーん、そいつとはあまり戦いたくないわね……」
「勝てないのか?」
「正直、認めるのは悔しいけど、勝つのはけっこう難しい気がする」
「それなら逃げよう。逃げて、警察にあとは任せよう」
警察って、なんだろ? この世界の冒険者の名称かな?
でも、逃げるのは依存ない。だとしたら、さっさとこの山を降りよう。
あたしは立ち上がろうと、地面に手をつく。
そのとき……少年があたしを、押し倒した!
「ちょ、何するのよ!」
ちょっと、手、手、あたしの胸に手が触れてる!
普段は慣れてるので意識してないけど、あたし、今、下着に近い格好してるんだよね。
本当に慣れてるから恥ずかしくないはずだったのに、何故かこのときだけ、この少年の前でだけ、そのことが急に恥ずかしくなってきた。
きっと、釣り橋効果、というやつだね!
「ちょ、やめてってば! 何、するつもりなのよ!」
「しっ、静かに!」
「は、放してよ! 怒るよ、本当に!」
「……やつがいる」
えっと、あたしは少年を見た。少年はあたしの方を見てない。別の方向を真剣な顔で見ている。
あたしは少年の視線を辿ってみた。
そこには……クラーケンシャークがいた!
「どいて! 隆くん!」
あたしは隆くんを突き飛ばす。そして念じた。手に弓が現れる。
突然出現した弓に、隆君は驚いたような声をあげるが、それにかまってる余裕はない。
あたしはスキルを発動して、クラーケンシャークに連続して矢を叩きこんだ。
何発矢を撃ってもクラーケンシャークは暴れるのを止めなかった。
このままじゃ、負ける、殺される。
あたしはそう判断し、隆くんに早口でいった。
「このままじゃ、あたし達、殺される」
「じゃあ、逃げよう、頑張って逃げればきっと……」
「逃げても無駄よ、すぐ追いつかれるわ。だから、隆くん、あたしに協力して」
「協力って、何をすれば……」
あたしは言葉を切った。そして思い切って言った。
「あたしのパートナーになって! 今直ぐここで契約して!」
パートナーシステム、それはあたしの世界では当たり前に存在してるシステムだ。
パートナーは異性との間にしかできない。でも、パートナーができると、パートナーがそばにいるときは色々な特典を受けられる。
ただ、あたしには今までパートナーはいなかった。あたしの世界でパートナーを組むということは、ほとんどその人と恋人としてお付き合いする、という意味と同意義だったからだ。
あたしは特典が欲しくても、好きでない男性とパートナーになるつもりはなかった。
でも、今は、命が本当にかかってる非常事態だし、少しだけ隆くんに、恋愛感情ではないとは思うけど、この人とならパートナーになってみてもいいかもという好意と興味を抱いていたのだ。
隆くんもゲームとしてパートナーの知識は持っていたみたいだ。一瞬驚いた顔をする。しかし、直ぐに決意を固めた表情をする。意外と思い切りはいいタイプみたいである。
ただ、一言だけあたしに聞いてきた。
「いいのか?」
「うん、だから、早く!」
「わかった! 俺でよければパートナーにしてくれ!」
それでパートナー契約は成立だった。特に儀式はなくて、お互いがお互いを認めれば、パートナーになれるからだ。
ただ、問題はここからだ。
「ありがとう! でも、あれを倒すには、愛情ポイントが足らないの! だから、エモーションして、ポイントをためないと……」
「エモーションって……」
「お願い……」
今、直ぐできるエモーションでポイントが沢山たまるエモーションはひとつしかない。
あたしは目を閉じて、唇を隆くんの方へ差し出した。
隆くんは一瞬ためようような気配を見せたあと、力強くあたしを抱き締めて、キスしてきた。
かちっと歯が唇にあたって痛い。彼もキスを誰かとするのははじめてみたいだ。でも、そのおかけで必要ポイントはたまったみたいだ。
「お願い、隆くん! フュージョン技のインフェルノをやつに使って! 多分、奴は水属性だから、炎属性の攻撃は弱点だから、一撃で倒せるはず! 念じれば発動すると思うから!」
しかもフュージョン技は愛情ポイントが消費して使うという制約があるせいか、普通のスキルよりも、遥かに協力だ。
あれくらいのモンスターなら、きっと!
「わかった! くらえっ、インフェルノっ!」
隆くんは大声で叫ぶ。叫ばなくても別にスキルは発動するんだろうけど、初心者の彼は技の名前を叫んだ方がスキルを発動させるためのイメージが念じやすかったのだろう。
その一撃で、クラーケンシャークは一瞬で燃え尽きて、灰になった。
あたしはその場にぺたんと座り込んだ。
戦闘で精神力ポイントも疲労ポイントもかなり消費したので、疲れた。
見ると隆くんも座り込んでいる。彼も相当、疲れたのだろう。
当たり前だ、隆くんは冒険者でなくて、一般人なのだ。
このような生命を掛けたやりとりをして、疲れないはずがない。
「終わったね……」
「終わったな……」
あたし達は顔を見合わせた。
そのとき、隆くんの唇を何故か妙に意識してしまい、あたしは顔を赤くして、慌てて顔を逸らした。
もう何で意識するのよ! パートナーといっても、本当に相手はよくしらない相手なのに!
それは顔とか好みだけど、性格も今まで話した感じだと、多分好みだけど……。
でも、でも、恋愛とか、そんな感情抱くには、相手のこと、本当によくしらないんだから!
だから、意識しないでただの、戦友みたいなもの、と思っておけばいいのよ!
あたしは自分に言い聞かせる。
そのとき、突然、背後に人の気配が……湧いた!
あたし、危険感知スキルは高いはずなのに、まったく気づかなかった。何者!?
あたしは振り返って立ち上がり、弓を構える。
そこには黒いローブですっぽりと身体を隠した人物がいた。
ちっこい身体付きからして……子供?
その子は声変わりしてない高い声で話しかけてきた。
「よもや、この世界に、俺と同じように現実世界からの訪問者がいたとはな……」
あたしはその言葉に驚く。
「あなたもあたしと同じ世界の人なの?」
「ああ……このゲームの世界は大変良くできてるからな。科学という力を使えば、魔法や剣の使えない無力な者たちも戦力となる。俺はこのゲームの世界の技術を持ち帰るために、現実世界からやってきた……」
現実世界? ゲームの世界? あれ、なんかおかしい?
隆くんの話だと、あたしの世界がゲームの世界だといってたはすだ。でも、この子供の話だと、こっちの世界がもしかして……本当はゲームの世界なの!?
隆くんもその世界に気づいたのか、唖然とした顔をした。そして男に食ってかかった。
「そんな馬鹿な! ゲームの世界はおまえたちの世界だろ! ここはちゃんとした……」
「現実だと思ってるのか? それをお前はどう証明する?」
「証明って……」
「まあ、ただ、どっちの世界がゲームの世界だろうと関係ないかもな。世界は現に存在してるし、こうしてつながったわけだ」
子供はそう言うとちらりと灰となったクラーケンシャークに視線を走らせた。
「こいつも折角召還したのに、まったく役にたたなかったな。次はもう少し強い奴をちゃんとした儀式魔法で呼び出そう」
「お前がこいつを呼び出したのか!? 俺の友達を殺したのか!?」
「あれは不幸な事故だったのだよ、ちょっとした手違いで呼び出したモンスターが暴走してね、すまなかった」
子供は明らかに馬鹿にしたように、肩をひょいと竦めた。明らかに悪いことをしたなどとは考えてないようだった。
あたしは分かる。こういう人物にとって、興味ない人間の死は、虫とかをついうっかり踏み潰してしまった程度にしか、思ってないのだ。
「ふ、ふざけるな! よくも俺の友達を!?」
やばい、隆くん、怒ってる!?
でも、あたし、何か、この子供に勝てる気しないよ。凄く強そうなのが、本当に直感で分かる。
勝てるとしたら、エモをして、またインフェルノを使うくらいだろうけど……。
「またフュージョン技で僕を倒すつもりかい? だがな、お前達はパートナーなりたてだろ? 普段からエモをしてないから、全然愛情ポイントがたまってないはずだ。そして愛情ポイントをためようと俺の前でエモをしようとしたら、その前にお前達を……殺す」
「くっ……」
隆くんは悔しそうな顔をして、あたしの方を見る。
あたしも首を振った。ここであたし達が何もしなければ、こいつは攻撃してくる気配はないし、ここは残念だけど、大人しくするしかない。
子供はそんなあたし達を少しだけ愉しそうな笑みを浮かべ見ると、高い声で高笑いしながら、この場を去って行った。
隆くんはその場に座り込み、悔しそうに地面に手を付いた。
「ちくしょう……あんな奴のせいで、俺の友達は……」
隆くん、泣いてる……。親しい人が死んだんだから、それは当たり前だよね。
でも、あたしはあえて軽い口調で隆くんに微笑んで見せた。
「大丈夫だよ」
「えっ……?」
隆くんはそんなことを言うあたしを、不思議そうに見上げる。
あたしは隆くんに尋ねた。
「亡くなった友達は、何人?」
「4人だけど……」
「それなら、丁度よかった。リザレクトポーション、丁度四つ、あるんだよね。これがあれば復活させられるよ」
「嘘だろ、死んだやつが生き返るなんて、ありえねぇ……」
「ところが、あたしの世界では、割と普通のことなんだなあ。ただ、この世界ではもうリザレクトポーション4つしかないから、もうこれ以上人が死んでも、復活させられないけどね」
隆くんはしばらく呆然とあたしを見上げてたが、やがて立ち上がり、ポンポンと服に付いた土を叩き落とした。
あたしの目の前に立ち、あたしの顔をじーっと見つめる。
何だろ? 何でこんな真剣な顔、してるんだろ? 感謝の言葉、でもいってくれるのかな?
でも、あたしの予想は少しだけ、外れだった。
「お前、これからどうするつもりだ?」
「どうするって、宿を探して泊まるつもり」
「お金はどうするつもりだ?」
「それはまあ、あたし、踊り子だし、踊って稼ぐつもりかな」
それを聞くとやっぱり、という顔で少年は天を振り仰いだ。
「あのこの世界はお前の世界と違うんだ。ホテル代、つまり宿代も馬鹿高いし、そもそも路上でのパフォーマンスは禁止されている。その格好で踊りなんて踊ったら、直ぐ逮捕されるぞ」
「それなら、じゃあ、野宿とか……」
「それこそ、ばかっ! お前みたいな格好したやつなんてこの世界にはいないんだ。そんな格好して野宿してたりしたら、誰かに襲ってくれと言ってるようなものだぞ!」
言われてあたしは気づく。確かに、あたしの格好、普段から着なれてて忘れてたけど、かなり際どい格好なんだよね……。
やっぱりこの格好はまずいかあ……でもアバターは職によって固定だから、着替えるとかはできないし、どうしよう……。
「あたし、どうすればいいのよ……?」
あたしは情けない声でいった。本当に途方にくれたのだ。
そんなあたしの両手をいきなり隆くんはぎゅっと両手で握ってくる。
な、なに、なに!? 隆くんとはどういうつもり……?
あたしは不意の隆くんの行動に顔を赤くした。
隆くんは真剣な顔で、あたしの顔を見つめてくる。
「俺の家にこい!」
「えっ……?」
「俺の家は今、両親海外出張でいないから、お前がきても大丈夫だし、それに……」
「う、うん……?」
「お前は俺のパートナーだろ」
その後隆くんはまた奴が襲ってきたら困るしな、とかもごもご言い訳してたけど、あたしはその様子を見て、可愛い、と思った。
今まで大人の男性、それも逞しい男の人しか見てなかったから、格好いいと感じることはあっても、可愛いと感じることはなかったが、同い年の男の子って、こういう可愛い面もあるんだね。
あたしは少し笑ってしまって、それから身体をかがめて、隆くんを上目遣いで見上げた。
「じゃあ、よろしく頼むね、隆くん」
「あ、ああ……それに、お前には俺の友達を救ってもらった借りもあるしな。本当にありがとうな……」
隆くんはぶっきらぼうに、照れたように言う。
でも、まだ救ってないけどね、救うのはこれからだけどね。
あたしはとびきりの笑顔を浮かべて、ぎゅっと隆くんの手を握り、手をつないだ。
突然のあたしの行動に、隆くんは驚いたような、照れたような顔をした。
「どういうつもりだ」
「エモだよ。またあいつが襲ってきてもいいように、普段から愛情ポイント、貯めておかないとね。じゃあ、いこ、隆ん。友達をまず蘇生しにいかないと」
「そういうことか……ああ、分かった」
あたし達は歩き出す。
あたし、これからしばらくはこの世界で暮らすことになるだろうけど、でも、きっとうまくやっていけると思う。
だって、この世界には、あたしだけでなく、あたしと一緒にいてくれるパートナーがいるんだから。