僕と回りくどい野球部員くん
一気に書くつもりだったのですが、上下に分けることにしました。
四ヶ月更新されていませんってなってるのをいち早く消したかったんだ。
また、今度続きを投稿します!!
あの日から僕は、校内の一部の生徒から、軽い嫌がらせを受けています。
委員長さんは眼つきは悪いけど、すごい美人さんだし、男女分け隔てなく接することができつつも、孤高の気高いオーラを身にまとっているので、男子とおしゃべりしていても、媚びているようには全く見えず、女子からも人気の高い彼女には、影ながらもファンクラブなるものがありまして、僕が委員長さんに血液を返した時、その時のことを遠目から見ていたファンクラブの会員がいたようでして。
こうして毎朝、下駄箱を開けるとこのような脅迫状が挨拶替わりに出迎えてくれるのです。
『米倉 紗夜乃に近づくな。我々紗夜乃委員長ファンクラブの規定では、紗夜乃さんに一線を置いて接することになっている。会員でもすらない貴様が、親密な関係になることは、許しがたきことである。
もし、貴様がこの警告を無視した場合、それなりの対応を取らせてもらう。』
とても、利己的な考えだよな。本当。
委員長さんと仲良くなりたいけど、話しかける勇気がない。それが出来る奴はできない奴が傷ついてしまうのを恐れてる。みんなただの腰抜けじゃあないか。そして、それを守らない奴は反逆者として、みんなで寄ってたかって、いじめるってことだろ。
お互いを傷つけないように決めたことなのかもしれないけど、それは、本当にみんなの為になっているのか?委員長さんに一線を置いて接するってことは、委員長さんに親しい人ができないってことだろ。委員長さんと親しくした人を罰するって事は、委員長さんは集団的にハブられているってことじゃないか。
特別扱いすることが、その人を傷つける行為であることに、誰も気づかないのか?
……きっと、気がつかないよな。…………だって、当人たちは、とても大切にしているつもりなんだから、大切にしすぎることが、傷つけいることになるなんて、知らないんだ。
あの時の僕も、知らなかったんだ。
でも、僕はもう、二度とあんなこと、起こしたくない。あんな思いも誰かにさせたくはないから、この警告は、悪いけど無視させてもらう。
僕は、その手紙を破って教室のゴミ箱に捨てた。
周りの人、一部の人の視線が僕に突き刺さる。
妬ましいのだろう。委員長さんと平気で接する僕が、警告を受け入れず、互を傷つけないようにと作ったファンクラブに参加しない僕が。
僕は何も気にしてないフリをして、委員長さんの席へ近づき、おはようと声を掛けた。委員長さんは無表情でおはようと返す。
周りを見てみるとものすごい形相で僕を睨んでいる。歯ぎしりが聞こえてきそうだ。僕はいつも通り、委員長さんの前の席に腰掛け、授業の準備を始めた。
放課後、誰かに呼び止められた。
「駆、悪いんが、少し手伝って欲しいことがあるんだが……。」
振り向くと僕の友人である、野球部員らしく丸刈りで体格がよくて、長いまつ毛が特徴的な少年、修汰が申し訳なさそうに話しかけてきた。
「それから、委員長にもお願いしていいかな。」
教室から出ていこうとしていた委員長さんを呼び止め、問いかける口調だけど、否定は許してくれないような、修汰には珍しい口調で僕と委員長さんの目を見る。一息おいて、僕らの答えを聞かないまま彼は話し始めた。
「本当に、すまないんだが、体育館倉庫に野球部のバッドがあると思う。それを取りに行ってくれないか?」
委員長さんは端麗な顔を顰めた。
「それくらい、自分でできるだろ。」
修汰は首を横に振って、
「俺は、用事があるから、本当に申し訳ないのだが、いけないんだ。二人にどうしても頼まなければならないんだ。頼む。」
友人である僕としてはここまで頼まれて断るわけにはいかない。委員長さんも、仕方がないというように渋々頷いた。
やはり、僕と委員長さんが並んで歩くと、やはり視線が気になる。隣を歩いている委員長さんは、無理やり仕事を押し付けられたのが気に食わないのか、押し黙ったまま眉間に皺を少し寄せているので、いつも以上に迫力がある。正直に言うと、僕は、ファンクラブの嫌がらせよりも、その原因である委員長さんの方が怖い。
体育館の倉庫にたどり着いて、僕と委員長さんは、手分けをして野球部のバッドを探すけど、中々見つからない。やがて、二人で倉庫の一番奥の棚を探していたとき、倉庫の扉が閉ざさた。
鍵が閉められる乾いた音が聞こえる。
「嘘だろ……。」
僕は急いでドアに駆け寄り扉を叩いた。
「誰か、いるんだろ! 開けろよ!! 」
倉庫の中には電気すらないのに、こんなところに、二人きりだなんて……。
「……無駄だ。」
委員長さんはこの状況でも冷静で、労力が勿体無い。と呟いた。
「誰かが意図的に閉めたんだろ。なら、開けろなんて叫んだところで、開けてくれるはず無い。」
委員長さんの言うことはごもっともだ。だけど、僕は、こんなところにいるなんて無理なんだ。だって、僕は……。
「じゃあ、私が外から鍵を開けてくる。」
「え?どうやって?」
「私の体を何らかの方法でバラバラに切り刻んで、窓の格子の隙間から外へ投げてくれ、私は“涙”で蘇るから、何ら問題はない。」
「発想がホラーだっ!! 」
委員長さんは、もしかして天然なんだろうか。悪い意味で。
「第一委員長さんをバラバラになんてできないし、もし、それを人に見られたらどうするの!? 知られたくないんでしょ。その事。」
必死になって言う僕を見て委員長さんはとても嬉しそうに、クククと声を押し殺して笑っている。
「もう……。何がおかしいのさ。」
「ごめん、私、変な子だから……。駈が困ってたりしてるの見るの、なんだか楽しい。」
あ、ドSですわこの人、怖い。リストカットしてるなんて、全く想像できないよな。自分でも言っているけど、本当変な人だよ。僕はすっかり呆れてしまって口からため息が零れた。
「私疲れたから寝る。誰か来たら教えてくれ。」
そう言って委員長さんは倉庫に積まれたマットの上に寝転がった。男と二人きりの空間で寝るなんて無防備すぎるよ委員長さん、もちろん襲ったりなんてしないけれども、それに、僕がツッコミを入れる前に眠ってしまっている。なんて寝つきが良いんだ。電気をつけたままでしか眠れない僕としては羨ましい限りだ。
そして、僕らはあとどれくらい待てば、ここから出られるんだろう。
少し待てば、中々戻ってこない僕らを心配して修汰が探しに来てくれると思うのだけど、それまで僕は、耐えられるだろうか……。
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