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僕と泣き虫な委員長さん

 学校で友人たちから出された三つのお題『学園』『殺人』『涙』でこの話を作ってみました。最初は短編のつもりだったのですが、この話を親友が気に入ってくれたので連載にしてみました。

 昔別のアカウント(今は存在しません)で投稿していたのですが、この間読み直してみて、気になったところなどを軽く修正してみたので、読んだことのある人も、よかったらもう一度読んでもらいたいです!

 前書きを長々とすみません(笑)どうぞよろしくお願いします

 アスファルトに広がってゆく、錆び付いた赤い水を、夕日の色が鈍く照らす。鉄のような匂いを漂わすそれと同じモノが僕の手にこびり付いている。

 僕が今さっきまで握っていたナイフが、支えを失い、錆び付いた水貯まりの中に落ちていく。

 その様子を僕は愕然としながら見つめていた。どうしよう。どうしよう……。どうしようっ! 僕は……。

僕は、人を、殺してしまった……! 

血まみれの両手で頭を抱えたまま震える。

膝が笑ってしょうがなく、足から地面に崩れた。喉からはオモチャの笛みたいな音が漏れ、呼吸もろくに出来なくて、どうしたらいいのかも分からない。額に静電気のようなもの画が流れたような感覚がすて、終いには思考が働かない程にまで頭痛が激しくなった。

どうして、こんな事にっ!! 

死体にハエが集まる頃、僕はようやく思考を取り戻し始めた。

そうだ。逃げなくちゃならないんだ。でも、今更逃げても、すぐに捕まってしまうだろう。今は現場に残った髪の毛や足跡から犯人を特定できるらしいから。死体を何処かに片付けないと……。この血もしっかり消さないと……。僕は今、刑務所に入るわけにはいかないんだ。僕は、約束を守らなくちゃならないんだから。

 僕は人に見つからないかと、ビクビクしながら作業を始めた。

 幸運な事に、ここは人気ひとけのない廃墟裏で、この廃墟のガラクタの中には死体を包めそうなビニールシートがあった。

 死体の傍から見つけたそれを、僕は急いで取りに走った。そして、戻ってきたその場所に、もう死体はなくなっていた。錆臭い血もなくなり、ナイフも全て消えていた。

 どういうことだ!?

 誰かが死体を見つけて持ち去った?この短時間で?僕は運動部に入っている訳でもなく、足の速さは並以下だけど、戻ってくるまでの時間は多く見積もっても5~6分だろう。何とか死体を運んだとしても、あのおびただしい量の血をこんなに綺麗に拭うことは出来ないだろう。第一通りがかりの誰かが死体なんて物を見つけたら、さっきまでの僕のように、正気でいられなくなるだろうし、万一冷静だったとしても、警察に連絡をするだろう。

 では、何故?

 こんな不気味なことが起こったんだ?

何が何だか分からなくなった僕の体は、一気いっきに力を失くした。だらりと垂れた下がった腕からは、さっきまで抱えていたビニールシートがアスファルトに落ちていった。


 気が付けば、僕は家の玄関前に立っていた。どうやって帰ったのだろう?何故か思い出せない。それでもとりあえず家に上がろうと靴を脱ごうとした時、自分の手にくすんだ茶色っぽい物が固まっているのに気づいて、さっと皮膚が泡立った。

 これは、さっきの血かっ!

 死体も血もナイフも全部消えていたから、あれは悪い夢だったのではないかと、心のどこかで思い始めていたとき、無理やり悪夢の中に引きずり戻されてしまった。

 僕はやっぱり、人を、殺してしまったのか……?

 僕は急いで洗面所へ行き、水道の栓をめいっぱい捻り、勢いの付いた水で何度も何度も手を擦る。白い石鹸が赤黒く染まってゆく。

 もう、石鹸で手を洗っているのか、手で石鹸を洗っているのか、分からないくらいだった。

 けれど、手にこびり付いた血は一切消える様子が無い。

 消えない。消えない……。消えないっ……。消えろっ……! 消えろっ……! 消えろよ……!! 消えてくれ…………。

 手を染め上げ、決して落ちることのない血は、僕が人を殺したと言う事実を無言で突きつけてきた。

 絶対に消えない。どんなに洗っても落ちない。

 石鹸は確かに赤黒い物が付着して、手の汚れを落としているようだったのに、僕の手は未だに赤茶色をしていて、その色は爪の隙間にまで入り込んでいる。

「消えない。」

僕は口から零れたその事実を胸に刻みながら、ベッドの上で仰向けになり、目を閉じた。

しばらくして、目を開けると、朝の7時半になっていた。

秒針が一回転程した時、遅刻する! と言う言葉が頭を駆け巡った。

急いで支度をしろと、頭が体に命令を掛ける。昨日は制服のまま眠ってしまっていたので、スペアの制服に着替えて、さっきまで着ていた制服を洗濯機に投げ込み、パンをトースターに入れて、タイマーを回し、焼きあがるのを待つ。

その間、なんとなく昨日見た夢を思い出した。あまり良い夢ではなかった気がする。……確か、そう……、僕が人を殺めてしまう。とても恐ろしい夢だ。でも妙にリアルで、背筋に冷たいものが伝い、皮膚が泡立った。自分の指先が小刻みに震える。何度も夢の中の赤茶色がこびり付いた手の映像が、今自分が見ようとしている映像が重なり合って、息が少し浅くなる。見たくないと体が拒否反応を起こしているのは分かっているが、気持ちは、自分の手が気になって仕方が無い。

見開いた自分の瞳に映った僕の手はいつも通りの肌の色をしていた。その事に安心感を抱いて一息つくと、丁度、トースターから焼きあがった事を知らせる呼び鈴のような音が響いた。遅刻するわけにはいかないので、僕はトーストを口に咥えて通学路を走った。


 “夕陽丘高校”と書かれた校門をくぐり、僕は教室へと繋がる廊下を早足で歩き、教室の扉を開いた。

 歩き慣れた机の間を通り抜けて席に着くと、

かける!」

と僕の名前を呼ぶ声がして、そちらに視線を向けると、高校に入ってからできた友人、修汰しゅうたがいつも通り話しかけてきた。僕は、その事に胸を撫で下ろして、普段と変らないくだらない会話をして笑っていた。その合間に色んな人の会話に耳を傾けてみたけど、この学校の近くで誰も殺人事件があったとは語らない。昨日の今日ではあるし、当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。

 この一日は何事もなかったかの様に終わった。


 やっぱり、あれは、夢だったんだろう……。

 放課後、昨日のような夕暮れが照らす土手道を、一人で歩きながら、そう自分に言い聞かせ、納得しかけていた。そして、何気なく自分の手を見てみる。その手は、赤茶色をしていて、僕は首筋まで熱くなるのを感じた。背筋を冷たい汗が流れる。

 違う!夢なんかじゃない!!

 なら、どうして、誰も、気付かないんだ!死体も、血も、ナイフも、消えてしまったんだ!?

 混乱の中、とりあえず僕は、誰かに気がつかれないように、手をポケットに突っ込んで早歩きで家へ向かう。

 突然、頭に重たい衝撃が落ちてきた。

「なっ!?」

 事態がよく飲み込めないまま、僕は後ろを振り向いた。

「……健。両手ポケットに突っ込んで歩いて、不良みたいだ。やめろ。」

 鋭い眼つきで、黒い髪を肩に付かない位置で切りそろえた少女が、本を構えたまま僕を睨んでいる。僕のクラスの委員長さんだ。

挿絵(By みてみん)

 だけど、今は委員長さんからの命令でも、ポケットから手を出す事は出来ない。そんなことをすれば、僕はたちまち刑務所行きだ!

「さ、寒いから、ポケットに手を入れてるんだ。別に良いだろっ。」

 絶対に手をポケットから出したくない僕は、いつもより強い口調でそう言い張った。

「今、春だ。それに今日は気温高いほうだぞ?」

「きょ、極度の寒がりなんだよっ!」

「冬に夏服で来てた人が?」

「そ、それは、罰ゲームで、がんばったんだよっ!僕は、ハチドリの生まれ変わりなんだっ!だから、覚悟を決めれば、大丈夫なんだよ!」

「じゃあ、今覚悟決めれば?」

「い、今は、そのっ、ほら!うんあれだから!」

「あれって?」

 委員長さん、思いのほか手強いぞ……。

 僕は最後の質問に答えられず、とりあえずここは早く逃げたほうがいいと思い、委員長さんから顔を背けて早足で歩きだした。

 すると、また頭に鈍い痛みが走った。

「いっつぅ!」

「私のこと――――――、よく無視できるな。」

 振り向くと彼女は笑っていた。見下したような、バカにしたような笑みだ。それに、彼女は今なんと言っただろう?何故、大きな音がした訳でもないのに、まるで切り取ったかのようにその部分だけ聴こえなかったのだろう?

 そう言えば、僕が殺したのは誰だっただろう?

 錆び付いた海の中、横たわっていたのは、誰だったろう?

 何故、僕はあの人を殺してしまったのだろう?

 不意に、頭痛が僕を襲う、思い出すことを拒否するかのように。光が、とても眩しい光がチカチカと何度も点滅する。頭の中にクラクションが響きそうな眩しい光。

 その中に、何か映像なような物が見え隠れする。

 赤く染まった、短い……髪?…………元は、黒かったようで、髪の根元は黒く、毛先は赤くなっている。うちの高校の……制服……。女子……の?それから白い頬……閉じられた、瞼。

 死体の映像が、誰かに重なる。

 そういえば、今、僕の後ろに立っている委員長さん……。

 彼女はさっきなんと言ったろう?

 僕は委員長さんの方を振り返りながら視線を上げ、彼女の顔を見上げる。すると彼女は微笑んで、さっきと同じ言葉を口にする。

「私のこと殺して(・ ・ ・)於いて( ・ ・ ・)、よく無視できるな。」

 そう、僕が昨日殺してしまったのは、今、僕の目の前でニッコリと笑っている委員長さんだ!

「どうして、委員長さんは……」

「生きてるの?」

僕が言い終わる前に、委員長さんが声を重ねてくる。

 僕の顔に驚きが広がっていくのを見て、嬉しそうに笑う。

「教えてやる。私、変な子なんだ。涙を流すと、傷が治る。涙の量は関係なく、どんな傷も治して、または、よみがえる事も出来る。」

 僕は委員長さんの言葉に目を見開く、そんなことあるはずない!バーチャルの世界じゃないんだぞ? 現実にそんなこと、ある訳が、ないんだ!

 でも、どうすれば、昨日のことを説明できる? 今この時間をどう説明できる? 

「きっと、信じていないな。でも、そんなことはどうでもいい。私は健に返してもらいに来ただけ。」

 ニヤリと笑うその顔に、僕はゾクリとした。僕が、彼女を殺してしまったことを、彼女は怒っているのだろうか。いや、それが普通だ。あぁ、僕、警察に突き出されるのかな? それとも、殺されてしまうのかな? と言うか、返してもらいに来たとは、何の事だろう?

 僕は、彼女から、何かを取った覚えはないのに。

「私の、血液を、返してもらいに来た。健のその手の。」

 委員長さんが、ポケットに突っ込まれた手を指差す。

「えっ? 」

「私が泣けば、私の体は治癒される。けれど、傷を負った時に流した血液は全て回収しないといけない。昔からそう言う決まりなんだ。だから、返して。」

 委員長さんが僕に手を差し出す。ただでさえ眼つきが鋭く睨んでいるようなのに、返して。と言われながら、手を差し出されると、もの凄い威圧感がある。その迫力に押され、僕はおずおずと、手をポケットから出して、委員長さんが差し出している手の上に自分の手を乗せる。

 委員長さんは無言で僕の血に塗られた手を指でなぞる。少しくすぐったいのを我慢しながら、委員長さんの行動を観察する。

 特に何も起こらないまま、委員長さんは僕の手をパッと離すと、

「じゃ」

そう言って去って行こうとした。

「え?終わり!?」

 咄嗟に僕は遠ざかっていこうとする影に問いかけた。委員長さんは振り返って、

「ああ。もう、血液は返してもらったから。」

 そう言われて、僕は自分の手を確認すると、いつも通りの肌色が広がっている。すると、安心すると同時に、いくつかの疑問が浮かび、また歩き出そうとする委員長さんを呼び止めた。

「待って、ちょっと、聞きたい事が!」

 委員長はまた振り返り、戻ってきて、

「何?」

 と、睨むような視線を向けてきた。

「何で、さっきは手の血は消えてたのに、今はまた、血が出てきたの? 」

 僕が、あたふたと言うのを見て、

「日でている時は、見えなくなる。日が落ち始めるとまた出てくる。だから」

 非科学的な説明であんまり納得できないけど、科学的な答えを求めるほうが間違っていたのだと思いなおし、もう一つの質問をした。

「僕はなんで、委員長さんを殺してしまったの? 」

 すると、委員長さんは笑った。

「覚えてないんだ? 」

 何だか申し訳なくなりつつも、委員長さんが笑うツボが変っているため、恐ろしく思う。

「私が、あの廃墟の所で、リストカットしていた。泣いて治すの。趣味だったから。」

 うん! リスカして、泣いて直すのが趣味なJCっておかしいと思う! ていうか怖い!! 完全に引いてしまっている僕をお構い無しに、委員長さんは話し続ける。

「で、健が、自殺なんてするな! て言って、大騒ぎしそうになったから、自分の心臓の所にリスカにつかっていたナイフを泣きながら突き刺して、健に倒れこんだ。」

 なんと迷惑な話だろう! 僕は最初から誰も殺してなかった。むしろ自殺を止めようとした人間だった。なんか、とてもくだらなくなってきた。

 じゃあ、僕は、それでパニックになって、委員長さんの事を自分が殺したと思って、あんなに怯えていたのか? 何だよそれ!! 

 もう、訳わかんねぇ。というか、何で自分にナイフ突き刺して僕に倒れこんだんだ!

「私、殺されてない。めんどうくさかったから死んだフリした、そしたら、ビビってどっか行くと思った。けど、健、『僕は、人を、殺してしまった』とかなんとか呟いて、勝手にパニックになっていって、あのままじゃ、コンクリートの柱にでもされそうだったから、急いで逃げた。」

 うわー、何この人、自分のこと被害者っぽく語っちゃったよ。

「そんで、血返してもらわないと、私、貧血になるから、返してもらいに来た。」

「というかさ、委員長さん、僕に向かって、『私のこと殺しておいて』って言ったよね? なんで、めっちゃ、ビビったんすっけど」

 苛立ちを声に込めて言うと、

「なんか、ガチで健が私のこと殺したと思っているから、面白くて、つい」

そして、ニヤっと笑う。この人……全く反省してない!! と言うか、確信犯だ……! 

「あ、それから、私の体のこと、誰にも……言わないでくれ。」

 突然、暗い目をして、頼んでくるので、僕は、オロオロとしながら、言わないと頷いた。

「ありがとう」

 少し照れくさそうに笑って委員長さんは去っていった。

 ま、なんか非現実な展開だったけど、僕は誰かを殺したわけじゃなかったし、別にいいか。

 家に帰って、NHKでも見よう。








 読んでいただきありがとうございます。

 ご意見ご感想ご指摘ご批評や、誤字脱字報告、ちょっとした一言などいただけると嬉しいです!


 二話目では、今回一瞬だけ出てきた修汰くんをでしてゆきたいと思っています!

 ちょっとぼーっとしてますが、とてもいいやつなので、皆様にも気に入っていただけるよう、描写を頑張りたいと思います。

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