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羽切那岐 前編

長くなりそうなので前後編として投稿

後編は書きたくなったら書きます


感想とか来たら書きたくなるんだけどなー(チラッ チラッ

「暇だなー……」


 と、いう無能なる上司の呟きに、寡黙なる私――羽切わぎり那岐なぎは応えない。


 警察官という、いわゆる公務員の立場で、『暇』などという言葉がでるのは、この交番ぐらいだろう。


 寡黙なる私は、「暇、暇」と連呼している無能なる上司を完全に無視し、一人モノポリーに集中していた。

 その時――交番備え付けの電話が軽快な電子音を鳴らせた。


「来たぁ!」


 愚鈍なる上司殿が、一目散に電話へ駆け寄り、受話器を取る。


 寡黙なる私はそれを横目に見つつ、最後の土地であるパシフィック通りを手に入れた。


 ふむ、一人モノポリー……なんともつまらないことだ。二度とやらん。


「おい、羽切!」


 寡黙なる私は、無能なる上司の呼びかけに、無言で答え、立ち上がった。


「場所は駅前の居酒屋、事件発生はたった今! そして目的は――戦争だ!」


 戦闘狂たる上司は歓喜の声を挙げ、交番を飛び出して行った。


 寡黙なる私もそれにつられるように交番を出る。


 『ひよこ公園前派出所』


 それが寡黙なる私の勤務する交番の名前だ。


 主な業務は――戦闘。






*****




 さて、寡黙なる私は、考える。


 二十数年生きてきて、不条理や、理不尽な出来事というのは、嫌というほど経験した寡黙なる私であるが、今日起きたこの筆舌にしがたい出来事を寡黙なる私はどう表現すればいいのか、考える。


 そして、思いついた言葉は――摩訶不思議。


「うぃ~、酒だー! 酒持ってこーい!」


 駅前の居酒屋。


 が、会った場所。


 数刻前は存在してたであろう、木造建築の居酒屋は、今や跡形も無く消えていた。


 そして、その元居酒屋が会った土地の真ん中には、べろんべろんに酔った、赤い顔した美少女。


 もし寡黙なる私が寡黙じゃなかったとしても、この場面に立ち寄ったら寡黙にならざるをえなかっただろう。


 何故ならこの惨劇を引き起こした張本人は、真っ赤な顔をした、大学生くらいの女の子だというのだ。


 無能なる上司も、さすがに驚いたのか、さっきまでのハイテンションが嘘のように意気消沈としている。


 しかし、警察官である寡黙なる私か、無能なる上司が動かなければなるまい。

 さっきから周りの「お前ら警察だろ、なんとかしろよ」的な視線が痛いのだ。


 覚悟を決め、一歩、また一歩とその女性に近づいていく。


「あん? なんらお前? 警察?」

「…………」


 寡黙なる私は、無言で手錠を取り出し、彼女の腕に嵌めた。


 彼女はその手錠を一瞥すると、まるで紙きれを引き千切るようなノリで鋼鉄製の手錠を片手でねじ切った。


「…………」

「あっはっは、手錠って案外脆いんだなー」


 ……寡黙なる私は、もう帰って不貞寝したいという気持ちをぐっと抑え、どうしようかと思案することにした。


 さて、彼女がねじ切れた手錠で遊んでるうちにどうにか署まで連れてく手段を考えなければならない。

 提案其の壱、無能なる上司に全部丸投げする……うん、それでいこう。

 しかし、どうする。寡黙なる私が大声で上司を呼ぶなど到底無理なことだ。


 かといって「ちょっと署まで来い」など言えるはずもない。

 寡黙なる私は三文字以上の言葉を話したくないのだ。


 ……あれ? これ詰んでね?


 ……しょうがない、随分前に通信教育で習った『やたらチートな人を署に連れ込む方法』をやってみるか。


 寡黙なる私は、腕を大きく振りかぶると、それを一切の遠慮も跳躇もなく、赤い顔をした彼女に叩きこんだ。


 無論顔面目掛けてである。

 遠巻きに見ていたギャラリーが驚声を挙げる。


 酔っ払いはガードもできずに、手で弄んでた手錠を空に放り出して、瓦礫の山にすっ飛んで行った。


 ふむ、通信教育で習っておいてよかった、『酔っ払い相手に全力の不意打ちをかます方法』を。


 そして寡黙なる私は、言った。


「勝負……」


 彼女は、瓦礫の山からいともたやすく立ち上がると、赤かった顔をさらに真紅に染め、怒りの表情でこちらを睨んでいた。


「私……勝……署」


 よし、三文字。


 寡黙なる私は、会話というものが苦手というか、寡黙というキャラ作りだからあんまり喋りたくないのだ。


「あー、うー……ぶっころす!」


 爆弾が爆発したかのような音を立て、彼女は瓦礫を吹き飛ばしながら突貫してきた。


 目にも止まらぬ速度で振るわれた彼女の拳を、寡黙なる私は首を傾けるだけで避け、彼女の襟首を掴み、背負い投げの要領でぶん投げた。


 ふぅ、『目にも止まらぬ速さで拳が振るわれたときの対処法』を通信教育で習っておいてよかった……。


「てめ……!」


 地面に叩きつけられたにも関わらず、欠片も痛そうな顔をせずに右手を軸に、寡黙なる私の脚に目掛けてローキックを放ってきた。


 しかし、寡黙なる私はバックステップで軽く避ける。

 『ローキックの対処法』を通信教育で学んだおかげだ。


 そのまま寡黙なる私は懐から拳銃を取り出し、手足を狙い、発射。


 ろくに狙ってないので、まともに飛ぶわけが無く、弾丸は彼女の頭に直撃した。


 あ、やべ。


 と、思ったら、彼女は額をさすり、「痛ってー……」と涙に軽く涙を浮かばせてるだけだった。


 ヘッドショットを喰らって「痛い」で済む人間がこの世にはいるのか、知らなかった。


 …………。


 ならもうちょい撃っても大丈夫か。


 こんどはきちんと狙いを定め、連射。


「いて! ちょ……! 馬鹿! やめ……」


 弾が切れたので、拳銃を投擲。


 怯んでる隙に、接近、そのまま組み伏せて手錠をかけた。


 ……まあ手錠が意味を成さないことは重々承知だが……な。


 しかし……ほんと、昨日やっててよかった、『チート女を組み伏せる方法』の通信教育。


「おう、終わったか?」


 無能なる上司が今更ノコノコとやってきた。


 寡黙なる私は静かに頷く。


 ……うん? やけに組み伏せた酔っ払いが静かだな……。


 顔を覗き込んで見る。


 彼女はぐっすりと眠っていた。





*****






「ひぃまぁだぁなぁー」


 無能なる上司が今日23回目の「暇だな」を口にする。


 暇暇うるさい、真昼間からいい歳したおっさんが暇を連呼してるのは見ていて気持ちいいものではない、むしろ嫌だ。

まあ寡黙なる私も暇で暇でしょうがないから一人で人生ゲームなんぞやってるから見ていたくない加減ではどっこいどっこいかもしれないが。


 と、寡黙なる私の分身たるコマが、『火災発生、全財産を失う』に止まったところで、交番の前に人が立っているのに気付いた。


 黒い髪の毛をポニーテールに纏め、動きやすそうなジャージを上下に着ている若い女性だ。


 相当な美女である。

 寡黙なる私は、顔には出さず、そう思った。


 しかし、はて……どこかで見たような……。


 女性は、寡黙なる私と目が合うと、ニヤリと笑い、交番の戸を開けた。


 そして、一言。


「私と勝負しろ」


 ……あ、思い出した。

 昨日の酔っ払いだ。


 あの後、刑務所に送られた筈だったけど、どうしてここに?


 訊いてみた。


「脱獄した」


 と、表情一つ変えずに答えてくれた。


 うん、立派な犯罪だね。

 そして良く考えたら素手で家を一軒全壊させれるようなやつを閉じ込めておける牢屋なんてあるわけないというね。


 寡黙なる私は、正直逃げたいと思って、無能なる上司に目を向けると、無能なる上司はいびきを掻いて寝ていた。


 暇すぎて寝てしまったのか、面倒事に巻き込まれたく無くて寝たふりをしているのか、わからないが、とりあえず無能なる上司の助けは期待できないらしい。


 あー、もう、めんどーくさいなー。


 と、寡黙なる私が思った瞬間か、少し後、突然ポニーテールの美女は跳躍し、天井を手で押して、その勢いを使って急降下しながら蹴りを放ってきた。


 寡黙なる私は、急降下してくる彼女の脚を軽く払い、かわすことに成功する。


 彼女が落下した床は、まるで削岩機で削ったかのように抉れていた。


 危なかった……昨夜『天井を押した勢いで急降下しながらキックしてきたときの対処法』を通信教育で習っておいてよかった……。


 が、息を吐く間も与えず、彼女は右足を軸に、衝撃波でも出そうなスピードで回し蹴りを放ってきた。


 昨日より数倍早い動きに多少戸惑いつつも、寡黙なる私は右腕でそれを受け止めた。


 …………。

 ……あー、右腕折れた。


 まあいいか、数か月すれば治るだろ。


 寡黙なる私は、左手で彼女の左足を掴み、右手は添えるだけで、彼女を投げ飛ばした。


 『右腕が折れてる場合の人の投げ方』。


 通信教育で学んどいてよかった。


 彼女は、その馬鹿力からは想像できない程軽く、簡単に投げることが出来たので、無能なる上司の方向に飛ばしておいた。


 これで無能なる上司も起きるだろう。


 まあそんなもの関係無く、寡黙なる私は無能なる上司に当たっても構わないと思いながら拳銃を構え、引き金を引いた。


「痛い! 痛い! って! ちょ! やめ!」


 だから痛いで済むのがおかしいんだけどね。


 寡黙なる私は拳銃を連打しながら、署の一角にあるロッカーを開けた。


 中に入ってるのはショットガン。所謂散弾銃である。


 拳銃を放り投げ、両手でショットガンを構える。


 安全装置が外れてるのを確認し、引き金を――「ま、待った!」


「わ、私の負けだ! さすがにそれはマジで痛い!」


 まるで喰らったことがあるみたいなもの言いで、彼女は両手を挙げて降参のポーズを取っていた。


 寡黙なる私は、ショットガンの安全装置をハメ直し、ロッカーに仕舞った。


 はぁ、疲れた。






*****






 それからというものの、彼女――東雲しののめ那美なみは、毎日のように寡黙なる私に勝負をしかけに、この交番にやってくるようになった。


 勝負方法は、最初は戦いという名の殺し合いだったが、途中、モノポリーをやったり人生ゲームをやったり、勝負をせずに雑談したり、たまに思い出したかのように牢屋に送ったり、という日々が続いた。


 無能なる上司は、そんな仮にも犯罪者の彼女の毎日の来訪に、笑みで迎え入れていた。

 やはり無能である、この上司。


 彼女は彼女で、「勝つまで居座る」とか言ってるし、当分この生活は続くだろう。


 現在、132勝0敗である。

 寡黙なる私は常々思う、通信教育は偉大だと。



 そんな日々が続いた、とある日。


 眠気眼で歯を磨いてた寡黙なる私に、コン、コン、とノックの音が二回響いた。


 寡黙なる私の給金は低く、インターフォンしかないようなボロアパートにしか住めないのだ。


 それはさておき、寡黙なる私は歯ブラシを咥えたまま、玄関を開けた。


 そこにいたのは――。


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