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5.赤い友

 昨日ミノタウロスとの戦闘で落とした槍を拾うため、道を歩く。

 あそこにまた行くのには、ひとつ別の目的もあった。

 目的というより、なんとなくのあてというか。

 あの紫のワイバーンに、また会えるかもしれないという淡い期待が僕の中にはあった。

 

 会いたくて会いに行くわけではない。

 ただ、聞いておきたいことがあるだけだ。 

 ワイバーンが、なぜ人間の住処を襲うことになったのか。

 それを直接ワイバーンの口から語ってもらいたかった。


 遠くの山を見ると、飛んでいる白黒のグリフォンの姿があった。

 あの個体は、あるギルドメンバーにとって相棒のような存在だ。


「おうレンチェル! もう歩けるのか」


 突然後ろから、大声が聞こえてくる。

 振り向くと、噂にしていたグリフォンの主が走ってきた。


「ブレイズ、仕事しなくていいのか」

「いいだろちょっとぐらい、そっちこそ休んでなくていいのかい」

「僕はもう大丈夫さ」


 彼の名前はブレイズ。

 僕よりも後にこのギルドに拾われた男で、今では物を運ぶ仕事をしている。

 炎の魔法には相当長けているらしく、火が必要なことになると大抵は彼がやっている印象がある。

 ちなみにこのブレイズという名はマスターに付けられたもので、本当の名前は思い出せないらしい。


「どこに行くかは知らないけど乗ってくか? 辿り着けるかもしれないぜ」


 良くわからないことを言いながら、荷車の荷台を親指で指す。

 普段はグリフォンに引かせているが、どうやら今日は彼が自身の足で荷物を運んでいるようだ。

 グリフォンは人間に対して比較的友好的な種族であり、彼のように共に仕事をするほか、その背に人間を乗せて空を移動することもある。


「遠慮しとくよ、ところで今日はグリフォンに運ばせてないんだな」

「たまにはこうやって自分の足で走らないとな、体がなまっちまう気がするのさ」


 彼自身の考え方も、名前や魔法に似ている。

 けど、僕はそれが嫌いではなかった。

 赤い髪に、優れた炎の魔法、芯のある目つきに熱い性格。

 外見から内面まで、ある意味理想的な振りきれ方をしているのが彼だ。 


「あれ? そういえばいつも持ってる槍はどうした」

「昨日落としたんだ。今から拾いに行こうと思ってる」

「お前またあそこに行くのか!? こんなことになったばかりで大丈夫なのか」

「もう脅威は倒したし、多分大丈夫だよ」

「そうだけどよ……」


 彼にしては珍しく、少し考えこむような素振りを見せた。

 ブレイズは僕と長い付き合いなので、僕の槍が大事なものであることを知っている。 

 おそらく、僕の気持ちを優先する考えと、僕の安全を優先する考えが彼の中で入り混じっているのだろう。

 

「分かった、俺も行く。すぐこれを運んでくるからここで待ってろ」

「本当に大丈夫だよ、仕事に集中してくれ」

「いーや心配だ。昨日一人で行ってボロボロになって戻ってきたばっかりなんだ。また何かあったら後悔してもしきれないぜ」

「う……わ、わかったよ」

「やれやれ、お前はもう少し人を頼ることだな」


 ブレイズの勢いに押されてしまった。

 確かに槍を拾いに行くという目的なら、一人より二人の方が圧倒的に良い。

 だがワイバーンに会って話を聞くという意味では、なんとなく一人の方が良いのになと思っていた。

 

 彼は、僕やジャスミンのようなワイバーンの被害者ではない。

 それに、たいていのことは笑って受け入れられるような明るい男だ。

 万が一ワイバーンが現れても、きっとなんとかなるだろう。

 

「ラプター!! 行くぞ!!」


 ブレイズがグリフォンの名前を呼ぶと、悠々と空を舞っていたグリフォンがすぐさまこちらに向かってきた。

 近づいたところで一気に速度を落とし、僕らの目の前で上品に着地する。

 ブレイズは荷車のハーネスを取り出し、とてつもない手際の良さで荷車とグリフォンを繋げた。

 そして荷車に乗り、こちらに左手をさっと出し、右手で口笛を吹く。

 すぐにグリフォンは走りだし、あっという間に遠ざかっていった。


 熱い男が去り、静かな時間が戻る。

 待ってろと言われたからには、ここでしばらくじっとしていなければならない。

 

 ……あのワイバーンは、今どこにいるのだろうか。

 もう、この土地にはいないのかもしれない。

 そもそも、なぜあんな人里近い場所にいたのだろうか。

 この場所でワイバーンが目撃されることは稀であり、それもほとんどは近辺を飛行して去っていく。 

 

 異常なミノタウロスといい、裏で何かが起っている予感こそするが、今のところ僕にできることは何もない。

 せいぜい、この町で警備を続けるぐらいだ。

 

 しかし、万が一あのレベルのモンスターが人里に現れたら、僕はその責務を果たせるのだろうか。

 いやできるはずがない。まっとうに戦うためにはもっと強大な魔法や、強力な相棒が必要だ。

 例えば、ドラゴンのような一騎当千の種族がこの町にいてくれれば、どんなモンスターがきても撃退できるだろう。


 だが、ドラゴンが人間に手を貸すなんて、そんなことはなさそうだ。

 そもそも僕はドラゴンをこの目で見たことがない。噂ではどこかのギルドで管理下に置かれている個体もいるらしいが、詳しいことは知らない。

 それほど、ドラゴンという種族は少数であり、その情報は謎のベールに包まれているのだ。

 もっとも、そんな都合のいいドラゴンがこの町にいては、僕はこの仕事を続けられなくなるが。


 ドラゴン以外にも、戦闘に長けているモンスターはいる。

 ブレイスが従えているグリフォンも、その爪や体躯を活かして戦うことができる。

 通常のミノタウロス程度であれば互角以上の戦闘ができると聞いている。

 

 あとは……やはりワイバーンか。

 姿がドラゴンに似ていることもあって、その戦闘力は高い。

 大体の個体は炎を吐くため、攻撃性能ではほかの種族と比べて頭一つ抜けている。

 炎は火球として飛ばすことも、継続して放射しつづけることもできる。

 昨日のワイバーンは、その火球で巨大なミノタウロスを一撃で葬った。


 そういえば、僕はミノタウロスが葬られてからの記憶がない。

 次に覚えていることは、いつもの宿舎で目覚めたことだ。

 一体、誰が僕をあの川から宿舎まで運んだのだろうか。

 ほぼ答えは決まっているのだが、イマイチ理解が追いつかない。


 なんとなく、風に飛ばされる木の葉を目でなぞる。

 しばらく追ったところで、目の焦点がずれ見失った。

 その時、この目が木の葉とは比べ物にならないほど大きな影を捉える。


 影の動きに続くように風が吹き、服を揺さぶる。

 しばらくするとそれも止み、僕は風からそむけた目を正面にもどす。

 

「お、おまえは……!」


 そこにはなんと、紫のワイバーンがいた。

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