第6話夢と現実
しかし、夢みたいな時間はあまりにも脆い。
「篝~……」
背中越しに聞こえてきた声が、容赦なく現実へと引き戻す。まるで、夢の中から腕を引っ張り出されたみたいに。
「兄貴……」
ガラスに映った聖が車椅子をゆっくり動かし始める。もっと、この幸せを噛みしめたかったが、いたしかたない。
「篝。担当の理学療法士を紹介しよう」
「え?」
車椅子を180度回転したところに立っていたのは、よりにもよって、従姉妹のともねえこと勝浦朋美だった。
「と、ともねえ……!」
「従姉妹と5年ぶりに会ったっていうのに、そんな残念そうな顔しないでくれる?」
「してねえよ」
いつもなら倍返しするところだが、今日は隣に春川さんがいる。俺は、夢の余韻を守るように、必死で言葉を飲み込んだ。
「朋美。そのくらいにしとけ」
兄貴が何かを察したのか、今日は珍しく掩護射撃をしてくれた。どうやら、俺たち兄弟は、年齢とともにちゃんと大人になっているらしい。
「仕方ない。今日は、このくらいにしといてあげよう」
「……ったく」
困ったもんだ。この従姉妹は……。
思わず、むすっとしてしまう。
その隣で、春川さんがにこりと笑う。
「優しくリハビリしてあげてね」
ともねえも、釣られたのか笑顔になる。
「はいはい。任せときなって」
春川さんの笑顔を見ていると、心がじんわりと温まり、頷かずにはいられない。それは、ここにいる全員の総意だと思う。
「じゃあ、私、帰りますね」
「はい……お疲れ様でした……」
春川さんがスニーカーを鳴らしながら帰っていく。現実の音なのに、不思議と心地よく響いた。
夢は終わった。でも、その余韻は、まだ胸の奥で揺れている。




