第4話俺が連れて行かずして、誰が行く
入院生活も1週間経つと、看護師をはじめ、病院職員たちの動きがわかってくる。
「おはようございます。今日は、3月25日です」
朝6時になると、夜勤の看護師による放送が流れ、強制的に電気がつく。廊下が騒がしくなったら、朝の検温・血圧チェックの時間だ。
俺がそわそわしていると、勢いよく扉が開いて、春川さんが入ってきた。
「おはようございます。不知火さん」
「おはよう……ございます……」
ああ……今日も、かわいい。夜勤で疲れているはずなのに、そんな素振りは一切見せない、素敵な笑顔だ。癒される……。
「だいぶ顔色、よくなってきましたね」
「そうですね……」
怪我が治るのはいいことだ。いいことなんだけど……!
3食昼寝、天使つきの病院生活が、隙間風と段差つきの実家生活に変わる……! それは嫌だ……!
「痛みは、どうですか?」
「まあ……痛み止めを飲めば……なんとか……」
「リハビリ、行けそうだったら、付き添いますよ」
「リハビリか……」
骨折したところも、最初ほどは痛くない。そろそろ行かなきゃいけないのはわかってる。
でも、ここにいたい。行きたくないオーラ、発動……!
春川さんは、にこりと笑った。
「リハビリ室の窓から、お外の景色がよく見えるんですよ。ちなみに、今日は菜の花が満開です」
「へえ……菜の花が見えるんですね」
俺は、菜の花には釣られないぞ。花より団子な男だからな。
「そうなんです。私、あそこから見る菜の花が好きなんですけど、なかなか行く機会がなくて……」
春川さんが上目遣いで、じっと俺を見つめる。
大きくて、きれいな瞳……。
やばい……これは……反則だ……。
「リハビリ、行きます!」
むしろ、俺が連れていかずして誰が行く!
あれ? 行かないんじゃなかったっけ?
自分でも不思議で、首を傾げる。
春川さんが、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、また、あとで迎えに来ますね」
「は、はい……! お待ちしてます……!」
春川さんが去っていく。見事にやられてしまった。
ただ、行き先がリハビリ室だとわかっていても、春川さんと一緒に行けるのは嬉しい。
俺は、久しぶりに櫛を手に取った。爆発した髪を整えねば。
少しでも、かっこいいと思ってもらうために。




