第32話お見舞い
一週間後。
スーパー・ニコニコでの勤務を終え、バックヤードでスマホをチェックした瞬間、耳をつんざくような着信音が鳴り響いた。ともねえだ。音量を最大にしてたの、今さら後悔する。
「篝~! 手術、無事に終わったよ~!」
スピーカーの向こうから、いつもの元気な声が飛び込んでくる。
うるさいけど……聞き逃さなくてよかった。
「わかった! すぐ行く!」
通話を切ると同時に、駐車場へダッシュ。オンボロ車のエンジンをかけ、花菱中央病院へと急行する。
面会時間終了まで、あと20分。渋滞に巻き込まれなければ、ギリギリ間に合うはずだ。
頑張れ! 俺!
頑張れ! オンボロ車!
ハラハラするけど、ちゃんと安全運転はしてるぞ。もう、事故りたくないからな。
幸い、渋滞には巻き込まれず、思ったよりも早く、病院の駐車場に着いた。
「優乃さん……!」
病院に着いたら着いたで、自動ドアの開閉すら、もどかしく感じる。
広い院内も、もちろん、全力疾走。通行人の皆様、バタバタと騒がしくて、申し訳ありません。
「失礼しますっ!」
勢いそのままに、病室のドアを思いっきり開ける。よい子はマネしちゃいけないやつだ。
「こらっ! 静かに開けなさいっ!」
ギロリと睨んでくるのは――ともねえ。
……般若かと思った。いや、まじで。
「勢いが余ったんだよ」
思わず言い返す。嘘じゃないし。
「篝……くん……?」
その声に、反射的に顔を向けた。
ベッドの上には、いくつもの管に繋がれた優乃さんが、か細い声で俺を呼んでいる。
白いシーツと、無機質な機械のピッピッという音。その中で、彼女の存在だけがやけに儚く見えた。
「無事に終わったんですね」
近づいて声をかけると、彼女は小さくうなずいた。
「……そうみたい」
その時――
「あ……」
優乃さんの手が、そっと伸びてきて、俺の手を掴んだ。
細くて、少し冷たい指が絡んでくる。心臓が、どくんと跳ねた。
……甘えてくれてるのかな、これ。
「今日は、よく休んでください。また来ますから」
できるだけ優しく言葉をかける。
優乃さんは、
「うん……」
と小さく返事をして、そのまま目を閉じた。
すやすやとした寝息が聞こえ始める。……俺の手、握られたままなんですけど。
「かわいいわねえ」
向かいに座っていたともねえが、ニヤニヤ顔でこっちを見ていた。
ほんと、この人のそういう顔、腹立つ。
「……そうだな」
でも、優乃さんがかわいいのは否定しない。……っていうか、否定できるわけ、ない。




