第28話初めての人
ソファに腰掛けたものの、悶々とする。
気をそらそうと思って、時計を見ても、全然、進んでない。俺の中では、かなり時間が経っているような気がするのに。
「お待たせ。篝くん」
声が聞こえて、はっと我に返る。
いつの間にか、目の前に、俺サイズのTシャツとズボンに着替えた優乃さんが立っていた。
これは、俺の妄想じゃないぞ。現実だ。
「ゆ、優乃さん……」
いい香りの優乃さんが、俺の隣に腰掛ける。
抱き締めて、このまま……。
いや。ダメだ。それじゃ、変態になる。
「このTシャツとズボン、着心地いいね」
「そ、それは、よかった……です……」
綿100%のパジャマ、いい仕事してますねえ。それに比べて、俺は……。
ああ。今日の沈黙は、なんだか気まずい。
「篝くんって、恋人とかいたことあるの?」
おお。優乃さんにしては、珍しい攻めた発言だ。沈黙は破られたけど、そうじゃない。
「いや……ない……ですけど……」
だって、俺が、女性経験皆無なこと、バレるじゃん……。
「じゃあ……手を繋いだりするのって……」
「初めて……です……」
聞かれたら、答えるしかない。
でも、めちゃくちゃ、恥ずかしい。
「それで、緊張してるんだ」
やばい……! 優乃さんに、バレてた……!
隠してたつもりだったのに……!
「だって、今まで、こんなことなかったから……」
言えば言うほど、かっこ悪い。
でも、優乃さんは、嬉しそうに目を細めた。
「……そっか。じゃあ、私は、篝くんの初めての人なんだね」
その言葉に、胸がドクンと鳴った。
「……そう……です」
なんとか、声を絞り出す。
そこで、ようやく、優乃さんの、じわじわ、かわいい猛攻が途切れた。
危ない。理性が崩壊するところだった。
「この写真は……?」
優乃さんが、ソファの向かい側にあるテレビ台を指差す。
そこには、小学生くらいの俺と兄貴の写真が置かれていた。
「俺と、兄貴です……」
これは、これで恥ずかしい。
いつも置いてるから、何も考えてなかったけど。
「わあ。2人とも、ちっちゃくて、かわいいね」
優乃さんが、近づいて、まじまじと見る。
何を見てるんだろう。
「この辺はアルバム?」
「そうですけど……」
テレビ台の下には、アルバムも置いてあった。家主ですら、忘れてたよ。
優乃さん、発掘上手だな。
「見てもいい?」
「どうぞ……」
優乃さんが、意気揚々と、アルバムを開く。
俺も、一緒に眺める。
開いた途端に、出てきたのは、保育園時代のともねえだった。
「これ、朋美?」
「そうです」
いつ見ても、気が強くて、たくましそう。
「子どもの頃から、なんだか強そうだね」
「そうなんですよ……いい人なんですけどね……」
「ふふふ。そうだね」
でも、共通の知り合いだから、話が弾む。
ありがとう! ともねえ!
おかげで、さっきまでの気まずい空気が、少しやわらいだ。
「こっちは?」
「えっと……」
う~ん……俺も、わからん。
その時、優乃さんの体がかくっと、揺れた。
「あ……ごめん……」
「眠くなったら、寝てもいいですよ」
気づけば、もう深夜だ。そりゃあ、眠い。
俺は、眠気なんて、吹っ飛んでるけど。
「ううん。ここで、篝くんの話を聞きたいの」
「そ、そうですか……じゃあ……」
お言葉に甘えて、他愛ないことを話す。
優乃さんが、にこにこ笑う。
こんな時間が、ずっと……ずっと、続けばいいのにな。




