第27話俺は、紳士だ
優乃さんを連れて、玄関の扉を開ける。意外と、玄関だけは広い。
「ど、どうぞ……」
「お邪魔します……」
優乃さんが、サンダルを揃えて、玄関を上がる。その所作がまた美しい。
今から、優乃さんをリビングへ案内する……そう思うと、心臓がバクバクしてきた。
「……入ってください」
「うん……」
台所の洗い物、片付け済。
洗濯物、畳んで、片付け済。
フローリングの床、掃除機済。
思ったより、きれいにしてた。ひと安心。
「ここ、篝くんの実家なの?」
「ええ……まあ……築50年なんで、古いですけど……」
「へえ……そんな風には見えないけど……」
ナメクジとか、ムカデとか……出るんですよね。……なんて、絶対に、言えない。
「……っくしょん!」
優乃さんのかわいいくしゃみが隣で聞こえる。そうだ。俺たちは、今、びしょ濡れだった。
「よかったら、シャワー、浴びてください」
「え?」
優乃さん、再び、目をぱちくり。
もしかして、また、へんな空気になってる?
いや……優乃さんのシャワシーンが見たいから……じゃなくて!
「だって、濡れたままだと、風邪引きますし……」
こういう健全な理由だ。俺は、紳士だからな。
「でも、着替え、持ってきてないから……」
「と、とりあえず、俺の服、貸します……」
確か、リビングの棚に新品のTシャツとズボンのセットがあったはずだ。ごそごそと棚を漁り、優乃さんに差し出す。
「どうぞ……」
「……ありがとう」
優乃さんは、照れながら受け取ってくれた。
よかった。地雷は、踏んでない。
「風呂場は、あっちですから……」
「わかった……お借りするね……」
優乃さんが、俺が指差した方へと消えていった。今から、風呂場では、あんなことやこんなことが……。妄想は止まらない。
はあ……真の紳士への道のりは、長そうだな。




