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第20話 120度のお辞儀、再来

後日。

春川さんとの約束を守るため、俺は地元のスーパー・ニコニコで正社員の採用面接を受けることにした。仕事内容は品出し。いわゆる、商品の裏方だ。


会議室は、机と椅子があるだけの狭い空間だった。なのに、白髪まじりのおじちゃん――たぶん店長――の声がやたらと反響して、胸の奥がざわつく。


隣に座る恰幅のいいおばちゃん(化粧濃いめ)が、蛇みたいな目でじっと俺を見てくるせいか、冷房の風がやけに肌にまとわりついて、落ち着かない。


「なぜ当店で働きたいのですか?」


「地域密着で、長く働きたいからです」


本音を言えば、春川さんのそばにいたいから。異動のない職場で働けるなら、それでいい。けど、それは胸の奥にしまっておく。


「品出しの仕事に興味を持った理由は?」


「体力を活かし、接客も含めて幅広く経験したいと思ったからです」


「土日や早朝・夜勤も可能ですか?」


「はい。可能です」


おじちゃんの質問攻撃を、なんとか落ち着いて受け答えできた。体力には自信があるし、夜勤といっても看護師みたいに一晩中働くわけじゃない。きっと何とかなる。


安心したのも束の間、今度はおばちゃんが口を開く。


「品出しや接客の経験はありますか?」


「ありませんが、イチから勉強したいと思っています」


「この仕事で大変だと思うことは?」


「体力勝負なところだと思います。でも、周りの方と協力して乗り越えたいです」


 我ながら、落ち着いて答えられている。ちょっと成長した気分だ。

 最後に、おじちゃんがじっと俺の目を見る。


「スーパーの仕事で大切なことは何だと思いますか?」


「お客様に笑顔で、丁寧に対応することです」


――よし、決まった。

おじちゃんとおばちゃんが、ふっと笑みを浮かべた。これは……手応えあり。


「来週からさっそく来てください」


「よろしくお願いします!」


二人がそろって頭を下げてくる。

俺も負けじと、深々と――120度のお辞儀。


ついに、仕事が決まった!



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