第18話セルフ反省会
青い絨毯……ではなく、マフラーくらいの咲き具合の花畑を進んでいると、次なるフォトスポットが見えてきた。
「あ。あれ、面白いね」
春川さんが指差した先には、某ご長寿アニメに出てくる道具みたいな扉があった。同じことを考える人が多いのか、家族連れの割合が多い気がする。
「で、でも、人が多いから、やめとこうか……」
それを見た春川さんが急に躊躇した。さっきまでのテンションはどこへ行ったのか。気になる。
「俺は、別にいいですけど……」
「そ、そっか……なら、並ぼうか」
相変わらず、空気の読み合いが続く。これ、いつまで、続くのかな。並んでいる時も、無言になっちゃったし。嫌だったかな。
そんなことを考えていると、俺たちの前の親子連れの番になった。
「パパ!一緒に写真に写ろうよ~!」
「いや~……でも、撮る人がいなくなっちゃうからなあ~……」
パパらしき優しそうな男性が、高そうなカメラを5歳くらいの男の子に向けている。
その隣に、ママらしき可憐な女性と3歳くらいの女の子が立つ。
「ダメ!あ~ちゃんが真ん中なの!」
女の子が男の子を押しのけた。男の子が泣きそうな顔をしている。
「こら! 次の人が待ってるんだから、ケンカしないの!」
ママが苛立ち始めた。パパはカメラを持ったまま、固まっている。これじゃ、収拾がつかない。困る。
「撮りましょうか?」
こういうキャラじゃないけど、思いきって、声をかけてみた。
「すみません。ありがとうございます」
パパが、高そうなカメラを俺に渡して、子どもたちのもとへ向かう。これ、うっかり落とすと、兄貴への借金が増えるやつだ。
「じゃ、撮りますよ~……さん、にい、いち……」
見知らぬ男に撮られる方も緊張するだろうが、撮る俺も緊張して、心臓がバクバクする。でも、無事にシャッターは押せた。
「まあ。いい写真……」
近寄ってきたママが笑顔を見せる。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
子どもたちも、隣で、ぴょんぴょん跳ねている。よかった。
「どういたしまして」
さきほどから、何も言わない春川さんをちらりと見る。俺を見て、春川さんは、はっと我に返ったみたいだ。疲れてるのかな。
「よかったら、お撮りしますよ」
パパに言われて、春川さんが自分のスマホを差し出す。
「お、お願いします……」
なんとなくぎこちない春川さんを連れて、扉の横に立つ。
ところで、この扉は横に立つのが正解なのか、入って撮るのが正解なのか。ナントカ映えを意識したことのない俺には、答えがわからない。
「ありがとうございました」
春川さんが、パパからスマホを受け取り、笑う。うまく撮れていたみたいだ。
「ばいば~い!」
役目を終えたパパとともに、子どもたちが、俺に手を振りながら、去っていく。
「うん。ばいば~い」
俺も、負けずと手を振り返す。それを見た春川さんが、久しぶりに口を開いた。
「不知火くん。子ども、好き?」
「好きですよ」
そりゃあ、あんな無邪気でかわいい生き物、嫌いな人の方が少ないだろう。俺は、至って、普通に、一般的な模範回答をした。
「そっか……」
春川さんがまた俯く。今日は、やっぱり、調子がよくなさそうだ。
「……帰りましょうか」
「え……あ……うん……」
いや。調子がよくないんじゃなくて、俺が、地雷を踏んでいるのか……でも、今の流れの中で、地雷を踏むタイミングはあったのか……。セルフ反省会の終わりは見えない。




