第14話生きてるからには
会社をクビになった俺は、毎日、リハビリに来ていた。ストレッチマットに囲まれ、時計を見ていると、ただの怪我人だった頃に戻れる。
「はあ……」
もう少し、怪我人の名残で、リハビリという仕事があるけど、そろそろ卒業だ。そうなると、マジで、ただのニートになる。やばい。
「篝。リハビリ、お疲れ様」
もう潜れないくらい深いため息をついていると、兄貴がニヤニヤしながら、近づいてきた。
「デート、どうだった?」
「まあ……頑張ってよかった……かな……」
ふと、この前のデートを思い出す。あの反応は、プライスレスだ。かわいかったなあ。
「ここ最近、リハビリばっかりしてるから、そんな気がしたんだよね」
兄貴がケタケタと笑う。
俺、そんなに分かりやすかったのかな。
「ところで、仕事は、復帰できたの?」
ここで、兄貴が思い出したくないことを口にした。
「それが……解雇になって……」
おお……俺といい勝負の深いため息だ。兄貴、ごめん。
「新しい仕事は見つかりそうなの?」
「いや……まだ……」
リハビリという仕事のある怪我人ですから……と言いかけて、ぐっと飲み込む。わかってるよ。それとこれとは別だって。
「今度は、正社員の仕事を探しなよ」
「でも、正社員、大変だし……」
「仕事は、なんでも大変なんだよ」
「でも、養うような家族もいないしさ……」
今まで、それを口実に、俺は、逃げ続けてきた。兄貴も、何も言わなかった。でも、
「よくないね」
今日は、違った。
「そ、そうかな……」
「だって、現に、非正規だったから、保障もつかず、切られたんでしょ? 」
「ぐっ……!」
兄貴の言葉が刺さる。ぐうの音も出ない。
「もう30歳なんだから、そういうところまで考えて、仕事を選んだ方がいいよ」
「……はい」
何も言えねえ。
「じゃ、色々と頑張って~」
兄貴は、言いたいことを的確に言うと、すっとどこかへ行った。
「くっそ~……」
今までの俺なら、ここでKO負けしてた。
でも、今の俺は、違う。
生きてるからには……幸せになりたい……!




