第13話To Be Continued?
滝壺の周りを散歩した後、俺は、春川さんを駅まで送りに来た。
「今日は、ありがとうございました」
改札口の前で、春川さんが深々とお辞儀する。
「いえ。こちらこそ。楽しかったです」
散歩中、今後の話は出なかったから、恐らくこれっきりになるだろう。それでも、後悔はない。
「えっと……」
改札口は真後ろにあるのに、急に春川さんがきょろきょろし始める。
「……行かないんですか?」
「いや。でも、電車が来るまで、あと5分ありますし……」
確かに、電光掲示板によると、あと5分はある。でも、早めに着いたのだから、中で待った方がいい気がする。
「いや……でも……」
「だ、大丈夫です! 慣れた靴ですから……」
俺から見ると、それなりに高さのある靴のような気がするが、女性にとってはそうでもないのだろうか。
「もしかして、何か言いたいことがあります……?」
鈍い俺でも、こんなにそわそわされたら、さすがにわかる。俺、何かやらかしたのかな。
「違うんです……その……帰りたくないな……って、思って……」
「……え!?」
青天の霹靂第3弾。
何なんですか。そのかわいい反応は。
「だ、だって、1回だけっていう約束でしたから……」
実は、気にしてたんだ……と思うと、顔がにやけてくる。そう言ってもらえるなら、俺の心は決まってる。
「じゃあ、また遊びに行きましょう」
「え? いいんですか?」
「はい。行きたいところがあったら、教えてください。調べておくので」
「わあ……ありがとうございます」
春川さんが、今日、見てきた中で、1番の笑顔を見せる。やっぱり、春川さんには、こうであってほしい。
「あ。電車が来た」
いつの間にか、ホームに入ることを知らせる音が賑やかに鳴っている。俺の心も負けちゃいないけど。
「気をつけてくださいね」
「うん……じゃあ……またね」
「え……ああ……はい……」
今、またねって言われた気がする。ちょっと打ち解けてもらえたみたいで、なんだか嬉しい。
「……よし。俺も、帰るか」
その時、スマホが着信を知らせるため、振動した。嫌な予感がする。
「はい。不知火です……」
「ラビット運送会社の高山です」
「ああ……お世話になります……」
ビンゴだ。雇い先の人事係から無機質な声で電話がかかる……ということは、あの話しかない。
「雇用期間の契約が切れましたので、本日付でご自宅へ書類を送りました。手続きをお願いします」
「それって……」
「当初の契約に基づき、1ヶ月間以上、お仕事ができない場合は、解雇となります」
「……ですよね」
「それでは、失礼します」
無機質な声は言いたいことをいうと、一方的にぶつっと切れた。
「はあ……」
一気に現実だ。兄貴に負けないくらいの深いため息しか出てこない。
明日から仕事を探さないといけないなあ。




