第12話人生2回目にして、初めての青春
滝壺は有名な観光地になっているらしく、国内外のお客さんで溢れていた。
「すごいですね!」
昨今のナントカ映えのため、柵が低いから、滝の水しぶきがよく見える。でも、呑気に見ていると、観光客におしくらまんじゅうされる。
「わっ……!」
隣にいた春川さんが、バランスを崩して、よろめいた。
「春川さん……!」
俺は、思わず、滝壺に落ちそうになった春川さんの手を引っ張り、抱き寄せた。こういう時、デカくて、頑丈な体は便利だ。
「危なかった……」
「そうですね……」
抱き締めていると、春川さんのふわふわした感触と甘い香りが伝わってくる。
……幸せだ。
「あ、あの……」
春川さんの声を聞いて、はっと我に返る。やばい。痴漢になるところだった。
「す、すみません……」
「いえ……助けてくださって、ありがとうございます……」
どうしよう。へんな空気が漂ってる。滝壺にダイブして、今の変態思考を洗い流したい。
「そ、そろそろ、帰りますか?」
俺は、帰りたくないけど……と言いそうになって、ぐっとこらえる。紳士なら、春川さんが嫌がることはしないはずだ。いや。もう、してしまった気もするけど。
「ご、ごめんなさい……そういうわけじゃなくて……」
「え?」
「男の人と、こういうことをすること自体が久しぶりで……ちょっと……戸惑ってて……」
春川さんの顔が耳まで真っ赤になってる。俺と違って、肌の色が白いから、わかりやすい。
思わず、噴き出してしまった。
「笑わないでくださいよ……」
「すみません……なんだか、意外だなって、思って……」
「私、そんなにモテるタイプじゃないですし……バツイチですし……」
「えっ……!? ば、バツイチ……!?」
青天の霹靂第2弾。
誰だ。いったいどういう男なんだ。春川さんの『初めて』を持っていったのは。
「すみません……嫌ですよね……そんな肩書きのある女なんて……」
俺が、春川さんの元旦那に嫉妬していたら、春川さんが俯いてしまった。違う。俺は、春川さんに、上を向いてほしいんだ。
「そんなことないです」
「不知火さん……」
「だって、結婚していたら、こうして、遊びにも来れませんでしたし……俺にとっては、よかったというか……」
嘘じゃないけど、うまく言えない。俺にとっては……って、何なんだよ。
「……確かに、そうですね」
春川さんの表情がぱっと明るくなる。つまり、これは、私にとってもよかったと捉えていいのだろうか。乙女心って、わかんねえな。




