終わり……?
ゴト。
手に取ったナイフは思いの外、重量感がある。
「おそらく、乙華さんは自宅にいるでしょう」
占い師が言う。僕はナイフを鞄に隠して、占いの部屋を後にした。
やっとだ。乙華がおかしくなった理由も分かった。ただ、今はもう元に戻したい気持ちはない。裏切られたことの絶望感とこの人生を良いものにしたいという思いだけ。
また、バスに乗る。一番後ろの席。なんだか遠足に行く子どもの気分だ。それだけわくわくしている。
帰ってきた。眼の前にはアパートがある。バクバクしている心臓を抑え、階段を登る。
部屋の前まで来た。このドアを開ければ、君はきっといる。鞄のナイフの重さを確認して、鍵を開ける。不審に思われないように普段通りに入る。
誰も居ない。流石にあの占い師も居場所までは当てられなかったか。でも、狙われているんだ。きっと勝手に来るだろう。ただ、念のため全てを確認する。
風呂場の戸を開けたときだった。後ろから音がした。振り返る。
「うっ」
声にならない声が出た。腹を見るとナイフが刺さっている。どこかで見たことがあるナイフ。そうだ、あの占い師が渡したナイフとそっくりだ。目の前には、乙華が笑っている。ああ、やられた。確かに乙華にこの人生めちゃくちゃにされた。
腹から流れるものの暖かさを薄れゆく意識の中で感じた。