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4話.北東の果ての放浪仲間

やっちまったからには仕方ない。進み続けるしかない。悲しいが、歩き続ければ辿り着くはずだ。それに俺は素晴らしいことを思いついた。いくら広大な森とはいえ、森には終わりがあり、街には城壁があるはずだ。つまり……。


「北に歩き続ければ城壁にぶつかる。あとは城壁に沿って歩けば街の門に辿り着く。天才だな」


というわけで調子に乗って歩き始めた俺は、時折モンスターに出くわしながらも進み続ける。現実の時間ではもう八時を回っている。早く街に辿り着きたいものだ。そんで宿に泊まってセーブポイント更新して、現実で朝飯を……。


「考えたら腹減ってきた……」


兎にナイフを突き刺し、ポリゴンとなると共にアイテムがドロップする。見たことない草だ。アイテム名は良薬の草。HPを5回復するそうな。今の俺は数度出会った子鹿リトルディア・ケリュネイアによってHPが削られ残り8。うん、食べよう。


「もしゅもしゅもしゅ」


ほうれん草を食べている気分で、いや、兎になった気分でもしゅりながら進む。太陽が眩し過ぎる。サングラスあって良かったな。にしてもこのゲーム、スタート位置が職によって変わるなら街スタートの奴はある意味不利なのでは? 始まりの街を出て第二の街へ向かう時にソイツらはレベル1なんだろ?


「もしゅもしゅもしゅ、ごくり……街スタートだと装備をよりよく備えられるから、レベル低くても平気なのか?」


街にはきっと多くのプレイヤーがいて、いろんな職の人を見られるんだろうなぁ。俺はギルドに入る気はないけど、三本指のギルドとかあるんだろうなぁ。強いんだろうなぁ。廃ゲーマーなんだろうなぁ。


「うわ、なんだあれ」


恐らくは北の果てまで辿り着いたんだろう。しかし目の前に聳えているのは城壁というにはだいぶ無理がある壁のようなもの。土塊というか何というか。日本の城のように石が積まれているわけじゃないし、どっちかといえばローマの石造りの街並みが驚くほど廃れたみたいな。


そういや最初に見せられた映像もローマみたいだったな。ああいう街並みをモチーフにしているんだろうか。


蔦が絡まる壁にぺたりと手をつけ、その高さを思い知る。


「不法侵入はする気はないが……どのみちこの壁は登れないな」


せめて少し登れれば現在地が分かるかと思ったんだが、十メートルを超えそうなこの壁は無理だな。その辺の木でも登ったほうが賢明だ。


「……ん?」


壁から離れて辺りを見回していると、ふと右の視界の端に洞窟のようなものが見えた。それから、青い光がある。二つの青い光……違う、あれは瞳だ。モンスターだろうか?


こちらを伺うようにそこにいる。何かがいる。


「先を急ぎたいところだが、気になるな……」


そして一歩、近づこうとしたその時。

ガサガサ、タッタッタッタッ、ゴソゴソ。

木々や草木から、今の今まで絶対にそこにいなかったであろう量のモンスターが飛び出した。睨みつけるように、推し量るように三メートルほどの距離を保って俺を見ている。


「子鳥に兎に子鹿、狼なんかもこのフィールドにいるのか」


新たなモンスターにワクワクしたいところだが、この調子じゃあ死んでしまう。セーブポイントを街で更新する前だから死んだらまたあの巣から再開なんだろうな。それだけは嫌だ! 生き残るぞ俺! 大丈夫、昔は金属バット持った奴らに日常的に襲われて囲まれてたんだぞ!


「こんくらいでビビってたまるかぁあああ!」


草を食べるために一時的にインベントリに閉まっていたナイフを取り出し、構える。すぐに全速力で走り出した。筋力にポイント付与してて良かったあ! ここまで歩きまくってるけど足がもつれない! 最高!


「オラオラオラオラオラぁぁああああ!」


死ねぇ! と叫ぶのを堪えて飛び回る。三メートルという距離を秒で詰めた俺は鹿が突進してくるのを流星兎飛翔で躱し背後を取った。すぐにその柔らかい背中部分を切りつけ、一体倒すことに成功する。


次に狼がこちらに目をつけた。なるほど分かったぞ。こいつら別種のモンスターがどれほどの連携を取るのか知らないが、小鳥は倒れたり転んだりした俺を地面から立たせないように突くつもりだろ。


「行動パターンがバレバレだぜ!」


こちとら不良時代の嗜みのおかげで一人対複数人はお手のものなんだよ!


ハティ・マーニという名の青と銀の混じったような変な毛の狼の一体を倒すべく、立ち向かう。鉄刃の乱れ咲を駆使して棘のように逆立つ毛にナイフを突きつけるが、むしろこちらの武器が欠けてしまった。最悪だ。耐久が限界になっている。仕方ない。狼は殴って倒して、兎を倒すのにナイフを使おう。


ナイフをしまって拳を構える。これまた筋力にステ振っといて良かった。


「殴り合いが俺の特技だ!」


現実では犬好きなんだが今は仕方あるまいと心を鬼にし狼の尻尾を掴む。怯んだ狼に渾身の一撃を喰らわせ、ポリゴンという名のデータに帰らせていく。


「あー、数が多いなぁ」


残るは兎五匹、小鳥数十匹、子鹿一体、狼二体。これに勝ったらさぞかしレベルが上がることだろうよ。


「狼は名前赤ってことは、レベル上かよ」


ひとまず足元を邪魔する小鳥からヤるか……? っととと、子鹿の突進には気をつけないとな、今掠ったぞ。


「HP残り11、MPはマックスだが魔法知らないから意味ねぇしな」


前言撤回で厄介な鹿からヤろう。

もうナイフ取り出すの面倒だから拳でいこう。現実世界で習得した拳の強さ、構えの鋭さ。腰を落として鹿が突進してくるの待つ。そして……。


「今!!」


鹿の突進を真正面から受け、タイミングを合わせてその顎にアッパー! 決まったぜ!

吹っ飛ばされた鹿は天高く持ち上げられ、今度は地上へと叩きつけられる。痛そう。そのままポリゴンとなって散っていった。


視界の端にスキル習得の文字が出るが、確認はあとだ。


兎五匹が一斉に飛びかかってきて驚きのままに咄嗟に躱そうとすると、足元に小鳥が集まっていることに気がつく。まーたブーツ突いてやがる。やめろって言ったろうが。


「悪いな」


片足を円を描くように地で動かし小鳥を蹴飛ばす。ピギャアと鳴いて散布していくのを見ながら、今度は背を沿って兎を躱す。まるでスケート選手みたいな華麗な身のこなし。伸ばした手にナイフを呼び出し、空中を飛び交っていく兎を切りつけた。


残るは兎三体、狼二体。最初に比べりゃあ減ったが強い奴が残っちまった。


「あと少し!」


ここにいるのが小鳥だけで良かった。親鳥であるクラッシャー・バードがいたら確実に死んでただろう。あの嘴に捕まって地に落とされ、動けないところを狼やら小鳥やらに喰われる未来が手に取るように見えるぜ。


「双翼の舞踏会!」


スキル名を叫び、兎を倒していく。鉄刃の乱れ咲が乱れ咲という名の通り敵の身体の表面を無数に切りつけるのに対し、双翼の舞踏会はダンスをするが如く精密に、ナイフ一本につき一回だけ一点集中で突く。こちらはまるでアイスピックのようだ。


兎の目を左のナイフで一点集中、突いてやる。ソイツが散布していくのに目もくれず、背後を取るように飛びかかってくるもう一体の兎にも残る右ナイフの一回をくれてやる。もう一体は足元にいたから綺麗なフォームのキックをしてやると飛んで行った先で木にぶつかり、ポリゴンとなって消えていく。


「最後は狼野郎だな」


左右に一匹ずつ、姿勢を低くして今にも飛びかかろうとする狼。あの硬い毛のせいでこいつらにナイフは効かないから、しゃあなし、拳でいこう。


「かかってこいよ!」


俺の挑発を受け走り出した狼二体を流星兎飛翔で躱わす。おそらくこのエリアで一番強い狼は勢いを殺し、互いが衝突するという間抜けを回避。ぶつかって自滅してくれりゃラッキーと思っていたんだが、そう上手くはいかないか。


「犬コロに負けてたまるかッ!」


地面に降り立った俺は目の前の二体を睨み、素手のまま立ち向かう。やはりまた尻尾を掴むか? 死んだような紫の瞳の狼はこちらの様子を伺っているのか中々飛び出してこない。こちらから向かうしかないか。


さあてどうする、殴るか蹴るか、掴んで飛ばすか。そういやさっきスキル習得って出てたよな。何のスキルだ?


「破壊拳……アッパーか」


もっと細かい内容が書かれていたがとにかくアッパーに関する攻撃だ。でもって今この瞬間に持ってこいだということが分かる。クリティカル成功率がやや高いそうだから、これにしよう。


「破壊拳!」


すると右拳に赤い炎のような何かが宿った。身体にバフが付与されたことが感覚で理解できる。


「よっしゃあ!」


こういうゲーム世界でしか見ない表現って、楽しいんだよなぁ。やべ、シアクラ、すげえハマりそう。


犬コロめがけて走り出し、同時に相手も走り出す。バフがかかったのは右だけ。左側の狼は躱して、右側のみに集中する。殴ろうと顎に手を伸ばした途端、俺に噛みつこうと涎の垂れる口が開かれ、咄嗟に身を引こうとするも、ヤバい、噛まれる、せめて左腕を……。


「いッてえ! けど、右は守れた!」


左腕を噛まれたまま歯を食いしばって堪え、右拳を犬コロの胴に入れてやる。意地でも離してたまるかと牙を立てる狼だったが、三発入れた段階で赤いポリゴンが止めどなく流れ散っていった。しかしホッと息を吐く間もない。もう一体の狼が俺の首を狙って飛びかかってくる。


「うぉっ!」


押し倒され、地に転がる。目の前というか、俺の上に狼が乗り喉めがけて口を突き出している。必死になって犬コロの喉を掴み、引き離そうと力を込めた。が、さすが俺よりレベル上。このままじゃ埒が明かない。


「ちょ、マジ離れろ、涎やめろってクソ……ん? コイツ、胸のとこは毛が柔らかいのか」


待てよ、それなら……ナイフで良くね?


喉を片手で押さえつけ、その間に空いた手でナイフを呼び出す。片手じゃ力が押し負けるせいで犬コロの牙が鼻を掠める。早くしないと。


「おおおらあああああああ!!」


握りしめたナイフを、犬コロの喉に横から刺す。すぐに赤いポリゴンが流れ出し、力なくぐったりと、下敷きの俺めがけて倒れ出す。


ようやく、長い戦いが終わった。


「はぁ、はぁ、HP5か、あっぶね」


ナイフをしまい、草の上に横になったまま、ステータス画面を開いた。


「レベル、上がってるな、ははは……」


ポイント付与しよう。あと、ドロップしたアイテム確認しないとな。あー、疲れた。まだ初めて三時間ちょっとなんだが、腹が減ってるせいか? 迷子になったせいでだいぶロスしてるな。けどまあ結果的に倒せたし、良しとするか……?


「見事だ、まさかレベル二桁もない者があの集団を倒すとは」

「そりゃどうも」


……ん? 


「武器と素手の使い分け、その戦闘スタイル。熟練の傭兵と見たが、名前を聞いても?」

「待てよ、誰だ? 他のプレイヤーがいたのか?」


ステータス画面を閉じてガバリと起き上がり、周囲を見回すも誰もいない。何だ? 疲れすぎてついに幻聴が?


「あたしはここだ、傭兵殿」


芯の強い女性の声。

惹きつけられるように、声鳴る方へ目を向ける。するとそこは、洞窟……青い、目……そうだ俺最初アレに気を取られて、気がついたら囲まれてて……。


「初めまして」


暗い洞窟から姿を現した、青目の何か。

その正体は……。


「あたしは名はリル。貴殿の名は、何だ?」


ハティ・マーニ、だった。


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