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3話.迷い傭兵は地図すら破る

「さて、街はどの方角だ……?」


日常でも地図は使うが、多くのゲームをやる中で地図を見ることは多々ある。だというのに俺の方向音痴は治らない。困った物だ。


しかもこの神ゲー、職によってスタート位置が違うために所持する地図も違うのだ。例えば騎士の類はその多くが街にある建物から始まる。国に忠誠を誓う騎士という職は、言わば勝ち組だ。最初から安全地帯で装備を整えることになる。逆に俺、傭兵はこうして森スタートかつボロボロの地図一枚を所持しているのだ。


インベントリから引っ張り出した地図を持ち、辺りと照らし合わせる。


「エリア名原初の大地……その地図、か。ところどころ破けているから迷子になったら現在地が分からなくなるな……」


右も左も木、木、木。

地図には丸い印がされていて、そこにはクラッシャー・バードの巣と書かれている。どうやら俺は西の端にいるようだ。そして目的地である始まりの街ファースアリアはやや北東。分かりやすく言えば地図の中心から最北に向かった点である。


「こういう時一人なのは心細いよな……」


太陽は順調に昇り、もうはっきりと姿を表している。空も先ほどまでの、薄暗さに赤みをかけたような色とは違い、すっかり青くなっている。ゲーム会社の本社が日本だから、時間も日本と連動しているんだろうか。


「昼になるまでに、辿り着きてぇなあ……」


控えめな目標を掲げ俺は一人歩き出した。


地図は持っていても仕方ないし、どうやら一度手に触れた地図は空中に表示できるようだから視界の端に浮かばせておく。ナイフを手に持ち、いつモンスターと出くわしてもいいようにしておく。


あれは四ヶ月くらい前だったか。ボス戦が終わって欠けた武器をしまって、平和になった世界を眺め王に報告すべく森を歩いていた時だった。突如現れた狼に残り少ないHPを喰われたんだよなぁ。武器はボス戦で消耗していたから使えなくて、あれは、あれは、最悪だった。


そうだ、クラスメイトに教えるのはこのゲームでもいいかもしれない。確か名前はクラウン・ウルフ。由来はお察しの通りバカみたいに強いボス戦の後に狼にやられる人続出だからだ。どんな英雄も疲れているところを狙われれば狼が勝つ。そうしてプレイヤーは泣きながらボス戦前からやり直すのだ。クソゲーめ。このゲームも確か美里さんが笑いながら勧めてきたゲームだったぞ。


「サングラスのおかげか? 太陽が眩しくねぇな」


一向に変わらない景色に飽きて、空を見る。その時だった。ガサガサ、と近くの草が揺れた。咄嗟にナイフを構えてみれば、やはり現れたのはモンスター。今度は鳥ではなく鹿だった。小型なんだろうか。頭上の文字は黄色で、リトルディア・ケリュネイア。


ケリュネイアって、神話かなんかの鹿だったか? 別ゲーでも見たことある名前だ。


「まあいい。黄色なら倒せるだろ」


あのツノを狙って倒せばツノがドロップするんだろうが、生憎ナイフの耐久が先に燃え尽きそうだ。柔らかい肉部分を狙うしかない。鹿だけに。うん。滑ったな。


「今度はまともに戦ってくるか?」





二十分後。何というか、強いというよりも戦いにくい相手だった。ツノで頭突きしてくるから避けるために距離を取り、また近づいては頭突きを避けるべく距離を取り……の繰り返し。しかし慣れてくれば頭突きのタイミングが分かるようになり、その瞬間に飛んで背後を取れば完璧だ。ドロップしたのは鹿肉だった。


「ん? スキルを覚えたのか」


流星兎飛翔を習得しました、と文字が出る。


「ああ、飛びまくってたから……にしてもナイフがほんとに限界だな。ドロップアイテムに武器ってないのか?」


その後も歩き続けて、様々なモンスターに遭遇した。


森の中を流れる川にはファンタジーなカエル、ファンキー・ファンキー・ケロがいた。緑色の皮膚がドロップし、説明を読めば服の素材になるんだとか。長い舌に何度か足を掴まれたのが気持ち悪かった。ヌルヌルとした体はナイフと相性が悪く、殴って終了。ゴングがなった。


他には兎がいた。ラビット・ホーリンという名の赤目の白兎は初心者向けのようで青い文字。ナイフと相性がよくすぐに倒せてしまった。ドロップしたのはこちらのアイテム。紅玉色の瞳石と白兎の毛皮、お金が少々だ。


「なんか、街遠くないか?」


とりあえずステータス画面を開き、ここまでに習得したスキルの確認とEXPの付与を行う。


☆☆☆


《ステータス》

Lv.7

所持金.150ルアン

HP(体力).15

MP(魔力).15


STR(筋力).3

ATK(攻撃力).1

DEF(防御力).11(+10)

DEX(器用).1

AGI (スピード).2

LUK(幸運).4(+3)

所持EXP(経験値).15


《スキル》

流星兎飛翔

鉄刃の乱れ咲Lv.1

双翼の舞踏会Lv.1


《装備》

頭.漆黒のサングラス(DEF+10)

胴体.漆黒の傭兵ベスト

下半身.漆黒の傭兵ジーンズ

足.茶色の紐ブーツ

アクセサリー.白銀の左耳ピアス(LUK+3)

武器.双翼の鉄ナイフ


☆☆☆


「うーん、迷うな」


やはり筋力は必要だ。しかし、鹿相手の時はスピードも重要だった。ただこれからのドロップアイテムを考えると幸運も上げたいところ。現状、防御は何もしなくていいだろうから後回しだな。


☆☆☆


《ステータス》

Lv.7

所持金.150ルアン

HP(体力).15

MP(魔力).15


STR(筋力).10

ATK(攻撃力).5

DEF(防御力).11(+10)

DEX(器用).1

AGI (スピード).4

LUK(幸運).6(+3)

所持EXP(経験値).0


《スキル》

流星兎飛翔

鉄刃の乱れ咲Lv.1

双翼の舞踏会Lv.1


《装備》

頭.漆黒のサングラス(DEF+10)

胴体.漆黒の傭兵ベスト

下半身.漆黒の傭兵ジーンズ

足.茶色の紐ブーツ

アクセサリー.白銀の左耳ピアス(LUK+3)

武器.双翼の鉄ナイフ


☆☆☆


「ひとまずこれでいいか」


次にいつまで経っても街に行けないことを気にし始める。いつもの如く迷ったのでは、と。地図は現在地がないから俺だと迷ってもおかしくない。しかも筋力を上げていることや俺自身の持っている体力が多いことから「これだけ歩いてもダメなの? もう疲れたよ?」となることがない。迷子になっていることに気が付かずちょっと遠いな〜と思ったら目的地通り過ぎて五キロということも去年現実であった。


モンスターがいなさそうなのでその場に座り込み、地図を実体化させて見る。指先で歩いてきた道をなぞってみるが、やはり分からない。本当に俺はこの道を辿ったのだろうか。


「カエルがいた川の下流がこの丸だろ、兎の洞穴がこの丸で……今どこだ? あー、モンスターが出れば位置が分かりそうなんだが」


周囲には何の気配もない。プレイヤーの声もない。太陽がやや下がっているから正午は終わったのだろう。夕方二時くらいだろうか。ゲームに夢中でどのくらいプレイしていたのかも分からない。


ステータス画面を再度開き、隅に書かれた時間を見る。現実の時間だ。俺は五時半くらいにゲームを始めたから、今が七時半ならば……二時間やってたのか? 容姿決めたり鳥倒したりに四十分ちょっとかけたとしても、そのあと一時間半ほど歩いていることになる。そんなに歩いたらとうに地図の中心は超えて東側、地図に載ってない破けた部分まで来ちゃったんじゃないか?


「待て待て待てやばい迷子どころじゃない……一旦西に戻るか? 洞穴まで辿り着けば希望が見えるぞ」


焦って手に力が籠ったその瞬間。

ビリ、と音がして地図が裂け、ポリゴンとなった。


「え……いや、確かに古びた地図だった、破けそうだとは思った……でも、ほんとに破けることあるか?」


この間、入学してすぐに測った握力が50あったことを、忘れていた。それプラス筋力に捧げたポイントがあるのだから、破けたって文句は言えない。


「マジで迷子どころじゃねえぞ」


持っていない地図は見られない。

空中にデータ化した地図を浮かばせることも、出来なくなっていた。おのれ。

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