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1話.身だしなみは大切に


『お名前をお聞きしてもいいでしょうか、開拓者様』


辺り一面が真っ白。そんな中、声と共に目の前に文字が浮かび上がった。これは、返事をすればいいんだろうか。音声認識のレベルはどの程度有能か。このゲームに搭載しているAIの頭が良ければ正しく声を拾ってくれるんだろうが、ま、その辺りは神ゲーだから気にしなくていいか。


「ブレイドだ」


面倒くさいからといつも同じプレイヤーネームを使用しているため、迷う事はない。ネーミングの理由は至って単純。俺の名前が獅子王刃(ししおうじん)。そう、刃だからブレイドだ。


『ブレイド様。お待ちしておりました。それでは、ご職業をお教えくださいませ』


すると、大量の職業名が浮かび上がる。スクロールしながら見ていくも、長時間迷うほどの量だ。設定好きの者からすればこれだけでも十分楽しめてしまいそう。


「色々あるんだなあ……なになに、拳闘士、格闘家、剣士、騎士、あ、騎士の中でも重騎士とか軽騎士とかで分かれているのかあ……他にも侍、歩兵、姫騎士、暗黒騎士。騎士だけでも種類豊富か。作り込みがすごいな」


職業の文字の隣に選択できないことを示す灰色の文字が並んでいることもある。例えば、騎士の隣に灰色で竜騎士と天馬騎士、聖騎士と騎士団長など様々である。恐らく騎士を選んでゲームを進めるなかで、発生するイベントやステータスの振り方によって進化してなる職業なんだろう。


「騎兵、戦士、女戦士、狂戦士、重戦士、蛮族、傭兵、盗賊、忍者、くのいち、盾使い、弓使い、エルフ、狙撃手、狩人、槍使い、討伐者、山賊……」


その後もスクロールを進めていくが、例えば盾使いは守護者に進化できたり、忍者は暗殺者に進化できたりと道がたくさんある。職業選択は重要なものであること間違いなしだ。


「へえ、ザ・バトル系ってやつだけじゃなくて、神父や聖職者もあるのか。なるほど、教皇や枢機卿、司教に進化すると。僧侶は和風だな。お、神殿騎士に進化できるやつもあんのか。異端審問官は暗黒系の獣に強いと。設定細かいなあ。さすが神ゲー」


魔法系もあって、魔女や大魔法使い、魔法騎士を筆頭とした職が並ぶ。大魔法使いや魔導士はともかく、黒魔術師や白魔術師、エクソシストや死霊魔術師という職や進化先は中二病心がくすぐられる。


「ヒーラー、預言者、召喚士、人形使いに踊り子、道化師、学者……ああもう、多すぎる!そろそろ決めるぞ、俺!!」


他にもあったが、とりあえずスクロールするだけして決めることにした。


俺は女装する気はないから、姫騎士とかくのいちとか、そういった類は除外。次に不良時代の経験もあるし、後衛でのんびり援護するタチでもないから前衛職が好ましい。とすると、ヒーラーや預言者、魔法使いも除外だな。もちろん、こっそり隠れて動く忍者系も除外対象だ。すまんな。


魔法系のスキルは名前が難しそうで、詠唱を覚えられる気がしない。ああいうのは見ているくらいがちょうどいいんだよな。俺が杖振って戦うの、ちょっと想像つかないし。


「となれば、騎士か格闘系、傭兵か。盗賊なんかはちょっと野蛮な感じだよな。犯罪っぽさあるのは現実で街守る不良だった身としては、避けたい」


そうして思考を進めていき、ようやく歯車が噛み合った。


「俺は傭兵だ」


『傭兵でございましたか。では、ブレイド様。次にお姿をお見せください』 


騎士をやめたのはお偉い感じが俺らしくないから、あと鎧が重そうだから。格闘系は装備できる武器が限定される感じだったからだ。軽装でどんな手段を使ってでも勝利を求める傭兵、それが俺らしい。


「現実そのままはさすがにオンラインゲームでは危ないし、派手なのもやだな」


初期のお金は1,000ルアン。まず手始めに武器を安いナイフ二本買って、残り600ルアン。


次の髪型だが、長髪は戦闘に邪魔なイメージがあるため日常と変わらない短髪でいこう。しかし現実そっくりにしないべく、目の色ははっきりとしたワインレッドで。


「身長は……このままでいいか」


初期設定は現実世界と連動した姿のため、日本人にしては高い身長となる。


その他諸々、服装を適当に購入し残り200ルアン、肌の色はそのままに。


「残った金でなんかするかな」


どうせ始まりのクエストみたいなのやれば1,000ルアンくらい手に入るだろうし、アクセサリーの類を眺めてみる。結果、200ルアンという低価格の物を購入して装備したのだが……。


「むう」


傭兵らしい黒を基調とした、身体のラインもとい現実そのままの筋肉のラインをうっすらと見せる服にそれは異様な存在感を放って見せた。買ってから言うのもなんだが、やめればよかったかな。少なくとも俺が装備すべき物ではない気がしてきた。


何しろ買ったのは、左耳にのみつける銀色のリング型のピアス。そして今ならお得!と言わんばかりにオマケで付いて来たのは、顔に装備するアイテムなのだが、それが問題だ。ピアスは幸運が3アップする安物なのに対し、顔面装備のそれは防御力10アップという初心者には嬉しいアイテムなのだが。


「にしてもなあ……ちょっと……」


後悔の溜め息ばかりが漏れる。NPCはそれを慰めるでもなく、何の声も漏らしてはくれない。ま、突如AI搭載した命なき声の主に『面白い姿ですね』とか言われても困るんだが。


「サングラスって……怪しい人じゃんか」


傭兵職、黒い服、ピアスがチャラくて、サングラス。うん、現実なら間違いなく職質直行案件だな。ゲームで何よりだぜ。


「かといってセットで購入のアイテムだから、二つで一つなのがきついな。どっちかだけ外すってのが出来ないもんなあ。仕方ない、金貯めて別の買うまでは防御力の為と思おう」


終わったぞ、というと『頼もしいお姿ですね』と返される。怪しい姿の間違いじゃないのか。


『それでは、ブレイド様。我らが主が直々に世界の現状を紹介したいとのことですので、わたくしは失礼いたします』


すると次の瞬間、世界が暗転した。白き世界が闇に覆われていき、次に眼前に映像が現れる。どうやらストーリーを紹介してくれるらしい。それも分かりやすい映像付きで。神ゲーはこういった点にもプレイヤーへの配慮があるのか。有難い。


『遠い遠い、遥か彼方、神代の世には一人の王がいた。不老不死であったかの王は、この世全ての生き物を統治する良き独裁者であった』


古めかしい、歴史の授業で学んだようなエジプトやローマを彷彿とさせる石造りの建物が映る。最奥に見えるのは宮殿、というよりは神殿か?ともかくそこに誰かが立っていて、ソイツは長い階段の先に見える民の暮らしを眺めていた。


『しかし、突如世界は終わりを迎えてしまった。混沌の世は不老不死であるはずの王を苦しめ、やがてすべては破綻した。王は死んだと何処からか漏れ、戸惑う民。そこにまた一つの災いが。何処から来たのか分からない獣たちが全てを食い荒らし、以来、千年の時をこの星は獣と沈黙と共に過ごしてきたのだ』


笑っていた民たちが突如現れた獣によって襲われ、食い散らかされていく。そうして生命は死に耐え、悲しい物語となっていく。


しかし、またしても映像が反転。今度は我々プレイヤー、いや、開拓者が遠い星々の海を渡ってこの星に辿り着いた。


『されど悲劇の星はもう終わり。

長き旅の中で人類が、開拓者が我が星を見つけてくれた。それでもこの星は、未だ悪に満ちている。上陸した開拓者は、その瞬間に宇宙船が壊れ帰路を失ってしまった』


映像が終わりを迎えたのだろうか。光がこちらを照らしている。


『さあ、勇敢なる開拓者よ。

この星を救って。

我らが王の願いを叶えて。

さあ、親愛なる勇者よ。

どうか、真実を見抜いて。

数多いる開拓者、その中にいる一人の勇者。

それが誰かを、私は知っているから』


意味ありげな台詞でプロローグが終わりを迎える。優し気で賢そうな声の主の気配もなくなった。


「さあて、始まるかな」


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