12話.優秀な仲間がいるからだ
半人熱魚が落としたアイテムは、人魚鱗、魚の頭、人魚の瞳、マグマ岩。
「人魚、だったのか」
リル曰く、人魚になりたがった者の成れの果てのようなものだそう。脚に鱗が欲しかったのに、頭がリアルな魚化したわけか。かわいそうに。多分、人のままでいた方が幸福だったぞ。
「頭を攻撃する方法もあるんだろうけど、今回はナイフがあんま強くないから足を狙ったもんな。それで頭が丸まる取れたってわけか」
MPが減るという理由から、プレイヤーのいないときはリルは常に狼の姿を取るらしい。俺としても、いざ戦闘となった時に魔法に割くMPが残されていないのは困るからそれに賛成だ。
「そういや、リルってレベルいくつなんだ?」
独学で魔法を使うくらいだし、街ではずっと狼の姿を取っていた。それほどのMPがあるわけだ。武器も鳳凰の短剣とかいう高価そうな物だし、それなりに強いんだろう。
そう思って軽い気持ちで聞いたのだが……。
「35だな」
軽い気持ちで返される。
う、俺より圧倒的に強い。二倍は強い。なんか、ちょっと悔しい。リル一人でこのエリアクリアできるんじゃないのか……?だって、第一の街から二番目へ行く、簡単なエリアなんだし……。
「どうかしたか?」
「いや……なんでもないよ。ただ、ちょっと頑張ろうと思って」
「そうか」
うん、そうなんだ。ヌルゲーにはしたくないし、リルに頼るのは魔法くらいにしといて、基本的な攻撃は自分でやろう。一人のプレイヤーとして、ズルみたいな真似はちょっと、したくない。あと戦いたい。やっぱ自分で倒したっていう実績が嬉しいんだよな。もちろん、仲間と倒したっていうのも嬉しいんだけどさ。
「そういや、リルは二番目の街、ええと……セカンセメタリ―、だっけ?に行ったことあるのか?」
「ないな。あたしはずっとあの森にいたから。街が今のように完成したのは、開拓者が来てからのことだから……」
「そっか。じゃ、楽しみだな」
にしても、セカンの部分は二番目っていうのを文字ったんだろうけど、セメタリーってのは気になるな。セメタリ―って確か、墓地、だよな。暗い街なのかな……。
この世界って、どういう世界観なんだろう。一見すると滅びた世界、滅びた文明。そんな土地から帰れない者たちが開拓者として生きて行くって感じだけど、モンスターは次々と湧いて来るし、近衛獣とかいうのがいるし。ファンタジーとSFの狭間なのかな。ホームページとか読めば情報あるか?
「あ、敵だ」
まあいいや、ログアウトしたらまた色々調べてみるとして、今は目の前の敵、目の前のクエスト、さっさとあの武器を手に入れたい、だ!!
名前は……灼熱魚介、か。やっぱここはマグマと魚の融合種が多いんだな。何やら炎を纏って宙を泳ぐマグロといった見た目をしている。ドロップアイテムに魚肉とかあるんかな。回復アイテムのノリで。でも、モンスター食うのってなんかなあ、テンション乗らないよなあ。
二体の灼熱魚介を相手取り、俺は駆け出した。
「リル、後方支援任せた!」
少なくともリルと同等のレベルまでは上げる必要がある。ラストアタックも、そこに辿り着くまでのアタックも、可能な限り自分でやって経験値稼がないとだ。
両手に握った傀儡の双刃を構え、短距離走でもするかの如く、最初から全速力で駆け寄る。オヤジ、このナイフ最高に使いやすいぞ!!耐久値があとどれくらいかは分からないけど、始まりの街にあるにしてはそれなりの額のナイフだ。ヤワじゃないはず。
「双翼の舞踏会!!」
Lv.2のスキル。成長すれば、別の何かに変化したり、とかあるのかな。結構使えるスキルだし、さっき半人熱魚を倒した時と同様、たいていのモンスターに効果的だ。一本につき、一回、確実な刺突攻撃。ナイフじゃなくても、レイピアとかでもできるんだろうな。
思えば、この世界ってどんな武器があるんだろう。最初の職選びの感じからして結構な種類ありそうだけど、剣と弓を始めとして、銃、ナイフ、ハンマーもあるかな、あとは鎌の類とか……神ゲーは奥が深いぜまったく!
んおえええ、とひっじょうにキモイ悲鳴を上げた灼熱魚介。口からどろっとした火の玉を飛ばしてくるが、それは半人熱魚で経験済みだこの野郎!お前はそれの下位互換ってか。確かにサイズも半人熱魚に一回り小さいくらいで、面倒な点といえば恐らく常に二体で行動しているところか。レベルが10以下であれば手間取ったかもしれねえなあ。てか俺がしょっぱなから良いナイフ持っているのかいけないのか。オヤジさんのご厚意だからな。
「鉄刃の乱れ咲!!」
スキル発動。半径十五メートル以内の敵に対する攻撃が、十秒間強さとスピードが上がるというものだ。無論、十秒間といっても適用回数に制限はある。それはDEXの高さに比例するそうだ。今の俺なら、五回ってところか。しかしすでに双翼の舞踏会を当てた敵には充分すぎる。
二体ともHPは残り二割。いける、五回以内で決められる!!
「やあ!」
さすがの俺も無傷ではないが、HPがゼロにならない限り死なないと分かっている、もっと言えばいつ死ぬのかが可視化されているこの世界で、俺が傷を受けてびびることはない。
こちとら不良だったんだ、本物の死だって覚悟してきた日々だったんだよ!!
「致命傷以外に興味はねえの!!」
さきほどの半人熱魚の経験を踏まえ、鱗そのものではなく鱗と鱗の隙間を狙う一撃。一回、二回、三回、一体倒して、別のに四回目、五回目。
「よっしゃ、五回で二体撃破!!」
ポリゴンになって散っていく魚ども。ドロップアイテムは……なになに、雌の魚鱗、雄の魚鱗。なるほど、二体で行動するのは夫婦だからか。そりゃ、一緒に逝けて良かったなとしか言えねえな。へえ、この魚鱗、アクセサリー作るアイテムになるのか。そりゃいいな。
「あたしの出番はなかったな」
四本足で歩きながら近づいてくるリルが、少しだけ不満そうに言った。凄いな、神ゲーのAIはNPCの表情一つひとつに感情を表現させるのか。
「何言ってんだ、俺がこのレベルで前衛張れるのは、後衛に圧倒的な信頼があるからだぞ」
あらゆるゲームで培った知識、その一つ、NPCとは仲良くすべし。時には騎士となり、傭兵となり、暗殺者となり。世界観にあったキャラクターになり切って対応するのが我らプレイヤーだ。
そして俺は、案外それを気に入っていた。人によってはゲーム内でNPCという命なき彼らの機嫌を取るのが面倒だと思うかもしれないが、全く違う世界で、全く違う誰かになれるというのは貴重な経験であり、不思議な感覚だ。マジで面倒な、自分と相性の悪いシステムなら、そのゲームをやめればいいのだし。
「……そうか。それは、良かった」
そっけいない言葉と態度だが、まんざらでもないのが伝わる。微笑ましい狼の姿に思わず笑みを零しかけた。が、零さなかったのは、ソレを見つけたからだろう。
いつの間にか結構進んできていたらしく、あるいは真っすぐ寄り道無しで目的地へ来ていたのがタイムロスしないことに繋がったのか。
すぐそばに、洞窟があった。エリアボスのいる場所の隣、不自然に岩で隠されているが、俺とリルには見える。ここだ。この先が、ウェポンクエスト吸血と海月の目的地。
「今行くぞ、海月野郎」
灼熱魚介:ブレイドはほぼ同時に二体撃破したのでいいですが、もしどっちかだけを先に倒すという形になると、残された一体が夫or妻の死を嘆いて猛暴れ、レベルが二倍になって襲い掛かって来るという最悪状態に陥ります。半人熱魚の下位互換と見せかけて、その真意は上位互換。その場合、憎しみの瞳、嘆きの鱗というドロップアイテムが取れ、これは武器や防具の素材になります。




