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9話.二度目のログイン

適当に飯を食って、はてさて、次はどうするか。


学校の課題はない。まだ入学して少しだ。最初のテストが終わったタイミングである。


つまりは暇。俺のやること無しである。


とは言っても、再度ログインするにはもう少し休んでおきたい。フルダイブ型のゲームというのは体力が重要だ。ずっとログインし続けて重度の廃ゲーマーとなり、病院に緊急で運ばれていった事件も少なくない。毎日、ネットではその手の話題で持ちきりだ。ゲームは子供にとって悪影響か否か、と。


ま、俺としてはどっちだっていいんだが。


「俺にとってゲームは……」


ゲームを始めてすぐの頃、昨年の冬を思い出す。不良をやめて死人のように廃れた顔をしていた俺に、美里さんが声をかけてくれたのだったか。かつて自分が命を助けた相手に今度は救いの手を差し出されるという、不思議な運命。


偶然にもゲーム屋だと言うもんだから、「ゲームで気を紛らわせればいい」などと誘う彼女の言葉に乗ったのだ。


最初は何度無視しても声をかけてくる彼女の根気に負けて少し相手するだけのつもりだったのだが、気がついたらハマってしまっていた。戦いに負けると言うのは初めての経験で、悔しかったから俺はムキになってゲームを続けてしまったのだ。


「俺にとってゲームは……現実(リアル)からの逃げ場、だな」


自重気味に呟き、冷蔵庫からプロテインを取る。ちゃんとコップに注いでからごくごくと飲んだ。やはり、プロテインはココアなどの味がついたものではなく、純粋なプロテインが美味い。もちろんこれは個人の意見である。


そうしながらも片手にはスマホだ。


全く文明の力とは便利なもので、流行りのゲーム、それも世界中で流行っているシアクラのことならば調べれば大抵出てくる。エネミーの名前、弱点、ドロップアイテム。他には現時点での攻略されている場所の簡単な内容や地名。街の様子。


そんな中俺が調べた内容については言うまでもない。リルのことだ。


「リル、リル……元は人間だっけか。そういや神代の奴らは全員死んだんだっけか? リルは呪いかなんかで獣になったから生き残った、ってことなのか?」


考察を進みてみるも、やはり新人の俺には分からない。世界観もある程度分かったが、細かい点は第二の街くらいにまで行ってみないと掴めないだろう。まだちゃんとしたエリア攻略が出来ていないのだから。エリアボスにも出会っていない。


「出てこない、か」


スマホの画面をスクロールしていくも、リルや狼に関する情報は何もない。代わりに、あのエリア、原初の大地について調べてみれば、関連する内容がいくつか見られた。


『カイン:原初の大地って、端の方行くと大量にエネミー出てくるよな』


『エレン:それな。最初の頃迷子になって行ったから最悪だったわ』


『深淵の目:それってレベルが高けりゃいける? ファースアリア前でしょ?』


『カイン:いや、それが多分、プレイヤーのレベルに合わせてエネミーが選ばれてるから無理だ。よほどプレイヤースキルがあれば別だけど、倒せたって奴知らないよ』


『深淵の目:残念だよ』


確かに、俺はレベルが低いだけでなく回復アイテムがなかったし、スキルも熟練でないかつ魔法を一つも知らない。オマケに装備は初期の物だった。あれは通常であれば勝てない戦なのだろう。


「喧嘩強くて感謝、か」


その喧嘩が弱ければこんな人生なってないんだがという自虐ネタは永遠に世界の片隅に置いといて。


今は他にも、そう、例えば近衛獣とやらについて調べるとしようか。


これについては検索すると公式ページにて引っかかった。


『近衛獣。

それは神代において最強を誇った王の護衛たち。近衛兵であった彼らはどういうわけか、現代においてもそこに居る。王を守らねばならぬ。そのことだけを、胸に抱いて。』


公式ページの単語集やらエネミー紹介やらが載ったその場所の一番上に堂々とそう書かれていた。


「最強、か……誰も倒せてないとかリルが言ってたな」


ちなみに現在発見されているのは二人。


三番目の街サーレインから四番の街フォーラディーバに向かう際のエリア落雷のストックに出没するという。

その名は灼熱心臓のコゼット。由来はその名の通り、心臓部分が赤く燃えているからだそうだ。


そしてもう一人が、恐らく条件さえ揃えば何処にでも出没すると言われているらしい。

神出鬼没の近衛獣、その名は明滅騎士イグナイト。大ぶりの刀が織りなす攻撃を避けきれず、プレイヤーは一撃で死亡するんだとか。


他三体は未だ不明だ。


リルはそんな、誰もが倒せない敵に挑み、かつ、五体全て倒せと俺に言っている。改めてその不可能さが理解できた。


「全く、プレイ早々変なイベントに捕まったもんだな」


そう言いながらも俺の口角はニヤけることをやめない。仕方ないだろ、楽しいんだから。


だって誰も知らないイベントだぜ?

ゲームバランス的に考えると一人しか受注できないイベントとは考えにくい。リルのように、他にも獣元人間がいるかも。他の誰かがこの手のイベントに気がつく前に進めてしまいたい。


「そうと決まるとやっぱ早くログインしたいな……買い物済ませてくるか」


◇◇◇


一時間後。

洗濯を干して買い物に出かけ帰ってきた俺は意気揚々とベッドにダイブし、機械を装着。


『おかえりなさいませ、開拓者様』


NPCの声と共に視界が晴れていく。

再び、俺はアムネシア・クラウンの世界で目を覚ました。


「ブレイド殿! ブレイド殿ぉぉおおお!」


体を起こすと、何故だか側でリルが大騒ぎだ。起床早々騒がしいな。


「なんだ……?」


寝ぼけているわけではないが、開いたばかりの眼では状況がうまく把握できない。とりあえずリルに尋ねた。


見た感じ室内が荒れているわけではないし、なんらかのゲーム内メールがあったわけでもない。ウィンドウも開いていない。


一体何なのだろうか。


「あたし、暇で少々遊んでいたのだが……!」


冒険で興奮した小学生みたいなキラキラした瞳、とはいっても狼だが。とにかくワクワクした表情でリルが言う。


リルってもっとこう、冷静沈着みたいな奴かと思っていたのだが、たった数時間で色々な表情を見せてくれているように感じる。


「布団に飛び乗った拍子にブレイド殿のサングラスが少し外れてしまってだな……」


暴れていたことに申し訳なさを感じたのか、やや表情に落ち着きを戻す。


しかしすぐに気を取り直し、キラキラとした目で告げる。


「ブレイド殿には、目が、目がきちんとあるのだな!」


……は? …………ん? へ?


間抜けな声が心の中で漏れた。いや、そりゃ、目はありますけど。


サングラスはリルによって、今は元の状況に戻っていたが、俺のログアウト中にリルは閉じられた目を見たんだろう。


「何か深い理由があってのサングラスかと……あれだけ強いのだし、てっきり目に古傷があるかと思っていた……瞼を少し開けたが、綺麗な瞳だった……」


「瞼を、あけた……?」


「あ、ちゃんと人の姿になってからやったから、傷はつけてないぞ! 左目をちょこおっとだな」


しょぼんとした申し訳なさそうな顔で、リルが早口で弁明する。


わざわざ変身したのか。

それほどの好奇心をNPCに取り入れたゲーム会社には関心だ。同時に、これがリルだからいいものの、他のNPCだともっと違うことをするのではないかという恐怖がなくもない。


しかしまあ、通常NPCと行動することなんてないしな。神ゲーだから道徳はちゃんとしているだろう。


リルが人の姿になってから俺を触った点に関しても、やはり凄い。狼のままだとその鋭い爪で俺のHP削られそうだ。


「別に、サングラスに深い理由はないよ」


そう言って俺は怒ったりしていないことを示そうとリルの頭を撫でてやった。


……あ、そういやリルって女性だった。

普通に触っちまったけど、嫌がられてないかな。年齢的には年上だよな。


NPC相手といえど、人間の際の綺麗な女性の姿を見てしまった後だからかなんだか普通に人として捉えてしまう。


そう思ったが杞憂だったようで、イヌ科の本能なのか撫でられたリルは嬉しそうに尻尾を揺らしていたのだった。


……リアルで犬飼うのも、いいかもしれない。

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