暴走
パチ、パチと音が響く。
見下ろすように様子を見る6人ほどの者たちの様子は、多種多様だった。
公女の父たるメンケントは、娘を心配したい気持ちと家の没落への恐怖、ひいては己の進退や雇用している者たちへの将来に対する責任への板挟みに遭っている。娘を放任した手前部下たちへの責任を取る道は筋が通らず、最初から責任を重視するなら娘の夢はさっさと絶つべきだった。そんな当たり前が理解できぬほどメンケントは阿呆ではなく、ゆえに己への無力感として苦しめられている。
王太子はただ、エルフィールの敗北を願っていた。あの時袖にされたことを根に持っているから、国王と父親の面前で大見栄を張った女が大した能力もない愚物であることを望んでいた。
近衛二人、愛妾、そしてゲリュンは動きがとれない。近衛は職務だからさておき、愛妾は雰囲気にのまれていたし、ゲリュンは己の分を弁えていた。
そして国王は、あまりにも目まぐるしく動き回る盤面を、面白そうに眺めていた。
「千日手、にて候。」
「だな。次に移ろうか。」
盤面を見て、これ以上はどうしようもないと考えた二人が再び駒を並べ直す。その言葉に軽く目を見開いたのが国王だ。……少なくとも、公女は元帥と将棋をして、初戦で千日手まで持ち込めるほどの知能があることになる。
その間、約30分。一手打つまでに考える時間が30秒しか与えられていないとは思えぬ思考の回転速度である。しかも、二人は実質30秒も手を迷わせることがほとんどない。
再び、約30分。
「この盤面は、もう3度目也。」
「ええ。もう一局やりますか?」
あまりにやることがなく退屈で居眠りしかけていた王太子が、その言葉に信じられずに目を醒ます。同じ盤面が3度出た、つまり一度戦った盤面を全て覚えていると謳ったに等しいこの言葉は、記憶力の乏しいアダットには理解できない。
「……化け物どもが。」
ゲリュンが吐き捨て、メンケントが眉を顰め、アグーリオが爆笑しつつ駒を並べ直す二人を促した。同時に、何か木片にすらすらと言葉を書き連ね、外にいる兵士に投げ渡す。
鬼気迫る雰囲気で、3度目の対局が始まった。
せめて優劣はつけんとばかりに果敢に攻め立てるエルフィールと、隙あらば勝利を狙わんと柔軟に駒を動かすクシュル。
この光景を、国王は懐かしいような面持ちで見ていた。かつて、この元帥が同じように真剣に、棋盤の上で戦った姿が回想される。
今回は、長かった。
一手一手を10秒足らずで打ち合っていた前2局と異なり、二人とも一手一手に熟考が入る。30秒ギリギリまで考えることも、15秒前後で一手打つこともあった。
見ている者たちにわかるのは、元帥・公女共に全霊で戦っていること。そして、それだけ伯仲した実力であることだけ。
だが、前2局で1時間あまりかけ、今もまた1時間経った時間は、あまりに長かった。二人も、互いの優劣をつけるのは盤上だけでは難しいと思い始めていた矢先のことではあった。
「もう日も暮れる。止めよ、二人とも。」
国王が声をかける。その言葉に、公女と元帥は互いに集中を解いた。
「エルフィールよ、そなたが軍学に秀で、我が国最高の将と遊戯とはいえ相争えるのはよくわかった。……ゆえにこそ、私兵を用いることを許すわけにはいかんな。」
国への反乱が出来ても、国最高の名将と戦う能力があるという意味ではないか。そう紡がれる言葉に、エルフィールは愕然と目を開く。
ほどほどに戦った上で負ければよかったのだ。全力を出した上で、国一番の名将に負けたとあればそこまで恥ではない。身の程知らずにも男の領分に手を出した哀れな女という、ただただ無様な称号がついてきただけ。
男勝りにも鎧甲冑に身を包み、武器を手にして勇ましく勝てない戦場に躍り出てきた哀れな小娘を嗤いつつ、私兵を動かす許可が下りただろうと国王は告げる。
見下され、その軍隊に所属することが恥となるような私兵にすすんでなるような男たちはいないだろう。なったとして、どこに転戦しようと好奇と侮蔑の目で見られることは避けられず、そんな屈辱の視線に耐えられない兵からその軍を去って行くだろうが、しかし私兵運用の許可は得られただろう。
エルフィール自身の、「私兵を自力で勝手に動かす」という望みは、身の丈に合わぬ我儘を押し通した傲慢娘の暴走という見られ方ではあるが叶っただろうと国王は告げる。
「ふざけるな、それのどこが望みは叶うだ、俺は世界から盗賊を失くし、国民たちにとって死が救いにならぬような世を作りたいんだ!」
「その望みはなるひおど、高潔で美しい。しかしエルフィールよ、それを望み、叶えようとしていいのは、権力を持つ男のみ。女は大人しく家を守り、次代に人類を繋げていくという種族規模の大役があろう?」
「それをおろそかにする気はない!だが!次代に命を繋ぐことがバカバカしくなるような世の中で、何が家を守るだ!いつ家が滅びるかもわからぬ世で、誰が家を守るんだ!その価値がある世になってからの話だろうが!」
は、と国王が笑う。今回は、侮蔑の彩はなかった。ただ、事実を突きつけられたことに伴う笑み。
……なぜだろう、公女はその笑みの中に、諦念と無力感が混じっているように見える。
「事実だ。しかし公女よ。それでも余は、貴様にその権限を与えられぬ。どうしてもというなら、家を貶める覚悟をもって一人でせよ。」
「やめろ、エルフィール!エドラ=ケンタウロス公爵家は、お前の勝手に対する許可は出さぬ!」
元帥に盤上遊戯で勝敗がつかぬ戦を行うということは、少なくとも仮定の上では実戦でも同等に戦えるという意味だった。もちろん、環境や兵数の差次第でいくらでも勝敗は異なるし、ペガシャール王国のほとんど全ての軍権を有する元帥相手では環境面で必ずエルフィールが不利になる。
それでも、少なくとも対等の環境下では公女が元帥に伍するなど……国の頂点にある国王にとって、脅威以外の何物でもない。当然、私兵の自由使用など許容できるはずもなく。
ゆえに、勝手に動かすなら家ごとまとめて取り潰しになるくらいの覚悟はしろと露骨にほのめかす。家を形作る全てに責任を持つ父メンケントは、それを許容できぬゆえに公女を止める。
公女がエドラ=ケンタウロス公爵家でなければ。『王像の王』継承権を持たぬ家のものであれば、国王は恐らく、苦虫をかみつぶしたような顔をしながらエルフィの私兵運用を許容しただろう。
公女が公女でなく公子であれば。女ではなく男であれば、最悪自領内に限れば軍の運用に目を瞑ってもらえる目もあっただろう。あるいは、元帥直々に王国軍の将として引き抜きをする可能性もあった。それだけの頭脳、軍才を活かさぬというのも、大人として、責任持つものとしての恥と考えられる部分はあった。
公女が天才でなければ。元帥と盤上遊戯で相対出来るほどの才覚がなければ、父メンケントも師ギュシアールも、エルフィールがここまでの暴走に走る前に止めた。いや、その前にエルフィール自身が、己の能力と夢との乖離に阻まれて立ち止まれた。
公女に人脈がなければ。ギュシアールの教えを受けず、あらゆる次代の男たちからの見合いという名の交流を持たず、自家の私属貴族たちからも疎まれるような者であれば。パーシウスから、最後の希望を聞かされなければ。彼女は、己の能力と環境の落差を乗り越える可能性を見出さず、膝を屈しただろう。
出自、性別、才能。その全てが、エルフィールの人間性と夢を、それが出来るだけの能力と人脈を作りあげ……得たそれらすべてが、エルフィールの夢にとって足枷として立ちはだかる。
「なら、俺は今日から、エドラ=ケンタウロス公爵家の人間ではない。エルフィール、ただの、エルフィールだ。」
ゆえに。公女は、一番重く、一番価値があり……彼女の地位を、『高嶺の花』という存在感を、彼女の人生を形作った一番重たいものを脱ぎ捨てようとする。
「やめ、」
「取り押さえろ!」
メンケントの血の気が引く。その宣言を行った瞬間、形式上はエルフィールはエドラ=ケンタウロス公爵家の者ではなくなった。公女はただの乙女に成り下がった。……つまり、王の執務室に全武装状態で佇む身分無しのただの女と成り果てた。
王が、メンケントやエドラ=ケンタウロス公爵家に、何の配慮もする必要がなくなる。ただの小娘相手に、遠慮などする必要はない。
兵たちが、縄を両手に殺到する。事前に木札を用いて呼び寄せていた兵士たちが、10人20人と、エルフィール目掛けて押し寄せて。
「聞いていなかったのか、国王。理解していなかったのか。していなかったのだろうな。」
兵士が何人か、宙を舞った。鈍い音が何度かして、何人もの兵士がその場に頽れた。
「一族郎党皆殺しになる前に、お前が死ぬ。その言葉は……俺を阻めるような武人はいないと、そう言っているに等しいんだぞ。」
時間にして、30秒。20人余りの兵士が、悉く倒れ伏す光景を見て、その場にいた全員が息を呑んだ。メンケントですら、今のエルフィールの武威を知らなかったのか、あまりの早業に瞠目する。
「エル、フィール!」
直後、執務室の前に立った人影。何人かいるが、その多くは年若い男。エルフィールと見合いをしたことのある、若き次代の貴族当主たち。そして、腕に覚えのある、護衛達。
咄嗟にそちらに向かって乙女が槍を向ける。同時に、赤い瞳の青年が剣を抜いて斬りかかる。
打ち合わされたのはわずか5合。勢いに逸り、冷静さを欠いた状態で5合も渡り合えた事を褒めるべきだろう技量を持つ男の名は、レッド。レッド=エドラ=ラビット=ペガサシア。
どう、ともんどりうって床上に倒れ伏した青年は、意識を完全に失っている。
「次は、誰だ?」
「……。」
青年たちが黙りこくる。今の一幕で、全員が悟った。自分たちでは、エルフィールと渡り合うことは到底出来ないと。元帥は、その黙りこくる青年たちの中に己の息子がいるのを見て、その鋼の瞳を大きく揺らす。
元帥の息子が、類まれなる武芸を持ちあわせているのは元帥も知っている。その男が、エルフィール、自分よりも数年年若い乙女を相手に、武芸で叶わぬと尻込みする。
事ここにいたって、国王も相手にしている者が何か、嫌というほどに理解した。
エルフィールという女は、女性の社交界において『高嶺の花』と呼ばれるほどの女性である。それだけ、女性としての教養、所作、そして美貌を磨き上げたという証拠である。
アルアサイアという片田舎が、エルフィールの手が入った後に収穫量を増大させたことは知っている。アルアサイアにある彼女の私兵が、実はそれなりに精強であることを、少なくともエドラ=ケンタウロス公爵領の盗賊どもを一掃できる程度には練度が高いことも知っている。
その上で、現状である。元帥と智で渡り合い、多くの若者を勝てぬと尻込みさせるだけの武芸。
全く。ノーマークだった。これ程の傑物が国に生まれ落ちていたことに、国王は本人が直談判してくるまで気が付かなかった。
「メンケント。」
「は。」
「そなたの情報統制の技量を、軽んじていた。謝罪しよう。これ程の傑物を隠し通し、その地位につくとは。」
『宰相』になる前にエルフィールの存在が発覚していれば、メンケントは宰相の地位につくことは叶わなかった。そういう意味の皮肉であり、同時にこの「貴族の女として落第」といえる者を隠し通して宰相の地位に就いた事への惜しみない賞賛である。メンケントは、何とも言えない顔で押し黙った。
「とはいえ、国王の面前でこれほど武をちらつかせておいてただで帰れるとは思っておるまい、エルフィール?」
「ならどうする、アレを俺にけしかけるか?結果は目に見えていると思うが。」
後方で脚が竦んで動けなくなっている青年たちを見る。恐怖ではなく動かないだけのものもいるが、どちらにせよ時間稼ぎにもならないから手を出せない、と考えている者は多い。
「まさか。そのための手駒はちゃんとあるさ。やれ、ビリュード。」
「……。」
近衛の一人に、王が声をかける。だが、その近衛もまた、動かなかった。
「……ビリュード?」
「承知。」
覚悟を決めたように、近衛の男が槍を振るう。エルフィールも出方を窺うように二度、三度渡り合った。
「……なるほど。」
「こりゃ、やべぇ。」
打ち合うこと、10合。互いに距離を離して睨みあう。後方の青年たちに意識を割かねばならない乙女と異なり、近衛の男は全神経を乙女に集中させているにもかかわらず……互いの実力は伯仲していた。
その場にいた全員が、何度目かもわからぬ驚愕に顔を染める。ギュシアールを除けば、国で最強と目されている男だった。その男を相手して、渡り合えているという事実がおかしかった。
だが、それも次の激突で認識が改まる。その近衛よりも乙女の方が、明らかに優勢になっている。再び20合打ち合って離れた時、近衛の男は苦々し気な表情をしていた。
「どうなってやがる。あれほどの頭の良さを魅せつけておきながら、俺より強いとか、なんだよ。なんなんだよ、本当にこれ女かよ。」
「……こりゃ、倒すのには骨が折れるな。やってやれないことはないが、ほんの拍子で殺されかねない。」
互いが互いに武人としての技量を認めた。近衛の方は己より格上の相手として、乙女の方は己を殺しうる傑物として。
三度目の激突はなかった。国王が手を挙げて、止めた。
「もう、よい。わかった。エルフィールよ、そなたに私兵の自由行使の権限を与える。ただし、その総数は500まで。それ以上増やすことは断じて許さぬ。」
「……いいだろう、呑んでやる。」
どっちが格上かわからない会話だった。立場的には国王が上のはずなのに、この場ではエルフィールが上位者のように振る舞っていた。
実際、エルフィールは国王を殺す力があることを示して見せ……国王もそれを認めてしまった。認めてしまえば、エルフィールの要請は要請ではなく脅迫である。受け入れるしかないのは事実だった。
許可と、それを証明する王直々の直筆命令書を受け取る。内容は言った通り、エルフィールの私兵自由行使の権限を認めること、その範囲は国内全土であること。
エルフィール、17歳も終わりを迎える夏の頃。エルフィールは、国内で唯一、自由に国中を駆けまわる軍隊となった。
メンケントは呻いていた。
エルフィールが王都に殴り込みをかけてくることを恐れ、国王はエドラ=ケンタウロス公爵家への直接的な制裁を何もしなかった。
元来、女としてあり得ざる武技と戦略眼を持つ娘を育て上げたメンケントは、貴族の家長としての心得を疎かにしているとして爵位を剥奪されても文句は言えない立場である。むしろ、自分から願い出なければならぬほど、家として醜態を晒した一族として、向こう三代は日の下を歩けぬほどの醜態をエルフィールは見せた。
それなのに、爵位返上降爵処分どころか、宰相の地位すら下ろされていない。
何も不思議な話ではなかった。国王は、エルフィールが再び襲撃してくることを恐れているのである。
もちろん、エルフィールはそんなことをするほど暇な女ではない。父が宰相から落ちれば脅迫文の一つ二つは余越すかもしれないが、彼女は国内で自由に私兵を動かす権利という実を得た。家が没落するほどの大事になればさておき、降格程度なら無視する気でいた。
……この点、エルフィールは社会というものを誤認している。少なくとも男社会において、降格処分されるような明瞭な失態は袋叩きの対象だ。
一度降格処分を食らった時点で、それは虐めて見下して骨までしゃぶりつくしていい餌でしかない。公爵から伯爵位まで降格すれば、おそらく他公爵家を始めとして子爵家……いや、力があるところなら男爵家ですら、『元公爵家』を格下だとみなして動き始める。そこまでしないだろう、と甘いことを考えている時点で、エルフィールは所詮学も力も能力もあるが女でしかなかった。
同時に、それほど明瞭な失態があれど、目に見える処分が何も降っていない、というのが逆にメンケント……エドラ=ケンタウロス公爵家の立場を不安定にしていた。
袋叩きにあうなら、徹底的に抗戦するつもりでいた。エルフィールが武に傾倒し始めた時点で、メンケントは相当量の準備を整えていたのである。国内貴族全てがエドラ=ケンタウロス公爵家を餌にしてなお、10年は権力はさておき領内財政面で目に見える下落が起きないよう、徹底的に準備をしていた。
しかし、実際は違った。降格はなく、宰相位も残されている。権限は有名無実に近い形になったし、為政の指示を聞く貴族は一人残らずいなくなったが、しかし地位と給金だけは宰相のまま。また、王宮内の移動、施設等の利用権限も、宰相の名において行使できる最大量が残ったままであった。
これによって、誰もが気づく。
国王は、エドラ=ケンタウロス公爵家に大きな変化を与えたくはないと。大きな変化を与えることで、エルフィールの怒りを買うことを恐れている、と。
誰もがその姿勢を嘲笑う。女一人に何が出来るのかと声高に叫び、罵り、嘲る。国王の腰抜け具合を、誰もかれもが笑い飛ばした。
それでも、誰一人としてエドラ=ケンタウロス公爵家にちょっかいをかける者はいなかった。どころか、各家が私兵の数を増員させ、武芸の鍛錬を積ませ始めた。
何かあったとき、瞬きするようなわずかな間でもエルフィールを足止めする、そんな希望に縋るようにである。
“最優の王族”。エルフィールは、そう呼ばれるようになった。
私兵を用いて盗賊どもの拠点を少しずつ潰し、その者たちを彼らの出身領土へ連れ帰り、廃村等に押し込める。開墾のやり方を一人一人丁寧に教え、自力で食糧を作るよう根気強く説得し、農夫へと帰化させる。
圧倒的に優れた驍勇。基礎に基づき、時に奇抜に行われる用兵の妙。公爵家を出る必要もなく、降格処分がないのであれば落第の令嬢を育てたとはいえ公爵家。ましてや冠する名は『エドラ』……『王像の王』に選ばれる資格を持つ家。
王太子アダットなど言うに及ばず、レッドをその武力で気絶せしめた。あらゆる全ての能力を高水準で持つ天才公女。
優れている、という賞賛では決してない。出る杭を打つどころか原型を残さぬように叩き潰すのが貴族社会、男社会だ。そこにでしゃばるエルフィールに与えられる綽名が、賞賛であるはずがない。讃えられる要素などどこにもない。
あるいは、これがレッド相手であれば。王族の男を相手にした綽名であれば、“最優の王族”というのはその存在を讃える惜しみのない賞賛であった。
しかし、女であるエルフィールに与えられる、“最優の王族”という綽名は……疑う余地のない蔑称である。
だが、彼女は社会的な妨害など無視して突き進んだ。浴びせられる軽蔑の視線に耐えられなくなった兵たちを農夫に帰化させ、付いてくるものたちだけを500人、連れ歩いて。
気づけば、19歳になるまでの一年の間で、エルフィールの名声は国の大半に響き渡っていた。貴族たちがどれほどエルフィールを見下そうとその声が小さくなるほどの熱狂が、国民たちの間から響き渡るようになっていた。
死が救いにならないような世に。そのための希望として、エルフィールの名前は広く民たちの間に浸透していって……しかし、エルフィールは。その間に、最後の挫折を味わった。




