表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人間の宿命

作者: ぷー

「綺麗だと思わない?」


「何が?」


「何だと思う?」


 目の前の超絶美少女にそう問い返されて、私は軽く考える。


「私の顔面?」


「それは自意識過剰ってやつよ」


 美少女は呆れた感じで言った。


「そう?十分じゃない?こんなに可愛かったら」


「そりゃあわたしと同じくらい可愛いんだけどさ!」


「私と同じって……。自意識過剰ね」


「それはこちらのセリフなんだが?」


「私はそうは思いません」


「それはあなたが可愛いと自覚してないといけない話で――あたまいたい」


「何言ってるの」


 今度は私が呆れてしまった。


「で、何だと思う?綺麗なの」


「私の前髪?」


「やっぱり自意識過剰すぎない?」


「いや、それほどでもなくないかもなー」


「褒めてないよ?」


 違ったか。ならば――。


「あ、貴女に関することじゃないからね」


 先に釘を刺された。ずるくない?


「……ま、だとしたら地上しかないか」


 私達がいるここは、地上五キロにある住居地。宇宙ステーションのようなものである。高みから地上の景色が見下ろせるここは、最高の絶景スポットなのだ。


「違うわ」


「あーもーわけわかんなーい。教えて」


「答えを教えるクイズなんてあるわけないじゃない」


「なければ作ればいいのだ!」


「もうそれクイズじゃないわよ、馬鹿姉」


「うわ馬鹿姉っていうあだ名なっつ」


「そこ、傷つくところだと思うんだけどなー」


 そう言って、美少女はからからと笑う。


「傷つくと言えば、そうそう。最近料理が下手になってきた気がするのよねー」


「そう、なんだ」


 美少女は一瞬固まった気がしたが、きっと気のせいだろう。


「今日は人差し指をケガしちゃった」


 てへ、と私は悪戯がバレた子供のような仕草をして、人差し指を突き出した。


「ちなみに聞くけどさ、料理下手ってどのくらい?」


「塩と砂糖を間違えるくらいかな?」


 美少女は今日の夕飯が急に気になったのか、すっくと立ち上がった。キッチンに向かうと、途端に悲鳴を上げる。


「ちょっと待ってよ、カレー作ってんのにキッチン離れないでよ。溢れてるじゃないの!」


「確かにー」


「いや、確かにじゃないでしょ!」


「確かにー」


 てか、同じこと言ってるじゃん、私!


「あはははっ」


 美少女はまたしても呆れた。


「料理溢してよくそこまで楽観的にいられるわね」


「多分美味しいからいいじゃないの。多分」


「いや『多分』強調しないで?不安になるよ?」


「じゃあ安心させよう。ほら、このじゃがいも見てみ?プロ級の切り口だろう?」


「その判断基準、不安要素増えたんだけど?」


「何で?」


 私は首を傾げた。


「いやこれ皮残ってるし!どう見ても初心者の切り口だよね!?」



「美味しい?」


 場面は変わり、今は夕食タイム。


「例えだと思ってたけどさ、あなた」


「なあに?」


「本当に塩と砂糖間違えたのね?」


「は?」


 何を言っているのだこの自意識過剰女は。


「いや呆れた目をしたいのはこっちなんですが!?ていうか自意識過剰だったの最初はあんただよね!?」


「人の心読まないで?」


「長年の付き合いでしょ、慣れなさい」


 そう言って美少女はもう一度スプーンを口に運ぶ。


「やっぱり間違えたよね!?」


「はぁ?」


「いやいやもっと呆れてる目やめて?食べてみなさいよ、ほら!」


 美少女は無造作に私のスプーンにカレーを掬い、無理矢理私の口に押し付けた。


「んっ、あむ。あま」


「でしょ!?」


「想像通り」


「カレーは甘い食べ物じゃないんだが?」


「そうだよ?」


「じゃあ何でこのカレーはいいんだよ!?」


「甘いから」


「それ答えですらないの知ってる?」


「女子にとって、甘い物は正義。だろう?」


「……今のあんたにとっては、ね」


 意味深ねえ……。最近、この手の言葉が増えてきたような気がする。

 まあいいか。私は基本、楽観的だ。


「ならいいのよ」


「ちなみに何入れたの?カレーに塩も砂糖も入れないでしょ?」


「メープルシロップ」


「なーんで?」


「正直に言うとね、香辛料の一つと間違えた」


「どーこに間違える要素があるのかな?」


「ほら、瓶の形状似てるでしょ?」


「だーから?」


「間違えたの」


「はいはいそーですか」


 美少女さんは反論を諦めたのか、カレーをもう一口口に運ぶ。


「美味しいですか?」


「何だろうな。美味しくないくらい甘いのに、とっても美味しいよ」



 床に敷かれた布団に、二人の美少女が手を繋いで寝転がっている。


「今日のカレー、おいしかったね」


 私がそういうと、美少女は苦笑を浮かべて


「まあね」


 と言った。


「あー、今日も疲れたー。けど、幸せだったー」


「何で?」


 そう問われて、ふっと思い出した。

 そう、それは珍しい白い花をじっと観察していた時、空から降ってきた美少女。


「ユタスタシアが私のところに来てくれて――――って、何言ってるんだろ私」


 すぐに忘れた。なんだったんだろう。


「何だろうね」


 美少女は首を傾げていた。


 それきりほぼ会話することはなく、寝返りを打ったりしていたが、不意に思ったので言ってみた。


「そういえば、食べたいな」


「何を?」


「甘いカレー」


「……っ」


 美少女は何かが堪え切れなくなったのか、ごろんと寝返りを打ってソッポを向いてしまった。


「どしたのー?」


「……」


「話さないと、例えこの星の神様でも分からないよー」


 その言葉を聞いて、彼女の肩はびくっと震える。

 数秒後、こう言った。


「そう、だね」


「でしょー」


「もう、取り返しはつかないんだ」


 なーにほざいてるのかな?この憎いくらいに可愛い美少女は。


「どういうこと?」


「全部話そう。――あなたは、この世界で一番美しいものは何だと思う?」


 その問いには聞き覚えがあった。


「あー。昔、聞かれた気がする」


「私はね、あなただと思うな」


「え……?」


 愛の告白ですか?


「だから、人間であるあなたを、問答無用でここに連れてきたの」


「そんな記憶、ないけど。ていうかすごい強引だね」


 そんなこと、あったかな?


「私が何にも言わずに、あなたをここまで連れてきた時に言われたのよ。『話さないと、この星の神様でも分からないよー』って」


 もしかしたら変な顔をしていたのかもしれない、と美少女は笑う。

 

「楽しかったなあ。初めて、自分以外の存在に触れて、はしゃいでた。クールなあなたも、嬉しそうに笑ってた」


「クール?私はそんなキャラじゃ――」


 と言って、何故かそうなのかもと思い始めて口をつぐむ。

 あれ、何でだろう?私、クールキャラとは程遠いのに。


「でもその日々には限界があった。だって、あなたは人間だったから。私は気にしなかったけど、気がついたらおばあちゃんになっちゃってたんだ」


「おばあちゃん?」


 何を言っているのだろう。私はおばあちゃんじゃないよ?


「寿命ギリギリまで生き永らえさせたんだけど、限界がきちゃった。でも、私はどうしてもあなたを失いたくなかった。だから、あなたの成長を魔法で止めることにした」


「え……」


 なーにその急なSF展開。SFで合ってるのかな?いや、重要なのはそこじゃないね。

 まあ、今まで気にしてこなかったけど、こんな天空城みたいなところに住んでること自体がおかしい訳だし。ありえないことはない、のかな?


「でも、それには対象者の記憶がなくなってしまうという大きなデメリットがあった。でさ、あなたに許可を求めた時。あなたは、何て言ったと思う?」


「さあ?」


「『じゃあ、見た目だけでも若返らせてちょうだい』――ラルリンデはそう言ったのよ」


「あ――――」


 記憶が、フラッシュバックする。

 自分の手のひらを見れば、シワだらけだった。


「もう、いいのね?」


 私は穏やかに言った。

 ユタスタシアは頷いた。


「あなたを壊してまで、ラルリンデといたくない」


「でも、そうするとユタスタシアが孤独になっちゃう」


「それよりもラルリンデが壊れる方が嫌なの!」


「……そう」


 私は悲しげに言った。


「やっぱり、耐え切れなかったのね」


「思ったより持ってくれたわよ。ありがとう」


 そう言って微笑む彼女に、私はそれが無理やり作られたものだと直感して不安になった。


「これからどうするつもりなの」


「ラルリンデを生き永らえさせて、残りの魔力が少ないからしばらく何もできない。孤独と、あなたが死んだ悲しみを背負って、大して美味しくもない三つ星シェフのご飯を食べて、この星を回していくわ」


 なんて、悲しい生き方なのだろうと思った。

 だから、この言葉を贈るのだ。


「そう。じゃあ最後ね、ありがたい言葉を頂戴してあげる」


「何?」


 私は両目を瞑った。


「前提として、私の言葉は絶対で、確実で、不可避なの」

 

 目を開く。

 私は、大声で、叫んでやった。










「死ね!!!!!」























 




 もう動かない骸のそばで、ユタスタシアは堪え切れず涙を流した。


「自意識過剰ね、最後まで」

あなたは、『死ね』に隠された意味が分かりますか?

よければ評価よろしく!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ