第6話 推し活
ホウの頭を優しく撫でて目を見る。ホウはジッとリーンを見つめ返し、
「ホウ」
翼を大きく開いて応える。仲直りの儀式が終わり、
「ホウくん、着替えるよー」
ホウは肩から丸いテーブルに移動する。
先程までの作業着をメニューディスプレイを出してオフにする。
キャミソールとショーツだけになると、リーンは正面にある姿見に向かってお尻を向ける。
ショーツにプリントされた、グリフのキャラクターのイラストを見て、
「くぅ~、いい表情してるなぁ♪」
この下着、通常販売ではなく、抽選で限定十枚の激レア商品。
グリフの一番人気のキャラクターであること、そして、リーンがグリフで愛用する相棒でもあり、この商品をゲットする為、あらゆる手を使った。
精霊の湖に住む貴婦人に供物を捧げたり、倭の国のフィールドにある五十鈴川の御手洗場で身を清め、極めつけには、マナが宿るとされる火山島に赴くなど、現実世界でいう、パワースポットを片っ端から回った。
一つ違うとすれば、バビロンでは、訪れることで、自身のステータス、今回に於いてはLuckの数値が確実に上昇するので、現実世界より効果はあったようだ。
ふとショーツが縒れが気になったのか、人差し指でクイッと直して、リーンが、
「ヨシっと!」
満面の笑みを浮かべ、外行きの衣服をチョイスする。
今日はお昼にランと市街地でランチ、その後、クラフトに必要なアイテム調達、終わったらクランと一緒にフィールドに赴くというスケジュール。
クラン、MMORPGをプレイしたことがないユーザーにとっては、聞き馴染みのないワードだが、簡単に言えば【仲間】のこと。
大規模なクランには、所属する為に試験なども存在するが、リーンは最低人数の五人で活動している。
衣服の種類は、用途によってカテゴライズされており、フィールドに出るまでは、防御力など考慮しない軽装を選んだ。
ホウを肩に乗せて、
「行ってきまーす」
誰もいない家に挨拶するのは、少し変かもしれないが、リーンの視線の先は、玄関の棚に置かれた写真立てに向けられていた。
リーンとよく似た顔の女性が、屈託のない笑顔で微笑んでいる。
家を出ると、お隣さんの玄関のドアを開ける音が聞こえた。
「あっ、ランちゃん♪」
黒く腰まである髪、長身の女性と目が合う。
「やぁ、リーン、タイミングがいいね」
落ち着いた口調で応えるランは、リーンを見て、
「何か良いことでもあったかな?」
リーンの僅かな表情を読み取り、ランがそう言うと、
「えっ、何でわかるの?」
不思議そうにランの顔を見る。
「わかるさ、キミのことは」
男性が言えばキザな台詞を、ナチュラルに発してしまうランに、
「さっすが、ランちゃん、すごい!」
単純に喜ぶリーン、その関係は友達というより、親と子のようだ。
「はは」
ランは口説き文句で言ったはずが、華麗にスルーされて笑うしかなかった。
ゴソゴソとランの胸の中から、リスのような小動物が顔を出す。
「ラタトスク、どうしたんだい?」
キョロキョロと辺りを見回し、リーンの目をジッと見る。