第2話 魔法クラフト
「プロリーグデビューから、その卓越したプレイスタイルは、最上位帯のレジェンドプレイヤーにも注目されて、スカウトマンがチームに引き入れようと巨額の移籍金を提示してるんだよね」
興奮気味の男性が、テーブルから乗り出すように捲し立てると、隣にいる女性が、
「フェイカーのこれまでの経歴は不明、一説ではLoLのトッププレイヤーであるという情報もありますね」
LoLとは【League of Legends】の略称で、現実世界のMOBAのジャンルで、世界で最も多くプレイされているゲーム。
「フェイカーって名前、まさか本人?」
男性がまさか!っといった表情を浮かべる。
「あくまで噂レベルですよ」
女性が冷静に切り返す。
「はー、本物だったら激アツだよねー!」
男性がウキウキしながらフェイカーのプレイ映像を見る。
「フェイカーさん、そんなに強いんだ」
リーンが男性の熱に当てられて、興味を持ったのか、しばらく熱い解説を見ていたが、
「あ!」
流し見するはずが、放送に集中していることに気付き、
「お仕事しなくっちゃ」
スクリーンの電源をオフにする。
魔導書の売上を左右するのは、もちろん中身が重要だが、それ以外にも大切なモノがある。
それは【装丁】だ。
魔導書は実際に手に取って、初めてその価値が分かる。
有名なクリエイターは誰しも、その細部に至るまで、自身の拘りを一冊に込める。
たとえ中身が有益な魔導書であっても、その部分が欠けていると、ユーザーの反応は実に冷たいモノとなる。
それはソロモンに生きる住人の大半が、本に耽溺する人種、ありていに言えば愛書狂と呼ばれるビブリオマニアだからだ。
リーンもその一人であり、本に対する愛情は常軌を逸している。
これまで全く売れなかった魔導書、その装丁に於いては、一部の界隈にはコレクションとして所有する価値のあるモノとして認められていた。
注目を浴びた現在に至っては、絶版されたリーンの過去の魔導書は、個人間の取引でプレ値となっている。
「まずは中身だけど」
装丁は、魔導書の内容によって大きくデザインの方向性が決まるのだが、
「メモメモ、メモさーん」
ズボンのポケットから、使い込んだメモ帳をパラパラと捲り、直感でページを止める。
「これ、出来るかな?」
書かれていたアイディアは、
【民度が悪いプレイヤーを同じ階層に隔離して、フェアプレイするプレイヤーと分ける】
この魔法、実現すればオンラインプレイが劇的に快適になるのだが、ソロモンのシステムに介入する難題であり、他の多くのプレイヤーも願望としてあったが、誰一人、実現出来ない魔法であった。
しかし、この世界に不可能は存在しない。
ソロモンの開発者【サムス・ギルバード】が世界を構築するにあたり、
「この世界に不可能なんてないよ、あるとすれば君達のイメージ、かな」
そう言って無邪気に笑いながら、インタビューに答えていた。
「魔法はイメージ、いい言葉だよね」
リーンは反芻するように、サムスの著書を思い返して、気合いを入れる。