#25「メイド長の帰省」B
分部邸では、由人の部屋で防子と雷男が本を読んでいた。
「やっぱり本を読む場所は由ちゃんの部屋だよね〜。」
「使用人室は話し声がして集中出来ないからな〜。」
「...まぁ、別にいいけど、防子も本を読み始めたのか。」
「柔子ちゃんに勧められて...」
二人はそれぞれ違うラノベを由人の部屋のテーブルで読み始めた。
雷男は前に読んでいた「床屋の俺が異世界転生!?~美少女達のヘアスタイルを散髪したら、種族問わずモテモテになった件。~」の続きを。
防子は以前に柔子に勧められた「油揚げ工場で働いていた私が異世界転生して、自分で作った油揚げを九尾の狐に上げたら、異能の力を授けられ、異世界を無双する力を手に入れました。」というラノベを。
由人はそんなラノベを読んでいる二人を、只々じっと見守っていた。アリツフォンが鳴っていたが、拳也と愛剥路が向かっている事が確認した三人は部屋から動く事はなかった。
育郎が連れて行かれて、桃江はその場で泣き崩れてしまい、生徒達も俯いてしまっていた。
「こ、これである意味では柔道着と一つになったと言っても...」
「そんな事言ってる場合じゃないですよ!」
路宇都に喝を入れた拳也は、桃江達を家に入れた。
桃江は涙が止まらず、生徒達も釣られて涙を次々と流し始めた。大切な息子が目の前で化け物に変貌されたら涙の一つも流すのは仕方のない事だろう。
しばらくして、落ち着いた桃江は拳也に言う。
「拳也ちゃん...私の息子をどうにか元に戻してください。」
「...カテラスは倒したら人間に戻りますが、大抵無事ではないんです。最悪死に至る事だって...」
それを聞いた桃江は戸惑いを見せたが、出来るだけ怪我を負わせないで元に戻す事を拳也は宣言した。
愛剥路は生徒達を宥めていた。その中の小さな五歳くらいの男の子が、泣きながら愛剥路に言う。
「いくろうしはん...もどってくる?」
「大丈夫だよ...育郎さんは、私達が元に戻しますからね。」
そう言いながら男の子の頭を撫でて安心させた。それを見た生徒達は愛剥路に頭を差し出した。宥める愛剥路の姿を見て母性を感じたのだろう。しかし、一斉に頭を差し出したので愛剥路は困惑した様子を見せていた。
二人と一個は外に出た。
「それにしても愛剥路さんも変わりましたね。」
「そ、そうかな?」
「路宇都さんと違って、あなたは内気で泣き虫で引っ込み思案だった。」
「内気なのは、今もだよ。」
「だけど今は、落ち込んでいる人達を励まして、特に男の子の慰める姿には母性を感じました。愛剥路さんの成長を感じ取れました。」
「そ、そうなのかな?」
「妹が成長して、アタシも鼻が高いわ。」
「成長してるかな...あの人のおかげかな...」
話をしている途中にアリツフォンが鳴る。愛剥路はアリツカーを出現させて二人と一個は車に乗って至急向かおうとしたが、家の中から桃江達が出でくる。
「拳也ちゃん!愛剥路さん!頼みましたよ!」
「しはんをもどしてねー!」
「頼んだぞー!若いお二方!」
みんなの声援を聞き、二人は現場に向かった。
現場は本外町の住宅街。そこにはジュウドウカテラスが市民を壁に次々と投げ飛ばす姿があった。ルオマーの姿は確認出来ない。
「リャー!」
「グエ!」
「ギャ!」
「イデ!」
二人はアリツフォンにアリツチップを挿し込む。
[Martial Arts In]
[Vehicle In]
電子音声の後に待機音が鳴る。
「「武着装!」」
掛け声を言って、CERTIFICATIONの文字をタップする。
[CERTIFICATION. In Charge of Martial Arts.]
[CERTIFICATION. In Charge of Vehicles.]
再び電子音声が聞こえた瞬間、二人の周りに光が纏い、アリツシャーマ、ビークラーに武着装した。
「リャー!」
ジュウドウカテラスは市民を二人の元に投げ飛ばした。
「危ねぇ!人を攻撃に使うなんて!」
「リャー!リャー!」
ジュウドウカテラスは次々と市民を二人の元に投げ飛ばしていった。
二人は市民を受け止めては地面に静かに置く事を繰り返し、ジュウドウカテラスに攻撃出来ずにいた。
「どうしよう、拳也君」
「こうなったら、一か八か...!」
シャーマはアリツハンドを発動して、ジュウドウカテラスにの元に走って近づいていった。
ビークラは近づいてパンチをするのかと思っていたが、シャーマは柔道カテラスの襟を掴み、投げたのだ。
アリツハンドは手の力を強化するものであり、殴る力だけでなく投げる力だって強くなるのだ。
「リャ?」
「さて、怪我を負わせないように戻すと約束したし、このままとどめをさしますかな!」
アリツフォンにアリツブレイクチップを挿し込む。
[Break Standby]
画面にブレイクの文字が表示され、タップする。
[Martial Arts Break]
ブレイクが発動し、シャーマの手が輝き始める。倒れているジュウドウカテラスを立ち上がらせて、巴投げをした。ブレイク状態なので、数十メートルは吹っ飛ばされた。
そして、ジュウドウカテラスは育郎の姿に戻って、その場で倒れた。受け身を取っていないので、ダメージは大きいだろう。
物陰で武着装を解いて、いつものように警察と救急車を呼ぶ二人。
「今回は斬ったり、撃ったりしてないからしていないから、治りは早くなる...と思う」
「そうだといいですね...」
二人は桃江達の元に戻り、育郎の事を報告した。人間に戻った事を知った桃江達は安堵した。後は目を覚ますのを待つだけだろう。道場は当然しばらく休業する事になるだろう。
三人は生徒達に見送られながら、桃江の実家を出発した。
「ごめんなさいね。こんな大変な事になるなんて...」
「いえ、むしろこの為に僕達がいるんですから!」
「本当は何も起こらないのが一番なんですけどね...」
「息子を元に戻してくれてありがとうございます。もう一度お礼を言います。」
「これで無事に治ってくれるといいんですけどね。」
三人と一個は屋敷に戻り、拳也と路宇都は博士、愛剥路は由人に今日の事を伝えた。
「柔道着と結婚だなん面白い事言う人ね。でもカテラスにされちゃったから気の毒ね。」
「でも、ある意味柔道着と結婚したってことなんじゃない?」
「そんな事ないでしょ」
博士は育郎の事をお気の毒に思っていた。
「人がカテラスにされるのを見ると、何だか悲しくなります...」
「そうだろうね、桃江さんが泣き崩れるのも無理も無い...」
「ところでお二人共熱心に読書してますね。」
「あぁ、今日はそれをずっと見守っていたよ。」
ラノベを読んでいる二人をほぼ一日中見守っていた由人であった。
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