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世界を救った英雄、魔王の呪いで『嫌われキャラ』に転生させられる~でもこのキャラ、実は才能だけなら世界最強みたいです。剣と魔術と可愛いメイド、なんでも持ってる最強キャラで無双する~

連載候補の短編です。

悪役転生の最強無双ストーリー!


よろしくお願いいたします。


「これで終わりだ、魔王ラビラディア!! 聖剣奥義……聖技エクスクロスッ!!!!」


「うぎゃあああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?」


 オレが手にする光り輝く聖剣が、虹色の魔力に守られた魔王の心臓を貫いた。


 魔王撃破。

 これで世界は救われる。


 ……ここまで長かった。


 オレがこの世界に異世界転生してから10回目。


 やっと魔王を倒して世界を救う事ができるようだ。


 この世界はゲームの世界だ。


 なぜオレがそんな世界に転生したのかは良く分からない。


 ただ魂だけの世界で神が言った。


『魔王を倒せば元の世界、元の時間に戻れる』


 その言葉を信じてオレは魔王に挑んだ。


 挑み続けてきた。


 主人公は平凡な農民。


 主人公だから何か隠された才能があるとかそんなことはなくて、神をうらみたくなるくらいに本当に凡人だった。


 そんなゲームはいつも10歳からスタートする。


 1度目の転生で国王に実力を認められ、魔王に挑めた時には40歳を過ぎていた。


 だが魔王の圧倒的な力の前に完全敗北。


 2度目でも敗北。


 3度目でも敗北。


 4度目、5度目……。


 そうやって敗北を繰り返しながら、記憶だけが引き継がれる。


 オレは世界を知り、効率的な攻略を探しまくった。


 そしてこの世界で誰も習得したことがない聖技を習得するほどまでに剣を究めた。


 10回目の世界、今、この瞬間。


 オレはまだ15歳。

 だがついにその剣が魔王の弱点を貫いたのだ。


「ぐぎぎぎぎぎ……!! 早すぎる!! ゆるさん、許さんぞ、勇者よ!! お前だけは絶対に許さない!!」


「いや、もう終わりだ。その顔も見飽きたところだったんだ」


「嫌だ!! イヤだイヤだイヤだ!! まだお前の転生は終わらせんぞ!!!!」


「何?」


 こいつ、オレが転生している事を知っていたのか?


「10回の人生……お前が剣を極めたように、ワレは魔の道を究めた!! 今こそ食らうが良い!! 転生の呪技を!!!!!!」


「なん……だと……!?」


 魔王の心臓が爆ぜ、魔王城は光に包まれた。


 転生の呪技だと?


 そんなの最後の悪あがきだろう。


 もう転生は終わりだ。


 オレは平凡なサラリーマンに戻らせてもらう。


 そう思っていた……。


 そして気づいたらオレは知らない体に転生していたのだった。


「なんだ!? どうなっている……!?」


 目覚めると元の世界ではなかった。


 でもいつもの馬小屋のワラのベッドでもない。


「ここは……!?」


 アホみたいにデカいフカフカのベッド。


 貴族趣味まる出しなアンティーク調の姿見の鏡。


 そこに映っているその姿は……


「嫌われ貴族のアンベル!?」


 この世界で最初に戦うことになる中ボスだった。


 ――コンコン。


「失礼いたします」


 混乱していると、ノックに続いてメイドさんが現れた。 


 金色のロングヘアが美しい女性だった。


 美男美女だらけの異世界だが、その中でもトップクラスで見た事ないくらいの美女である。


 主人公が住んでいた農村ではまず見ない。


 さすがは貴族ってことか?


「坊ちゃま、お食事の準備ができました」


「あ、あぁ……」


 言われてみると腹が減っている気がした。

 とりあえず食べてからゆっくり考えるとしよう。


「ありがとう。今いくよ」


「ふぇっ!?!?」


「え?」


「ア、アンベルお坊ちゃまがお礼を言った!?!?!?」


 普通にお礼を言っただけで驚かれた。


 さすが嫌われ貴族だな。


 普段どんな生活をしてたらこんなリアクションになるんだろう。


「坊ちゃま!? あ、頭でも打たれたのですか!?」


 めちゃくちゃ失礼なことを言いながらメイドさんがオデコに手を当ててくる。


 近くに来るとすごい良い匂いがする。

 甘酸っぱいフルーツみたいだ。


 こんなメイドさんと生活しているなんて、アンベル……お前ズルいな!?


 作中でもその言動などで嫌われキャラのアンベルだが、確かにムカついてきたよ。


「いや、だいじょー……いや、大丈夫じゃないかもしれない」


「やっぱりですか!? よほど強く打たれたのでしょう。すぐに医者を……!!」


 この子、失礼すぎない?

 良く今までメイドやってこれたな??


「いや、待ってくれ。少し混乱しているだけかもしれないから、大騒ぎにはしたくない」


「そ、そうでしたか。でしたら、食事はお部屋までおもちします」


「ありがとう」


「ふぇぇ!? またお礼を!?!?!?」


 マジで今までどんな生活してたんだアンベル。


 それからメイドさんが食事をすぐに持ってきてくれて、オレは11回目の人生で初めての食事をとる事になった。


「うめぇ……」


 ホカホカと湯気が出てるスープ。

 中には肉と野菜がゴロゴロしている。


 パンもモチモチでやわらかい。


 すげぇ……この世界の貴族ってこんなちゃんとした食事だったのか。


 初めて見たよ。


 農民時代は味なんてほとんどしない水みたいなスープを飲んでいた。

 あとカッチカチの良く分からないパンがセット。


 勇者になってからは戦い続けていたから携帯食ばかり。

 乾燥させたマモノ肉とかね。


 オレにとっての贅沢は仲間たちと飲む酒場のエールくらいだった。


「それで、えーと、君の名前を教えてくれないか?」


「えっ!? わ、私はミトラと申します!」


「ミトラか。綺麗な名前だ。美しい君に良く似合っているな」


「ふぇぇぇ!?!?」


 ミトラが顔を真っ赤にする。

 言ってみたオレもなんか恥ずかしくなってきた。


 オレ自身、キャラが定まっていない。


 貴族キャラのアンベルに転生したのだからと貴族っぽくふるまおうと思ったが……貴族ってどんな生活してるんだ!?


 まるで分からない。


 元の世界でもこの世界でもずっと貧乏人だったからな。


 いや、変にとりつくろうのは止めよう。


 自然体が一番。


 この世界で何度も人生を重ねてきたけど、それがオレの結論だった。


 オレの体が変わっても世界が変わったワケじゃなない。


 その答えもきっと変わらないだろう。


 自然体で接していれば、相手も自然と心を開いてくれるものなのだ。


「いや、ごめん。ちょっと、記憶があいまいで、キャラが変になってた」


「キャ、キャラ?」


「えーと、とにかく、オレの事を教えて欲しいんだよ」


「坊ちゃまの事、ですか……えーと、坊ちゃまは何というか、みんなに嫌われてますね!!」


 直球である。

 分かっていてもなんか普通に傷つく。


「嫌われ貴族のアンベル、か」


 それがこの世界でのアンベルの名前だ。


 この世界はゲームの世界。


 オレが知らないゲームだけど、この世界の中にゲームの説明みたいな書物が多く存在しているおかげで今ではかなりこの世界に詳しくなった。


 それらは多分、チュートリアルとかジャーナルみたいな物だと思う。


 プレイヤーはそれを見つけて読むことで、ゲーム内の世界への理解を深める事ができる。


 それがゲーム世界への没入感につながるとか、そんな感じで用意されているんだと思う。


 アンベルについてもいろんな書物があった。


 ストーリー上では最初、農村から出てきた主人公が初めて出会う貴族である。


 この世界では基本的に貴族は悪役であり、悪い奴ばかり。


 その中でも特に性格が悪いのがアンベルだ。


「とにかく他人を見下しているから弱者には強い態度をとる。でも自分より立場が上の存在にはゴマをすりまくる情けない姿を見せる……だよな?」


「その通りです! 先日も王家の人と会った時には靴をナメておられましたね! さすがでした!」


「オレそんなことしてたの!?!?」


 自分の体ながらに情けない。


 その時の記憶がないのが不幸中の幸いって感じだ。


「他にもお気に入りのメイドを差し出したり、その帰りに農村で見つけた女の子をさらって新しいメイドにしたり……」


「やりたい放題だな」


「それが坊ちゃまですからね。ミトラも昨日は腹を蹴られましたし」


「えーと、それは、なんというか、ごめんなさい」


「ふぇぇぇ!? い、いえ! 謝らないで下さい! なんか後が怖いですし!!」


 ミトラの話によるとオレの予想よりもアンベルは嫌われ者だった。


 この屋敷のメイドたちにも、それから周囲の街の人間達にも、下手すれば家族たちにすら嫌われているらしい。


「なんでこんなキャラに……」


 魔王が最後に放った呪技。


 状況から考えてその影響でオレはアンベルの肉体に転生してしまったのだろう。


 だったらその目的は何か。


「ただの嫌がらせにしか思えないけど」


 嫌われキャラとして生きるなんて普通につらいからな。

 世界レベルでイジメられちゃうってこと?

 アンベルの精神性そのままだったら平気だったかもしれないけど、オレは嫌だな……。


 ゲームのストーリーとは言え、主人公にも嫌われまくって殺されるワケだし。


「……いや、そうか!!」


 やっと気づいた。


 このままだとオレは主人公に倒されることになるのだ。


「ミトラ、今って何年だ!?」


「えーと、今は暗黒歴514年ですね」


「ってことは、ヴァレインはまだ9歳か……」


「ヴァレ……? 誰です……?」


 この世界の主人公、ヴァレイン。

 後の勇者となる少年だが、オレが転生していた時はいつも10歳だった。


 そしてそれは暗黒歴515年のこと。


 つまり、少なくともまだ1年は猶予がある。


 それまでに何とかしないといけないワケだな。


 ただ魔王を倒すのではなく、1年以内に主人公にも対策しないといけなくなったワケである。


 まるでゲームの難易度が上がったみたいだ。


 ハードモードである。


「ミトラ、オレの今日の予定は?」


「いえ、特にありませんが……」


「え? オレって普段なにしてるの?」


「えーと、メイドを殴ったり、蹴ったり、あと村人をバカにしに行ったり……」


「本当にロクな生き方してないなオレぇ!?」


「それがアンベル様ですからね」


「なるほど、わかったよ。特に予定がないなら、お願いしたい事があるんだけど」


「ふぇ? なんでしょう?」


 まずオレがやるべきことを考える。


 主人公への対策はムリだ。


 いつもオレが動かしてた人物なワケで、いつも行動パターンが違ったハズ。

 本来の行動がまるで読めないのである。


 ハッキリ言ってなるようになるしかない。


 やれることと言えば、それまでに主人公に負けない力を手に入れる事くらいだけど……。


 訓練は毎日コツコツやっていくしかない。


 それよりも……一番の問題はこの転生の呪いだ。


「この屋敷に魔術関係の本とかあるか?」


「どうでしょう? 図書室を探せば……ですが、魔術ならパルマル様に聞くのが早いと思いますけど」


「パルマル? 誰だ?」


「このお屋敷の専属魔術師です。もともとは坊ちゃまが希望して呼びつけた家庭教師ですけど……勉強は嫌だっていって1度もお会いしてませんよね?」


 なにやってんだオレ。


 だが運が良い。

 呪技について聞き出せそうな相手がいてくれるなんて。


「じゃあ今日、その1回目の授業を受けることにしよう。さっそくパルマルを呼んでくれるか?」


「ふぇぇぇ!?!? 勉強!? 坊ちゃまが!?!?」


「そうだけど」


「本当に坊ちゃまなんですか!? まるで別人ですよ!?」


 ミトラがマジマジと見てくる。


 うん、別人なんだけど。


 っていうか眼、大きいな。

 キラキラと太陽を反射する真夏の海みたいに綺麗だ。


 近くで見ていると吸い込まれそう。


「そうだと言ったら?」


「ふぇぇぇぇぇぇ!?」


「冗談だ。なんか目が覚めただけさ。正しく生きる事に……」


「なんかカッコイイ事いってます!?」


 なんだかんだでミトラはパルマルを呼びに行ってくれた。


 リアクションが素直すぎて不安になるけど、基本的には良い子みたいだ。


 アンベルにはもったいないメイドである。


「魔王の呪技、か……」


 おそらくは強力な魔術の類だろう。


 そのせいでアンベルの体にオレの魂が閉じ込められているのならば……同じく魔の道を究めて呪いから解放されるしかない。


 まずは呪いを解く。


 魔王を倒すのはその後で良い。


「坊ちゃま、パルマル様をお呼びしましたよー」


 すぐにミトラがパルマルを呼んできた。


「はじめてお目にかかります。私の名前はパルパル。第二級の魔術師でございます」


 パルマルはスキンヘッドのオッサンだった。


 この世界の魔術師、男はなぜかみんなスキンヘッドなんだよな。


「アンベルです。よろしくお願いします」


「ふぇぇ!? アンベル様が正しい礼儀を!?!?」


 オッサン、お前もそのリアクションなのかよ。


 まぁ良いや。


 とにかく魔術の情報を聞き出すとしよう。


「さっそく授業を始めてくれ」


「はい。それではまずは魔術の基本から……」


 パルマルの授業は分かりやすかった。


「世界には多くの魔術がありますが、その基本は5つの属性からできています」


 魔術の基本である5大魔力。

 その得意な分野や苦手な分野など。


 上級魔術師が使う複属性の合成魔術の仕組み。


「魔術は魔力によってできています。まずは魔力の操作を学ぶのが良いでしょう。例えばこのように、指先に魔力を集めて火を起こす事など……『火よ』」


 パルマルが指先でライターみたいに小さな火を起こしてみせる。


 なるほど。


 オレも真似してみた。


 魔術を使ってみるのは初めてだ。


 少しワクワクするな。


「火よ」


 指先に魔力を集中させ、唱える。


 ――ボッ!!!!


「「ふぇぇぇぇ!?!?」」


「おっと、強すぎた」


 天井が燃えるところだった。

 あぶない、あぶない。


 魔力の流れをセーブして火を小さくする。


 指先で燃えているのに不思議と熱くない。


「うん。こんなもんか?」


「坊ちゃま、魔術なんて使ったことないハズでは!?」


「え? 今はじめて使ったけど」


「アンベル様、魔術の勉強も今日が初めてですよね!?」


「まぁ、そうだけど」


 これまで人生を繰り返してるから基礎知識くらいはあったけど。


「て、天才です!! アンベル様は間違いなく魔術師の歴史に残る大天才ですぞー!!!!」


「え? そうなの?」


「もたろんですぞ! 魔力のコントロールなんて、普通は最低でも1年はかかりますぞ!! それを一瞬で……もはや奇跡です!!!!」


 アンベルって魔術とか使ってこない中ボスだった気がするけど……。


 そうか。

 努力してないだけで本当は才能はあったのか。


「もったいないキャラだな、まったく」


 オレが才能なしの主人公でどれだけ苦労したのか、教えてやりたいくらいである。


「魔術学園に進学すべきですぞ!!」


「ミトラは坊ちゃんの才能を旦那様にお伝えします!!」


 それからパルマルたちが大騒ぎしてしまって、肝心の呪技については聞けなかった。


 オレが自由に動きにくくなるから、あんまり大騒ぎはしてほしくないんだけどなぁ。


 その後、ミトラとパルマルの進言により屋敷の主であり今のオレにとっては父、ガンデルと話し合うことになった。


「アンベル、怠け者のお前が勉強とはな。笑わせる」


 ガンベルとの関係は冷え切っていた。


 アンベルは三男にあたる。


 長男と次男が優秀で、後継ぎ問題などガンベルの望みは果たされていた。


 そんな兄弟とは歳の差があることあってほとんどアンベルは接点がない。


 ガンベルにとっても興味はとっくになくなったダメ息子らしく、こうして屋敷で飼い殺されているのがアンベルの実態のようだった。


「ですが旦那様、アンベル坊ちゃまの魔術の才能は本当に素晴らしいんです!!」


「ガンベル様、アンベル様の才能は第二級魔術師の私からみても確かでございます!!」


 ミトラたちがそう言って魔術学校への入学を進言する。


 オレとしてもありがたい話だった。

 魔術を究めるにはそれが一番手っ取り早い方法だろう。


 巨大な学園ならば呪技についても専攻している研究者がいるかもしれない。


「答えはノーだ。アンベルの気まぐれには付き合えん」


「気まぐれではありません。本気で魔術を学び究めるつもりです」


「なにをバカな。お前にそんな根性はなどない。すぐに飽きるか諦めるか……どのみち我が家名に泥をぬることになるだろう」


 父ガンベルは中々に頑固だった。


 いや、それほどまでにこれまでのアンベルの態度がひどかったのだろう。


 ミトラたちが交渉してくれるが、首を立てにはふってくれない。


「だったら一週間後、剣の腕を見せよ」


「え? 剣ですか?」


「そうだ。魔術の才能は良く分かった。パルマル魔術師のことは信用もしているからな……だがアンベル、お前に努力ができるとは思えん。だから努力の才能を証明して見せろ。お前の苦手な剣技でな」


 こうして何故かオレは剣術の訓練を始める事になったのである。


 条件は簡単だった。


 一週間後、ガンベルが指定した剣の達人と模擬試合を行う。


 そこで納得のいく結果がでれば受験を認める。


 ただし剣の師はなし。


 自力で、努力だけで剣を磨けと言うワケだ。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………!!」


 それからオレは毎朝、屋敷の周りを走り続まくった。


 剣に関してはむしろ師など不要である。


 剣に関しては極め続けてきた。


 訓練の方法だって熟知している。


「ハァ…………重いな、この体!!」


 これまでどれだけ怠惰な生活を送ってきたのか、少し走っただけでも良く分かる。


「アンベル様、おはようございます」


「今日もありがとうございます!」


 とにかく思い通りに体を動かせるようにと、オレはずっと動き続けた。


 剣の型はもう覚えているから必要なんてない。


 いろんな動きを体に覚えさせることを重要視した。


 そのためにメイドたちの掃除の手伝い、料理なんかもしていると、それまではゴミや虫けらか汚物を見るようだった屋敷のメイドたちの反応も変わってきた。


「なんか最近のアンベル様、ちょっとカッコよくなったような」


「それ分かります! なんだかアンベル様じゃないみたい」


「うん、アンベル様なのは間違いないんだけど……」


 剣の道は長く険しい。

 コツコツと地道な努力を続ける必要があるのだ。


 そうしてあっという間に一週間が過ぎた。


 約束の日。

 模擬試験の様子が気にあるらしく、広場にはメイドたちも集まっていた。


 そしてオレの相手として現れたのは……


「この街で最強と名高い大剣豪……それがまさか君だったとはね」


 ミトラだった。


 ミトラはスカートの裾を小さく持ち上げながら軽くお辞儀をする。


 そしてオレへの敬意は忘れずに、しかしハッキリと言った。


「恐れながら申し上げます。坊ちゃま、降参を」


「なぜだ?」


「ミトラは剣に誇りを持っています。それゆえ、相手が誰であろうと手加減はしません。できません」


 いつもとは雰囲気が違う。

 目つきは鋭く、戦いに身を置く者のそれだった。


 いつもの「ふぇぇぇぇ」と言っているミトラとは別人に見える。


「オレはそれで構わないが?」


「ミトラは今の坊ちゃまが好きです。ですから傷つけたくないのです」


「なるほど。でも、君が本気でやってもオレは絶対に傷つかない……と、言ったら?」


 ピクリ、と。

 明らかにミトラが不快そうな表情で眼を細めた。


 分かりやすくてやりやすいな。


「もしそのようなことをおっしゃるようでしたら……教育が必要かと考えます」


 ミトラが木刀を持つ手に力が入る。


 少し離れたこの距離まで「ミシリ」と聞こえた気がする。


「いいな。だったらその教育とやらを頼もうか」


 本気の眼でミトラが構えた。


 自然体に見えるが……なるほど、確かに隙がない。


 この街で最強と名高い大剣豪。


 ウソじゃないみたいだ。


「……さて、だらしない今のオレの体で、どこまでやれるか」


 まぁ、でも相手も木刀だし。

 何発か受けても死にはしないだろう。


 なんて思っていた。


「では、お覚悟を」


 ――ヒュ。


 ――ドッゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!


「ふぇ!?!?!?!?」


 いや、死ぬ!?


 思わずミトラみたいな声がでてしまった。


 ミトラが踏み込んだと思った次の瞬間、オレがいた場所で地面が爆発していた。


 恐ろしいまでに腕力……いや、全身の筋力を見事に剣に乗せてたパワー系の剣技。


 回避が間に合わなかったらマジで死んでたかもしれない。


 ミトラの細身な体からは想像できない威力だった。


「あら。さすがですね、坊ちゃま」


「言ったろ? オレには当たらない」


「……その口、黙らせます!」


 手数ではなく一撃の威力を重視した超パワー系。


 だがその動きは流れるようでもある。

 東方の流派だ。


 その中に剣術学園に見られる緩急の動きも混じっている。


 他にも西部で好まれる刺突、南地方で使われる連撃。


 細かい部分はオリジナルだろう。


 全てを合わせて自分専用の剣技を完成させている。


 確かに……まぎれもない達人の領域だ。


「おもしろい……!!」


 オレはこの世界の10回の人生で、100を超える剣の流派をマスターしている。

 そしてそのためにいろんな達人たちに出会ってきた。


 だけど、こんなキャラはみたことない。


 まるで隠しキャラ?


 裏ボスみたいな剣士が序盤の街にいたとは。


「本当にうらやましいぞ、アンベル!」


 剣士としての血が騒ぐ。


「坊ちゃま、そろそろ決着をつけますよ!!」


「……くっ!!」


 ミトラの剣はどんどん切れ味を増していった。


 全力で仕掛けたように見えた一撃目だったが、あれでもまだ加減していたらしい。


 動きは見えている。

 剣の型も見切った。


 だが体がその動きに追いつくワケがない。


 ……普通ならハッキリ言って一週間でこのレベルを相手にするのは絶対に無理!!


 なのにオレはギリギリでミトラの剣をさばいている。


 アンベルの肉体は優秀だった。


 鍛えれば鍛えただけ成長する。


 普段から摂取している栄養価が違うんだろう。


 主人公とは肉体の基礎が違うのだ。


「いや、それだけじゃない」


 剣を振るうたびに動きが適応していく。


 ミトラの剣を防ぐオレの動きに余裕を感じ始めていた。


 剣を極めたからこそ分かる。


 アンベル……こいつ、めちゃくちゃ剣の才能があるんじゃないか!?


 単純な肉体だけじゃない。

 明らかな才能があるのだ。


「くっ……!?」


 次第にミトラの表情が苦しくなってきた。


 オレと立場が逆転している。


 防ぐのではなく、攻める余裕ができてきた。


「いや、それもそうだよな」


 アンベルは努力とは無縁の生活を送っていたらしい。


 それでもゲームで中ボスとして立ちはだかる強さがあったのだ。


 本当に才能だけであの強さだったワケだ。


「まったく、羨ましいな」


 剣の才能。

 魔術の才能。


 ただの中ボスが、実はゲーム内のキャラクターとしては最強クラスの才能を持っていただなんて。


「それに……可愛いメイドさんまで」


「さすが、坊ちゃまですね……!!」


「そろそろ決着をつけようか、ミトラ」


 もうオレには勝敗は見えていた。


「こちらのセリフです!!!!」


 渾身の一撃を放たんと、目の前でミトラが舞う。


 フワリとメイド服のスカートも舞った。


 見えた。


「…………黒っ!!」


 ――バキィ!!!!!!!!!!


 模擬試合の記憶はそこで途切れている。


「坊ちゃま、ミトラは怒っています」


 目が覚めたのは次の日だった。


 ミトラはオレにリンゴを食べさせてくれながら、頬をプクっと膨らませていた。


 かわいい。


「昨日の試合、最後に手を抜きましたよね? あの試合でもしもミトラが負けた時、旦那様にどんな罰を与えられるかわからなかったから……そうなんでしょう?」


「え? まぁ、うん?」


 言えない。

 ただミトラのパンツに気を取られたからだなんて絶対に言えない。


「……ありがとうございます、アンベル様」


 ――チュッ。


 カンチガイしたままのミトラは、そう言ってオレの頬にキスをした。


 試合には負けたオレだったが、ガンベルは魔術学校への入学を許してくれた。


「良くもまぁ毎日毎日あれだけ走ったものだ。バカ息子め」


 試合の結果なんて関係なかったらしい。


 オレが毎日、ちゃんと剣の訓練をしていた事をメイドたちから聞いたのだとか。


 別にオレにとっては普通のことなんだけど、嫌われ者のアンベルがやるとすごい偉業になってしまうようだ。


「坊ちゃま、準備はよろしいですか? 忘れ物は?」


「大丈夫だよ」


 それからはトントン拍子で入学の手続きが進んだ。


 この世界には剣術の学園と魔術の学園がある。


 どちらも入学にはそれなりにカネとコネが必要になるから、主人公サイドではそれを用意するのが大変だった。


 いろんな街の剣術大会で資金を集めたり、剣術の学園ブレイディアの元教師であった老剣士マスター・ソルドの道場まで道場破りにいって入学のための推薦をもらったりもした。


 初めて入学できたのは5回目の世界だったな。


 それなのに、今回は一発で入学できるらしい。


 しかもちょっと家で勉強しただけで。


 剣の才能も魔術も才能もある。

 生まれにも恵まれている。


「それでは、行きましょう! アンベル様!!」


 そして可愛いメイドさんもいて。


 ……コイツの人生、イージーモードすぎないか?



 それから魔術学園に入学したオレが剣と魔術で無双するは割とすぐのお話である。


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