カフカはフカか
レベルが上がり、強くなれば力を試してみたくなるもので。アリスは街を出てフィールドに出ようとしていた。
「いくら非力なマジシャンと言えども、14レベルにもなれば、レベル1のスライムくらいなら倒せるでしょ!」
コイン遊びも良いが、せっかくのVRMMOなのだから戦闘もしてみたい。アリスはそう考えた。
街の出口へと続く大通りは人でごった返しており、アリスはコインを消したり出したりして経験値を稼ぎながら歩いた。
その時ふと、アリスに声をかける者がいた。
「ねぇ、そこの君、広場でマジックしてたマジシャンだよね」
アリスが声に振り返ると、そこにはかなり服装がマズい少女が立っていた。
水色のビキニの上に、腰丈ほどの透明なレインコート。端正な顔立ち、クールな表情、青い瞳。淡い水色の長いポニーテールは、しっぽの部分がサメっぽくなっている(意味がわからないだろうがサメっぽくなっちゃってるんだから仕方ない)。そして、一際目を引く、右手に嵌められた巨大なサメのパペット。
ビキニの上に透明のレインコートはマズい。ほんとにマズい。昨今のインターネットでよく見かける、思想が過激な人が見たらバチギレしそうだ。
やべー服装の少女に、アリスはとりあえず事務的に対応することにした。
「こ、こんにちは」
「あーうん、わかるよその気持ち、怖いよね、突然こんな頓痴気な服装した女に話しかけられたら」
「ごめん、ぶっちゃけ困惑してる」
「うんうんわかるわかる、でも私を助けると思って話を聞いて欲しいんだ。私も君と同じなんだよ」
アリスは首を傾げた。
「私と同じ……ってまさか!」
「ヒント、私の職業は『サメ』」
職業サメってなんだよ。アリスは心の底からそう思った。どう考えても出オチのネタ職業である。しかし、職業が4500種類もあるらしい以上、こういうネタ職業があるのも仕方ないだろう。
「サメ……サメ……私と同じ……あぁそうか! 君は、『サモナー』になろうとして、間違えて1個隣の『サメ』になってしまったんだね!」
「惜しい、半分正解。私がなろうとしたのは『サムライ』なんだ。で、ログイン戦争に勝つために焦ってキャラメイクをした結果、サムライの1個隣のサメを選択してしまったんだよ」
職業一覧は五十音順に並んでいる。そのため、サムライの次はサメであり、その次はサモナーだ。アリスの名推理は限りなく正解であったのだ。
「くそぅ、惜しい!」
「惜しかったねー。ところで君、良かったら私とパーティを組んでくれないかな、職業がサメだから、みんな怖がって誰も私とパーティを組んでくれないんだ」
誰もパーティを組んでくれないのは、その目のやり場に困る服装のせいだとアリスは思ったが、頑張って言うのをこらえた。
しかし、マジシャンであるアリスも『マジシャンなんかなんの役に立つんだ』と、皆からのけ者扱いされてしまう可能性がある。組めるうちにパーティを組んでおくのは賢明な判断であろう。
アリスは、このサメの少女とパーティを組むことにした。
「いいよ、私も仲間がいた方が助かるし、パーティ組もう」
「ありがとう。私はカフカ、よろしくね」
「私はアリス、よろしく」
そう言ってアリスは右手を差し出した。しかしカフカは左手を差し出す。
「右手だと握手できないんだ、これ、ダメージ判定あるから」
そう言ってカフカは右手のサメパペットをぱくぱく動かした。
「ダメージ判定あるんだ……」
「サメだからね」
アリスとカフカは左手で握手を交わした。