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戦争

 半世紀ほど昔に数多のネット小説で描かれた完全なる仮想現実の世界は、ついに現実のものとなった。本日24時00分からサービス開始となる史上初のVRMMO『ロストワールドオンライン』は、事前登録者だけで既に3000万人を超えている神ゲーだ。神ゲーに決まってる。


 当然、そんな神ゲーであれば所謂『ログイン戦争』も壮絶なものになると予想される。生半可な準備ではこの戦争を生き残れない。私、西園寺アリスはありとあらゆる事態を想定して、完璧に準備を済ませた。


 今年一年は大学をサボれるように去年のうちに卒業に必要な単位を全て取り、バイトの鬼シフトを入れて240万円の貯金を作り、住んでる地域で一番速いネット回線を部屋に引き、部屋の鍵、カーテン、エアコンの温度調整、食事、風呂、トイレを済ませて、VRヘッドギアの初期設定とゲームデータの事前ダウンロードを終わらせたのだ。キャラメイクのイメージトレーニングだってもう100回以上やったし、『24時00分00秒00にロストワールドオンラインを起動する練習』だってここ一年間毎日続けている。


「完璧だ、完璧としか言いようがない」


 暗い部屋でVRヘッドギアを被ったまま、私は『完璧だ、完璧だ』とうわごとのように繰り返しながら、戦いのゴングが鳴るのを待った。


◆◇◆


 ────そして、ついに24時00分00秒は訪れた。


「急げ急げ早く早く早く!」


 私の意識は仮想現実に落ちていく。もう何度も見たロストワールドオンラインの起動画面、今までであればここで『サービス開始をお待ちください』というポップアップが出るのだが、今日はそんなことはなかった。


『ロs────』


「スキップ!」


 オープニングムービーを爆速でスキップし、キャラメイクを素早く進める。キャラメイクの後からログイン戦争が始まるパターンもあるので、キャラメイクは素早く行う必要がある。


『使用言g────』


「日本語!」


『あなたの名m────』


「アリス!」


『性b────』


「女!」


『種z────』


「人間族!」


 事前に決めていたアバターデザインにできるだけ近くなるようにアバターメイクを速やかに済ませる。


 長い銀髪に赤い目をした少女のアバターが完成する。


「次は!」


『最後に、職業をお選びください、ロストワールドオンラインには4500種類の職業があります』


 私の目の前に、とてつもない長さの職業一覧が表示させる。私がなりたい職業は魔法使い一択であった。


 職業一覧は五十音順に並んでいるようだ。


(ロストワールドオンラインでの魔法使いの表記が、例え『魔術師』や『魔道師』であったとしても、最初の1文字は『ま』だ!)


 私は、何となく『ま』がありそうな辺りまで職業一覧画面を一気にスクロールした。スクロールを止めた私のちょうど目の前にあったのは……


 その前に、これから起こる事故について1つ弁明をさせて頂きたい。突然何を言っているのか分からないかもしれないが、私のTOEIGの点数は990点であり、頭の中で英語と日本語の切り替えがスムーズに行われる。行われてしまう。そういう事情があるということを理解していただきたい。


 スクロールを止めた私のちょうど目の前にあったのは、『マジシャン』の文字であった。


 以下、私の頭の中。


 マジシャン→ magician→魔法使い・奇術師


 ……魔法使い!


「これだあああああぁぁぁッ!」


◆◇◆


 ロストワールドオンラインでプレイヤーが初めに訪れる街である『始まりの街』。その広場の噴水の縁石に腰掛けてうなだれる1人の少女が居た。


 スカートとコルセットの上のえんじ色の燕尾服、同じくえんじ色のシルクハット。長い銀色の髪、光を失った赤い瞳。引きつった笑みを浮かべる少女の名前は『アリス』、職業は─────


 マジシャン(奇術師)であった。

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