6.返済期限の到来
ダドリー商会の会頭である父と、会計主任のソルドラーク、そしてエスメラルダの三人で王宮を訪れていた。
融資、と言えば聞こえはいいが、つまりは担保を取った借金の返済期限の翌日の事だった。
彼らを迎えた国王と王妃は、大層機嫌が良さそうだった。しかし、わざわざホールまで出迎えに来たところを見ると、ただの返済で済むわけがない事が分かる。
「やあやあ、会頭。よく来てくださった。さあ、こちらへ」
「ようこそ。どうぞ、お掛けになって。とても良いお茶を用意いたしましたのよ」
ダドリー商会からやってきた三人は、それぞれに顔を見合わせた。
ああ、お父様のおっしゃった通り。これは、アレですわね。
「過分なおもてなし、感謝いたします、陛下。しかし、私どもはこの後にもお客様先を訪問せねばならず、時間がないのです。早速、ご融資した金額とその利子をお返しいただきたく」
「ああ、その件なのだが……」
そう口籠もる国王と、会頭の間に運ばれてきたのは、融資した金額が詰まっているとは思えない、小さな袋だった。
「これは……。利子分でしょうか」
国王は大袈裟に首を振った。
「い、いやまさか。返済分も多少は入っている」
「……ごくわずか、の間違いでは……?」
「あ、いや、それは考え方ひとつ、と言うことでな。そ、それで、会頭にお願いがあってだな。近頃、外国からのお客様が多くいらしてくださっていてな。高位貴族だけでなく、王族の方もおられてな。破格の値段で国宝級の品々をお譲り下さってな」
「他国との緊密な交流は喜ばしいものですな」
「そう! そうなのじゃ! だから、どうしても金がかかってな、とてもこのままでは金がもたないのだ」
エスメラルダは、国王からそう言われた時のお父様の顔をじっと見つめていた。表情を読ませない、見事な笑顔。商売人の顔だった。
お父様は、この半年のほとんどを外国で過ごしていらっしゃった。きっとその国々で、我が国に関するお話をされたのだろう。大変に人の良い国王がおられるだとか……。
「金が足りない。なるほど。それでは、今回の返済は間に合わなかったと言うことでしょうか。であれば、担保はこちらで回収させて頂きます。後ほど我が商会の者を寄越しますので」
エスメラルダは、商会に持ち込まれる絵画やドレスやわずかばかりの宝石の保管場所の準備を任されていた。
この城はかなり殺風景になってしまうだろうが、取れるものは取るに決まっている。
「あ、いや、それは、そう、そうせねばならないだろうな。いや、まことに、残念なことじゃが」
「いえ、陛下のお役に立てたのであれば、我が商会といたしましては、それに勝るものはございません」
「そ、それでじゃな。それをしてしまうと、その、この後、王宮を維持することすら叶わんと、下の者が言っておってな」
「……確か、昨年は豊作で、私の試算ですが、国庫には十分な額の税が納められたかと」
「あ、ああ。それはな、そうなのじゃ。だがな、この城もなかなかに古い。いや、歴史のある建物であるから、維持費も馬鹿にならんしな。それに、これからもお客様がいらっしゃる予定があってだな、そ、それで、足りなくなってしまうのが分かっていてな」
「……差し出がましい発言をお許しいただけるのならば、海外からのお客様のご訪問に関しては、お取やめになるべきかと。王宮に関しましても、地方には、この城よりも新しい離宮が一つは残っておりましたな」
「あ、いや、だが、体面というものがある。せっかく我が国が他国との外交に力を入れているのだ。それをどうか助けてはくれんだろうか」
「助けるとは……。私どもに出来ることがございますでしょうか? たかが一商会でございますれば」
「か、金を貸してくれれば良い」
「ですが、我が商会は金貸しではございませんので」
「では、では、また融資を! そう、担保を取ってだな。それを……お願いしたいのだが……」
国王の声は、先に行くに従ってか細くなっていった。
会頭は微笑みを浮かべた。同情するように。
「担保、と申しましても……。金庫の中身も、もうわずかでございましょうし」
「わずかだが、由緒あるものばかりじゃ。ど、どうかそれで……」
会頭は、こめかみを押さえて、しばし考え込むと、「そこまでおっしゃるのならば」と言いながら、紙の束を取り出した。
「万が一こんな事もあろうかと、用意だけはして来ておいて良かった。こちらにサインをいただければ、前回と同額までならば融資させて頂きましょう」
「ほ、本当か! 恩にきる。恩にきるぞ、ダドリー男爵。いや、伯爵だ。今日からそなたを伯爵としよう!」
「はは。それは、またの機会に。では、こちらにサインを。前回の担保を引き取りましたら、金をお届けいたしましょう」
国王は、意気揚々とサインをした。中身の確認もろくにせずに。
その帰り道、また三人で馬車に揺られていた。
「お父様。少々やり過ぎな気がするのですが」
「そうかい? 私の大事な娘の三年間を奪ったのだから、それ相応の報いは受けて然るべきだと思うがね」
お父様は、私とソルドラークに向けて微笑みかけた。
それからまた、半年の月日が流れた。
「困ったねぇ。私の耳に入る話では、どうやら陛下たちには返済をする気が無いようなのだよ」
お父様は、とっっってもいい笑顔でおっしゃった。
「さて、担保の回収に行くとしようか。エスメラルダ」
エスメラルダは、とても上機嫌なお父様に呆れながらも、そうするしか無いと、すでに諦めていた。少し気乗りのしない部分もあるのだが。
そうして、今度は三人ではなく、もっと大勢で、王宮へ向かうこととなったのだった。
つづく……
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