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3.ご融資の申し込み



 エスメラルダは、聖女として顔を合わせる事もあった王家の人々に、すっかり顔も名前も忘れられてご立腹だった。

 まあ、聖女としての最後の二年間は、エスメラルダは全ての祈りを放棄していたから、実質四年はまともに顔を見ていないのだが。



 それにしてもお父様。面白がりすぎですわ。私が本当に覚えられていなかったことを笑いすぎです。


 エスメラルダは横目で、さりげなくお腹を押さえている父を見た。



 国王に着座を促され、私たち三人はうやうやしくお辞儀をしてから席に着いた。

 私たちの前に、お茶とお菓子が並べられていく。今日はお茶会だったらしい。あの書簡には何も書いていなかったけれど。


 そこで、まだお腹を押さえながら、ようやく商会の会頭である父が、国王陛下に発言の許可を求めた。もちろん、それはすぐに許された。


「して、陛下。本日のご用件は?」

「ああ、そうじゃった。いや、ダドリー商会の、特にこの五年ほどの活躍ぶり、余も聞いておる」

「もったいなきお言葉にございます」

「近頃は我が国にも多くの外国からのお客人がいらしていてな。そのお客人らも、ずっと昔から、そなたの友人だと、いつも話題に(のぼ)るほどじゃ。島国ゆえ、なかなか外国との交流もままならなかったが、そなたの早くからの活躍に目を見張るばかりじゃ」

 会頭はうやうやしく頭を下げた。


「で、そのお客人らがな、そなたから融資とやらが受けられるとおっしゃっていたのを思い出してな」

「……融資、の件でございますか」

 会頭と会計主任が一瞬目を合わせる。


「いやいや、近頃は市井(しせい)の経済状況もよく、農産物もこれまでにない豊作が目立つ。税収もこれまでとは比べ物にならないほどじゃ」

「……さよう。誠に素晴らしい発展状況にございます。しかし、でしたら融資など。あ、もしや、大規模な事業の計画がおありですか?」

 すっかり商会の会頭の顔になった父の目がキラリと輝いた。これは、商売の大チャンス! とばかりに、頭の中でそろばんを弾き出した様子がエスメラルダには見てとれた。

 が、しかし。


「いや、特にそういうわけでもないんだが、近頃、財政難でな」


「「は??」」


 あらいけない。お父様とハモってしまったわ。でも、税収も増えているのに財政難とは、どういうことかしら。

 

「いやあ、お客人が増えたのはいいが、歓待に使っているうちに、な。その、金がな」


 え? いえ、待ってくださらない? 国賓の歓待には、ある程度お金がかかるでしょうけれど、それは国の財政を傾けるほどのものかしら。

 ダドリー家にも外国の高貴な方々がいらっしゃるけれど、そんなにお金をかけてはいないわ。もちろんお相手に相応しいおもてなしはしますけれど。


 そこで、王妃様がご発言された。

「いつも同じドレスというわけにもいきませんでしょう? もちろん宝石も。ああ、外国に私たちの古くからの刺繍の素晴らしさを広めてくださったのもダドリー商会でしたわね。それで、いつも私のドレスが好評で好評で」

「さよう。せっかく遠路はるばる来てくださったのだ。最上級のおもてなしをせねばならんからな。山海の珍味を取り寄せて、存分に我が国の素晴らしさを広めておるのだよ」


「……そうしていたら、財政が苦しくなられた、と」

 会頭の言葉に、国王も王妃も、うんうんと首を縦に振っている。


 エスメラルダは思い出した。彼女が聖女として、この国の民の前で祈りを捧げていた時のことを。そして、この国の有り様に絶望し、聖女としての役割を放棄した日のことを。

 本当にダメだったんだわ。この方達。



 「ああ! 思い出したぞ!」

 それまで黙っていた王太子が、急に大声を上げながら立ち上がったので、全員の視線がそちらを向いた。


 王太子の指が、エスメラルダに突きつけられた。

「お前、エスメラルダと言えば、あの出来損ないの聖女じゃないか!」


 え……。……今……?



つづく……


お読みくださり、ありがとうございます!

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