8.エレナ
エレナの翠玉色の瞳が、愛しいレイオスの潤んだ青い瞳を見つめている。
エレナは微笑んだ。レイオスの顔はすぐ目の前にある。
熱いレイオスの吐息が、エレナの顔にかかる。葡萄酒の甘味が香る。
屋敷の居間には、エレナと、レイオスしかいない。
エレナは、ソファに横になり、自分のか細い両腕をレイオスの首にかけている。花にしがみつく金色の蜂の様に。
婚期を迎えたエレナには、両親がいなかったが、後見人をつとめる叔父がいた。
叔父は、数年前から張り切って結婚相手を見繕っていたが、未だに決め切れない。
正直、エレナは結婚などどうでもいい。
そんなものに興味は無い。
今までも好きに生きて来た。これからもそうするだけ。
最初に決まった婚約者とはずっと付き合いがある。
彼は、紳士的で、キスまでしか手を出さない。
食事をしたり、馬で散歩をしたりする。
それなりに好きだ。
でも今一番好きなのは、レイオス。
最近新たに雇われた執事見習いだった。
レイオスは、エレナより五つ年上だが、彼女からすれば、レイオスは、奥手だ。もっと来て欲しい。
レイオスは、侯爵家の令嬢であるエレナの積極的な行動に抵抗が出来ない。
主家に逆らえないと言うのもあるが、正直どうしたらいいか分からない。
エレナ様は、美しくて。尊いと思うから。
されるがままになっている。
エレナは、レイオスを見つめる。
彼の瞳も、美しい鼻も好き。
金色のくせっ毛も。困っている顔も。
私の胸を苦しめる。体を熱くさせて、息も絶え絶えにする。
早く、そのふっくらとした唇で私を包んで。
早く・・・。